4.神話前後
今の時代よりも遥か昔。それはもう気が遠くなるほど昔々のお話。
世界にクソデカな泥の海があったそうな。というか、世界にはそれしかなかったらしい。本にはそう書いてあった。
泥の海に生命は存在しなかった。そこには何もなかった。が、それ故に全てがあった。
ちょっと何を言ってるんだって感じだけど、俺の読んだ本にはそう書かれていたのでカンベンしてくれ。いわゆる、原初の混沌的なヤツかね。ギリシャ神話のカオスみたいな。神話が思わせぶりなのはどこの世界でも同じ。分かんだね。
それはともかく。
ある日、泥の海に来訪者があった。来訪者は【虚なる船】に乗って泥の海に降り立ったとされる。
来訪者は、何も存在しないが故に全て存在する(らしい)泥の海に興味を持った。彼(彼女かもしれない)が、
テラルとグルルは来訪者からもらった設計図を基に、泥の海からいろいろなモノを作った。
星、塩水の海、時間、季節、天候、動植物……。本当に沢山のモノが二柱の神によって生み落とされた。
テラルとグルルは話し合い、それらの一部に【特別な名前】を与えて新しい神にすると、自分達の仕事を手伝わせた。来訪者は黙ってその様子を観察していた。
泥の海しかなかった世界は随分と賑やかな場所になった。
テラルとグルルをリーダーに、世界を創り換えた神様達は、来訪者のアドバイスに従って、自分達の似姿――すなわち人間を作ることにした。
人間はやはり泥の海を材料にして作られた。神様達は作りたての不格好な泥人形に、様々な加護を授け、今の人間の姿に近付けていった。
人間は【可能性を抱く獣】と呼ばれ、神様達から深く愛された。まぁ、自分の子供みたいなものだしな。
神様達は、先に作った動植物に、人間の良き友になるよう命じた。ほとんどの旧い
人間達は新しい世界――神様の中で特に巨大な力を持つテラルから名を取って、テラリエルと呼ばれるようになった――に無事適応した。
たまに戦争や疫病、天災、魔物の侵攻などで滅びそうになったけど、その度に神様の力を借りて、人間は少しずつ文明のレベルを上げていたった。
人間達の文明がある程度まで発展すると、神様達は忽然と地上から姿を消した。
このまま、人間達と一緒に地上で暮らし続けると、早晩、世界運営のリソースが枯渇することが判明したからだ。
何しろ神様だ。存在のスケールがデカ過ぎる。場所も取るし、エネルギーの消費量も半端ない。泥の海が残っていた頃は、そこから必要なモノを取り出すことができたけど、気が付くと泥の海は干上がりかけていた。
神様達は人間のために世界を明け渡すことにした。大地を司るグルルは難色を示したけど、最後はテラルに説得され地上を離れた。
来訪者の協力で、自分達の住まう新しい領域を確保した神様達は、そこから人間を見守ることにした。そこは、地上の泥と同じような性質を持つ暗黒の物質に満たされており、神様達が暮らすのに不便はなかったようだ。
かくして、神々と人間がともにあったようななかったような神代的なアレは終焉を迎えた。
神様達は、巫女などの依り代を介して、新しい住処から
神様達が完全に地上から姿を消した後も、人間は文明を発達させながら増え続けた。
時々、文明崩壊の危機に陥ったりもしたが、ハチャメチャに頑張ってなんとか乗り越えた。
【可能性を抱く獣】は伊達じゃない! ってことだな。
神様達も地上から遠く離れた場所で彼らのことを見守り続けた。
物理的な距離はどうしようもないほど離れてしまったけど、神々と人間の精神的な結び付きは維持された。
双方の関係性は新しいフェーズに移行し、世界は次の段階に進んだ。
人間の時代の幕開けだった。
気が付くと、来訪者は神様達の側から消えていた。
現れた時と同じように【虚なる船】で何処か遠くへ飛び去ったようだ。
神様達は特にそのことを気にしなかったらしい。本にはそう書いてあった。
「自分達とテラリエルに飽きたんじゃね?」
ぐらいにしか思わなかったのかもな。知らんけど。
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