第38話 六回の表、七番からの攻撃だが

 六回の表、七番からの攻撃だが、一番と同程度の能力がある。ランナーを返す力と再度チャンスを作ることができるセオリー通りの打線だ。  

 そして、先発の雪乃の投球は、八〇球を超え、球の球威もキレもなくなってきている。この炎天下の中で緊張を強いる試合、まして、マッサージも受けず、前の試合の疲れも取れていない。

 そして、夜な夜な出かけていく。

 アンダースローは特に下半身に疲労がたまる。そのため、俺が体のケアーについては万全の態勢をしいていたのに、これでは一〇〇球持たない。

 キレの無くなったシンカーが真ん中付近に入り、左中間に二塁打を打たれた。

 次はツイていない八番だがどうする。控えの光希は今日はツイてない日に当たる。

 俺は腹を決める。ここは動かない。それぞれ役割を決められた打順なら、この八番は二番と同じ役割を担うはず。なら結果を重視するはずだけど、ツイテない八番では思惑どおりの結果には絶対ならない。

 俺は、汐里にサインを出す。

「インコース、ストレートで勝負、変化球は抜ける可能性が高い」

 汐里は頷きインコースに寄って構えるが、投げたストレートは真ん中よりに入った。

 八番打者がおっつけるようにヘッドを遅らせ、流し打つ。

 ファースト葉月が横っ飛びファーストミットを伸ばし、ライナーをミットの先で捕球した。そこまではよかったんだが、無理な体勢から、ランナーが飛び出しているセカンドに送球した。

 この送球が、大きく逸れて、レフトの京まで行ってしまいランナーをやすやす三塁まで進めてしまった。

「しまった。ツイていないのは、葉月も一緒だった」

 ようするに結果は策を弄しても同じだったわけだ。


 ここは、光希にピッチャーを変える。

 九番を宜野座カーブ、シンカー、宜野座カーブで三振にとり、一番打者を向かえる。今日はツイテいる一番だ。ついていない光希では分が悪い。俺は敬遠の指示を出す。

 ワンアウト一塁三塁、ここで警戒すべきはダブルスチールだ。向こうはダブルプレーだけは避けたいはず。スチールを何時しかけてくるかだが、ボールカウント3ボール2ストライクから決め球の宜野座カーブの時に仕掛けてきた。

 作戦を読んでいたが、どうすることもできない。盗塁阻止でストレートを投げればヒットエンドラン、変化球を投げれば、盗塁成功だろう。それほど、今日の光希はストレートが走っていないし、コントロールも定まらない。

 バッターは空振り三振、汐里は三振ゲッツーを狙いセカンドに送球、その間に三塁ランナーがホームに突っ込んでくる。セカンドはきわどいタイミングだったがセーフになり、一点を勝ち越された。

 三番打者には、ストレートを見せ球に、ボールになるシンカーを打たせてピッチャーごろでやっとチェンジになった。

 タラレバだが、結局、光希にボールを返していれば点を与えていない。汐里のとっては、それほど今日の光希の出来が悪いための焦りが生んだプレーだった。


 六回を終わって二対一になった。

 この回追いつかないとみんなが焦り出す。焦りがミスを生み、諦めを生み出す。この回は五番の梨沙からだ。何としても先頭の梨沙が塁にでることが重要だ。

 しかし、相手は先頭打者を出さない細心の配球で、ここまで先頭打者を出していない。

 さすがに監督の指示が徹底している。


 梨沙がベンチから出ていくとき、俺に声を掛けてきた。

「監督、ホームランを狙っていいですか」

「おお、狙ってこい。ただし、四球目を狙え」

 俺は、ステータスに刻まれたスコアブックを見ながら配球を読む。ストレートは四球目、次の決め球の大きく沈むスライダーの見せ球に高めに外すストレート以外狙える球はない。


 しかし、梨沙は三球目を思いっ切り振り切った。

 内角にクロスファイアー気味に入ってくるカットボールだ。しかし、梨沙が思いっ切り振ったバットの根本に当たり、フラフラと小飛球がショートの頭を超え、レフトの前でワンバンドする。結果オーライだ。

「おおーい、誰か梨沙に数の数え方を教えてやれ」

俺は、ベンチの中を見回し暴言を吐いてしまった。すると、光希が俺に反論を掲げる。

「梨沙は、変化球が来ることを読んで、変化球狙いをアピールするために、空振り目的で振ったんです。結果、カットボールが思ったほど変化しなくて、ああなったと思います……」

 なんか、最後は声が小さくなったぞ。でも、思ったほど変化しなかった? 切れが無くなってきたということか。

 たしかに、梨沙ほど観察力があれば、速球か変化球ぐらいは、雰囲気で読んでしまうか。しかし、本当に変化球の切れが落ちているのか?

 次の六番の桃には、送りバントのサインを出す。本来、ノーアウト一塁から出すサインじゃないんだが、ここは絶対に一点が欲しい場面だ。

 桃が、バントの構えから、バットを引きバッテリーを牽制する。

 しかし、相手の投手が投球の後、前進してこない。そして、2ボール1ストライクから、ステータスから警告音が発せられた。

 そして、その投球を、桃がバントとして、ピッチャー前にイージーゴロが転がってしまった。

 しかし、ピッチャーは緩慢な動きでボールを処理して、バッターランナーを一塁でアウトにするのが、精一杯のプレーだった。

 ワンアウト二塁。ここは予定通りの展開だ。しかし、今の警告音は何だったんだ? どちらを勝利に導くプレーだったんだ? 全く分からない。

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