10.いつか、わたしも好きになれたら
「……何よ、それ」
「俺の率直な感想。宝石みたいで綺麗な目だなって」
「……馬鹿みたい」
馬鹿とはなんだ失礼なやつだな。
「タカマル、手」
俺は犬じゃねーんだぞ、と思いつつ言われた通りに手を差し出す。
フィオーラが俺の手を握る。小さくて、少し冷たい手のひらだった。
「目を閉じて意識を集中して。わたしの視界を送るから、タカマルはそれで目標を捕捉して」
「お、おうよ!」
フィオーラの言葉に従って目を閉じる。うわっ、視界がふさがってるはずなのに、なんか普通(?)に見えてるぞ! 何これ、コワッ!?
「落ち着いて。わたしが
「な、なるほど……。凄いスキルだな」
「……お世辞はいいわよ」
別にお世辞じゃないんだけど、今はそんなことを言ってる場合じゃないか。
俺は
ザックの魔力を武装化したときみたいに、限定的に――
よし、イケる! 俺はそう確信する。
「
手の甲に魔方陣が浮かび上がる。そこに魔力が走るのを感じる。機能限定召喚は成功だ。
まずは
「タカマル、正面からくるわよ」
「大丈夫。見えてる!」
こちらの動きに気付いたゴーレムが包囲網の一部を崩して急接近。俺達を取り押さえるつもりなんだろうけど、そんなことさせるかっつーの!
「
こちらに向かってくるゴーレムに空いた手を突き出して叫ぶ。
俺の声に応えて赤黒い瞳をした馬がいななく。それに跨った首なし騎士が霧の中を疾く駆ける。
脇に抱えた頭が光を放つと、瞬時に大剣へと変わり、すれ違い様にゴーレムを一閃した。
「タカマル、後ろ!」
フィオーラの声。考えるよりも先に体が反応した。
死角のはずの後方。そこから襲ってくる敵の姿が、何故か俺——正しくはフィオーラだけど——には
『空間に漂う魔力や空気の流れを読み取り、死角にいるゴーレムの位置を割り出しているのか……』
ザックが丁寧に解説してくれた。
俺は追加の
ゴーレムも反撃してくるが、魔力で強化された鎧の体と槍を持つ
ゴーレムの数が減るたびに、結界に満ちていた霧が薄くなっていく。
『結界術式を分散処理しているようだな。そろそろ、
敵の動きが、敵の位置が、あいつらが何をしようとしているのか。それが、手に取るように分かる。
ゴーレムが遠距離から魔力弾を撃ち込んでくる。フィオーラの右目が魔力の流れからそれを読み取る。フィオーラからの情報を受け取った俺は着弾予測地点に
凄いな。フィオーラの
俺の頭にジョンの言葉が蘇る。
けれど、その力を持って生まれたせいで、フィオーラは本当の家族から……。
「ジニー、もう少しの辛抱よ。タカマルも頑張ってるから」
「う、うん。わたし、平気……へっちゃらっ!」
ジニーが俺の方を見る。強がってはいるけど、不安と恐怖で今にも泣きだしそうな表情に見えた。フィオーラを心配させないように必死に堪えているんだ。待ってろよ、今、こいつらをぶっ飛ばしてやっから!
「オラッ!
俺は自分の全魔力を消費するつもりで、更なる召喚を行う。
「マジで凄いんだな、お前の右目」
「……こんなモノはただの
「でも、その忌みスキルがあったおかげで、俺達二人でジニーを守ることができたんだぞ?」
「……」
「ねぇ、フィオーラ。どうしたの?」
キョトンとした表情でジニーがフィオーラを見上げる。
フィオーラはその頭を空いている方の手で優しく撫でた。
「大丈夫よ。どうもしないわ……」
「わたしもフィオーラの目の色が好きだよ。夕焼けの色みたいで、とても綺麗」
「……そう。ありがとう」
俺はジニーの疑問に答えるフィオーラの声を聞きながら、
「……タカマル、もう、目を開けても大丈夫よ」
「おう」
固く瞑っていた目を開く。そこに広がっているのは本来の俺の視界だった。
繋がれていた手はどちらからともなく離された。
「ねぇ、タカマル……」
「なんだよ」
「この目。いつか、わたしも好きになれるかしら?」
「そんなこと俺が知るわけねーだろ。でも、まぁ、いつかは好きになれたらいいな!」
フィオーラは「そうね」と呟くと、小さく微笑んだ。
霧の消えた結界に光が満ち溢れていく——。
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