18 告白のち焼肉 #52
「あずちゃん……」
華雲は何か言いたげな顔をしている。多分二人とも近くで一連の会話を聞いていたに違いはないだろう。それに気を遣うような仕草をしているし。
「お腹がすいたから帰ろう。飛行部を見返したから、今晩はお肉が食べたいな」
何がとも無かったかのように取り繕うことにした。とにかく忘れたい一心で。
「肉食系女子だね、愛寿羽。それじゃあ、おいしい味しい店まで私たちを曳航して!」
「コラ、悠喜菜ちゃんはもう!」
「ま、男ってのは単純だからな。その調子でどんどん告られよう」
なんて軽い女の子なんだろうか。でもありがとう、お陰で少し気が楽になった。
「学割、学割、学割効くところ♪」
陽気にリズムをとりながら笑顔で口ずさみスマホで画面をスクロールする華雲。
「そういえば華雲はどうなのさ? 竹柳君のこと好きだったりしてな。ほらこの間の整備で案外いい感じだったじゃん」
悠喜菜はおちょくった口調で華雲を茶化す。
「それはないよ! だってアイツ話していても素っ気なくて、いつも何を考えているか分からないし、でも要領がよくて整備も器用にこなして……でもやっぱりニガテ」
少々はにかんでいるような表情をしたかと思えば、頬を膨らませた。悠喜菜が何やらよからぬ笑みを浮かべ、小悪魔のような表情を浮かべる度に、こちらまでも身構えしてしまう。
「あいつはきっと人見知りじゃね? 仕掛けるなら今がチャンスだよ。私たちも応援するし、な愛寿羽」
それは勘弁してほしい。いろいろと面倒くさそうなことになりそうだから。私は「えへへ」と苦笑いしながらやり過ごす。これ以上はややこしくなりそうなので、別の話題へ切り替える。
「ところでさっき機体を拭いていたとき『意外と大きいんだな』って言われたけれど、何のことか分かる?」
本人に聞くのが一番だろうが、きっと次に会う頃には忘れていると思ったので、二人の意見を聞いてみることにした。
「あのとき確か後ろに背負ってこうして、それから……あーそういうことか」
悠喜菜はすぐに何のことなのかが分かった様子だった。私はすぐに意識を飛ばしたためそこまで鮮明に当時の状況を覚えていなかった。そのため、まだよく分からない。
「何か分かったの? 悠喜菜ちゃん」
「そうだな、自分の胸元に手を当てながら、よーく聞いてみたら分かるんじゃね?」
「こう?」
「ほら、いいよなー男を魅了出来るモノがあって。きっとリキは今夜ご飯何杯も食べられるだろうな」
それを聞いた瞬間、私は下を向いて静かに叫んだ。
わぁーーーーーー!
「あずちゃん、ドンマイ」
「もう勘弁してってば!」
クスクスと華雲が笑いはじめ、つられて悠喜菜と私も笑う。二人に心が優しく暖められるような心地よさに包まれる。
「だから私はお前らが……」
はっきりと聞こえなかったが、悠喜菜がそう言葉を発したように聞こえた。
「何か言った悠喜菜ちゃん?」
「そうだせっかくだから華雲のためにもリキを呼ぼう。ついでに私たちも親睦を深めるいいきっかけにもなるだろうし。というわけで『このあとご飯いかないか? バス停で待つ』グループに送信っと」
「えっ、ちょっと、まっ」
華雲にとっては送信を止める間もなかっただろう。悠喜菜の素早い操作での送信によって私たちのスマホの通知音が鳴る。
「あらら、送っちゃった。私は別に誘ってもいいと思うけれどね」
「あずちゃんも他人事なんだからー。このデカ乳とフェロモンのたっぷりの色気女子」
「最後の一言はひどいよー。だいたい色気なんて出しているつもりないし……」
「でもあずちゃんは性格もよくて、女の子らしくおしとやかだから、羨ましいなー」
「そんな、華雲ちゃんも私にはない良いところいっぱいあるわ」
「うにゃー、そんなこと言われるとあたしもうれしいな」
満面の笑みの彼女は私に抱きつく。程なくしてすぐにもう一度通知が届いた。
「イチャイチャしているとろ申し訳無いが、リキが来るって華雲」
「え? 本当にくるの?」
その後バス停へと向かい、ちょうど着く頃に竹柳君が合流した。悠喜菜が彼を視認すると私のブレザーを摘まんで、その二人から離された。
「おつかれ!」
華雲が陽気に竹柳君に声をかける。
「お、おう……で、どこの店?」
「駅前の学割がある焼き肉屋さんにしようかと」
「……なるほど」
「焼き肉なの華雲ちゃん?」
何の打ち合わせもしていなかったので、余計に華雲の提案に驚いた。
「あずちゃん大健闘だったし別にいいでしょ?」
「いいんじゃないか、華雲」
「りょうかい、それと二人ともどうして離れているの?」
「まあ、いいから気にするな」
「えーっと皆さん、バスが来るぞ」
「そ……、そうだね、バス来たね」
あの華雲とは思えなぐらい、しどろもどろになりながら竹柳君と会話している。
「あれはくっ付けるには先が長そうだな」
「うん……。私もそう思う」
結局バスの中でも隣り合って座っているのに会話をしている様子はなかった。どう話しだせばいいのか分からずお互いに詰まってしまったようだった。私たちも通路を挟んで反対側から様子を伺うが、安易に話題を振ることができなかった。
こうして無言のままの雰囲気が漂ったまま、私たちは駅近くの焼肉屋さんへ足を運ぶ。今思えば部活の同期――といっても、私たち以外の男子は竹柳君しかいないが、こうして集まって食事をするのは初めて。
「さあ今日は打ち上げということで、ジャンジャン食べよう」
『おー!』
始めは世間話からやがて航空業界の話題になり、思いのほか竹柳君も楽しそうに話してる。私はお肉が好物なことと、いろいろあったこともあり知らないうちに人一倍食べていたようだ。
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