異世界転移ホラー野郎 〜確率的なゾンビの俺が忌みスキル死霊術で世界も女神も救ってみせる、ってマジかよ!?〜
砂山鉄史
プロローグ 雷鳴門鷹丸はいかにして死霊術士になったのか?
1.急いで試写会に行こう
俺は自転車のペダルを必死で漕ぎながら最寄りの駅に向かっている。今日は楽しみにしていた新作ホラー映画の試写会があるんだ。まぁ、遅刻スレスレなんだけど……。
試写会が楽しみ過ぎて昨日はなかなか寝付けなかったんだよな。
仕方がないからスマホゲーの周回をしながら眠くなるのを待った。それが良くなかった。途中で寝落ちして、そのまま昼過ぎまでグッスリ。うっかり、スマホのアラーム設定を忘れていた。かーちゃんが起こしてくれなかったら完全にアウトだったわ。
そんなわけで俺は家を飛び出して、愛用のママチャリを駅に向かって走らせているのだ。
俺の目の前で、横断歩道の信号機が赤に変わった。最悪のタイミングだ。
自転車を止めて左右を確認。車の通りはほとんどない。このまま信号を無視して渡ろうかと思ったけど、やめた。ここで焦って事故でも起こしたら元も子もない。
俺は斜めがけした小さなショルダーバッグからスマホを取り出して時間を確認する。うし、これなら何とか開演時間に間に合うな。
念のため、メールも確認。
※※※※※
この度は、アーチボルト・テイラー監督最新作『ウィジャボード/禁霊のしたたり』試写会にご応募いただき、まことにありがとうございます。
厳正な抽選の結果、試写会に当選いたしましたので、お知らせのメールを送らせていただきました。
試写会の日程は以下になります。
…………
※※※※※
当選を知らせるメールの文章に思わず頬が緩む。
アーチボルト・テイラー監督の最新作『ウィジャボード/禁霊のしたたり』は、タイトルにもあるとおり、海外版のコックリさんであるウィジャボードで呼び出された古代の禁霊(悪霊とか怨霊みたいなモノだ)と古今東西から集まった霊能力者軍団の対決を描くスーパーオカルト対戦映画だ。
多発する撮影中のトラブル——機材の原因不明の故障、映画関係者達の相継ぐ病気と怪我、謎のラップ音、ポルターガイスト現象など——に苦しめられながらも、何とか完成に漕ぎ着けた曰く付きの作品だった。
本国のアメリカでは半年ほど前に公開されており、ホラーファンの評価も上々。いやがうえにも期待が高まるってものだ。
ここで少し、アーチボルト・テイラーとその代表作について説明しておこうか。
テイラーは
「プレザント」の翌々年に発表された『オブ・ザ・デッド・クロニクル』は、過去の名作ゾンビ映画群を現代的な視点で脱構築し、ユーモアとペーソスで味付けしたメタゾンビ映画の快作として一部のホラーマニアの間で話題になった。
続く三作目の『スピリット・シャーク』は、現代社会の裏で暗躍する邪悪なシャーマンが召喚した
これがアメリカの某大手配給会社の目に留まり、そこの出資で制作した四作目『脳味噌大爆裂
俺は地元のミニシアターでたまたまリバイバル上映していた「プレザント」を観てテイラーにハマった。確か、『スピリット・シャーク』が公開されて少し経ったぐらいのタイミングだ。
俺は「プレザント」と『スピリット・シャーク』の上映期間中、足繁く劇場に通い中学生の少ない小遣いをテイラーに貢いだ。小遣いが足りなくなってお年玉の前借りをした。かーちゃんはメッチャ渋ったけど。
信号の色がなかなか変わらない。わずかな時間が無限に引き延ばされているような気になった。
試写会の一週間後に一般公開が控えている。当然、そっちもリピートだ。
円盤も買う。通常盤と(多分出る筈の)特装版の両方だ。
バイトのシフト増やそうかな。でも、また成績が下がったらバイト禁止になりそうだしなぁ……。まぁ、来年の今頃は大学受験の準備でバイトどころじゃないんだけど。
信号の色がやっと赤から青に変わった。
俺は自転車のペダルを強く踏む。
その時だ。
巨大なトラックが轟音をたてながら、信号を無視して突っ込んできた。
唐突過ぎる展開に、俺は声をあげることができなかった。
トラックが眼前まで迫って来る。死の間際で、世界がスローモーションのようにゆっくりと動き始めた。
遅滞した景色の中で、俺はトラックの運転席でドライバーのおっさんが居眠りしていることに気付く。
俺はこのままトラックに轢かれて死ぬのだろうか。ガンダムのAパーツとBパーツみたいに上半身と下半身がバイバイして、男子高校生の粗挽きにでもなるのだろうか。スプラッターは好きだけど、自分が丸太になりたいワケじゃないんだけどな。
そんなことを考えているうちに、過去の思い出が次々と脳裏に浮かんできた。すわっ、これが走馬灯かっ!?
人間が死ぬ直前に走馬灯を見るのは、その中から生き伸びる手段を探すためという説があるけど、あれは嘘だな。頭の中で繰り広げられる思い出劇場の断片に、目と鼻の先にまで迫ったトラックを避ける方法なんて存在するはずがない。
過去の幻影の中に、今よりもだいぶ若いとーちゃんとかーちゃんが現れた。ふたりとも珍しくフォーマルな服を着ていた。続けて、ふたりに手を繋がれた小さな男の子が現れる。白いシャツと黒い半ズボン。幼い頃の俺だった。まわりに似たような格好をした複数の家族が現れる。桜の花びらも舞っている。これは、小学校の入学式の風景だ。とーちゃんとかーちゃんと幼い俺はそろって笑顔を浮かべていた。それを見て鼻の奥がツンと痛んだ。
俺が死んだら、とーちゃんとかーちゃんは悲しむだろうな。かーちゃんは俺の親不幸にキレ散らかすような気がするけど。……まぁ、それでもきっと泣いてくれるんだろうな。
それにしても、トラックは俺の人生を終わらせる
どうなっているんだろう? 疑問に思ったその時だ。
『期待に応えられなくて心苦しいけど、君はここで死ぬわけじゃないんだよ』
どこからともなく、声が聞こえてきた。
「期待って、俺は別に死にたいワケじゃないんだけど……」
そう呟いた俺の眼前で、眩いほどの光が弾けた。
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