第一章最終話 来訪者の憂鬱

 グーシュリャリャポスティにとってその板に映し出された動く絵は、自身の生まれついての欲求を瞬く間に満たす麻薬のようなものだった。


 何しろ、十八年の今までの人生で興味を抱き、答えを求め続けてきた疑問が次々と解決していくのだ。


 もちろんそれは動画の内容が事実の場合ではあるが、グーシュは動く絵の信憑性を疑ってはいなかった。

 ここまで高度な技術を持つ者たちが、わざわざ彼らから見て未開の野蛮人ごときに、このような手の込んだことをするはずがない。

 それにそれぞれの情報は、ある程度グーシュ自身が考えていた仮説とも一致する。

 つまりは、この動く絵の内容は真実である可能性が極めて高い。


 世界は球体であり。

 星々は一つ一つがこの世界同様の存在であり。

 星々が浮かぶ、漆黒の空間の果てから、彼らチキュウ……いや、地球連邦の者たちは来たのだ。


 世界は、つまらないものではなかったのだ。

 グーシュの心は踊る。

 これからが、自分の人生の本番だと思うと、体の奥底から力が湧いてきた。


 そのためにも、まずは目の前の甲冑もどきと交渉しなくてはならない。

 グーシュは感動の涙を流しながら、目の前の甲冑もどきの手を握る。


 硬く大きな手を握った時の反応。

 相槌を打つ際の頭の動き。

 時折ミルシャの胸元に動く目元の丸い部品。


 それらの反応は間違いなく人間のものだ。

 しかし、明らかに身体構造が人間ではない。


 人間は、あのような形状の物体を身にまとうことはできない。

 では、中身は何なのか?


(中身もすべてからくり仕掛けの歯車騎士……いや、心臓か脳みそが中に入っているのか? ああ! もしかして、うまくいけば思考するのが脳か心臓かも分かるのか!?)


 説話を地で行くような話が、目の前に現実として存在することに再び歓喜が沸き起こる。

 グーシュは情報を手に入れるため、喜びに満ち溢れる自身の心を律し、冷静に相手を見定める。





 一木弘和は困惑していた。

 目の前で泣きながら自分の手を握る皇女様の視線にである。


 一見すると無邪気に動画の内容に感激しているようだが、その眼には強い意志と力があった。

 あの目で見られると、自分の全てが見透かされるような感覚がしてくる。


 そもそもだ。

 自分はただの一般人。

 普通のサラリーマンだったはずだ。

 仕事と残業に苦しみ、娯楽はソシャゲと漫画、アニメ。

 そんなありふれた三十路男が、だ。


 なぜこんな地球から遠く離れた惑星で、カリスマ溢れる皇女殿下と交渉事などしなければならないのだ。


 数人の部下しか持ったことの無い自分が、師団規模の指揮をするなど、手に余る。

 、困惑することばかりだ。

 そしてその困惑や苦労を癒してくれたあの娘はもう、いない。


 一木弘和は心中で嘆き続ける。 


 ああ、全ては。

 地球にやってきた”来訪者”が悪いのだ。


 ルーリアト帝国にやってきた来訪者は、心の底から嘆いた。

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