5.ゾンビ、亡霊、サメ、パン泥棒
宿舎の食堂で昼飯を食べていたイーサンとジョンがたまたま俺達の話を聞いていたようだ。フィオーラが「盗み聞きとは行儀が悪いわね?」と凄んでみせたが、二人とも特に悪びれる様子もなかった。まぁ、フィオーラも本気で怒ってるわけじゃなかったしな。
俺はイーサン達の申し出をありがたく受けることにした。
二人が昼飯を食べ終わるまで待って、三人で宿舎を出る。
ちなみに、イーサンもジョンも普段は星騎士修道院か下宿先で食事をするそうな。今日は神殿に用事があったので、距離的に近い宿舎の食堂にきたと言っていた。
アーシアさんとフィオーラも誘ったけど、二人とも午後は予定があるそうだ。気分転換にでもなればと思ったのに、タイミングが悪かったな……。
「神星教の神殿がこの街で一番人気の観光スポットですけど、他にもいろいろな名所があるんですよ」
道を歩きながらジョンがそう説明する。
「これから向かう大型高級百貨店もそうですけど、美術館に博物館、劇場なんかも人気がありますね」
大型高級百貨店に行こうと言い出したのはジョンだった。
俺がチョコミントのお茶を美味そうにすすっているのを見て、人気の百貨店でチョコミント博覧会というイベントを開催しているのを思い出したようだ。異世界転移チョコミン党の俺はノータイムで快諾した。
「ミンヨーミンヨーチョコミンヨー♫ 愛しのチョコミンヨー♪」
「なんだよ、その歌?」
イーサンが訝しげな表情で聞いてくる。
「何、イーサンはこの歌を知らないのか? この歌はチョコミントを讃える神聖な歌なんだぞ」
「へー、そんな歌があるんだ」
「嘘だよ。この場で適当に作った歌だよ」
「なんだそりゃ!? ふざけんな!」
「劇場って、やっぱり芝居とかを上演するのか?」
俺はおかんむりのイーサンをスルーしながら、ジョンに聞く。
「そうですよ。劇場は設備も整っているので、王都から人気の劇団がわざわざ巡業にくるんですよ。他にも、歌や楽器の演奏会なんかもやりますね」
「うーん……。オレは劇場よりも芝居小屋の方が好きかなー」
イーサンが頭の後ろで腕を組みながら言う。
「芝居小屋?」
「劇場ほど大きな
「へぇ、どんな演目をやるんだ?」
「
「え、そんな面白そうなのやってんの!? むっちゃ気になるんだけど!」
まさか転移先の異世界でゾンビやスーパーナチュラルやサメを取り扱ったコンテンツにでくわすとは!
「食い付きいいですね……。サメはともかく、
「あー。まーな……」
厳密には順番が逆で、サメはともかくゾンビやゴーストの出てくるホラーが好きだから
「そういえば、魔術士ギルドや冒険者ギルドって、この街にもあるんだよな?」
「ありますよ。教団に
ジョンが冗談めかした調子で聞いてくる。
「勝手にそんなことしたら、ガリアンさんとロッシオさんに怒られるだろ?」
俺の言葉にジョンは「そうですね」と笑った。
「でも、生活魔術は習ってみたいんだよな……」
「確かに、いくつか習得した方が便利かもしれませんね」
「オレは
イーサンが興味なさげに言う。
「そうなのか?」
「というか、それしか習得できなかったんですよ、イーサンは。真面目に受講しなかったんで」
「しょうがないだろ。途中で眠くなってきたんだから。
イーサンはやたら誇らしげに胸を張ってるけど、それを見るジョンは呆れ顔だった。
「魔術士ギルドは街の反対側なんですよね。戻りますか?」
「うんにゃ。今日はやめとくわ。また今度な」
「芝居小屋は百貨店の近くにあるぜ」
「マジか! あとで寄ってもいいか?」
「いいですよ」
ジョンが答える。イーサンも異議がないようだった。
「ちなみに、今は何を上演してるんだ?」
「えーと、
俺の質問にイーサンが答えた。
素晴らしいな。異世界でチョコミントとゾンビを堪能できる。こんなに嬉しいことはないんだ。ゾンビはちょっと前にリアルでエンカウントしたし、なんなら
「キャッ……!」
「うわっ!?」
小さな悲鳴が聞こえた。それとほぼ同時、腹のあたりに衝撃がきた。
道の曲がり角から急に現れた女の子が俺にぶつかり、そのまま道に転がった。
「ごめん! 大丈夫?」
俺は倒れた女の子に手を伸ばす。
小学校に上がるか上がらないかくらいの女の子だった。その顔は酷く怯えているように見えた。
「おーい、その子を捕まえてくれー!」
女の子の走ってきた曲がり角から、エプロンをかけたおじさんが姿を見せた。
それを見た女の子は俺の手を振り払うと、猛ダッシュで逃げ出してしまった。
「どうしたんスか?」
「盗みだよ。店のパンを持っていかれたんだ」
俺の質問におじさんが息も絶え絶えに答える。
おじさんの腹はポッコリと張り出しており、あまり運動に向いた体型とは言えなかった。
「キミ達、その服装は神星教団の星騎士だよね? スキルとかであの子を捕まえられないかな? 私はもう走れないよ……」
「うーん、悪いけどおれ達にもちょっと無理かなー」
おじさんのお願いにイーサンはそう返すけど、こいつの所持スキルって確か……。
そうこうしているうちにパン泥棒の女の子は人混みの中に消えてしまった。
「そうか……。困ったもんだなぁ」
おじさんは頭をかきながらそう言った。
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