第5話:逃避行
天を翔け地を駆けるとは、魔虎ちゃん達の事を表現する的確な言葉です。
難しい事は苦手ですが、それも公爵令嬢で王太子の婚約者でしたから、嫌でも恐ろしいほどの量の勉強を強要されたのです。
その度に魔境の悪い魔獣の数が減っていきました、八つ当たりですね。
まあ、そのお陰で、たくさんの家出資金が手に入りました。
「「「「クッオオオオオオオン」」」」
魔虎ちゃんが定期的の雄叫びをあげてくれますが、これは魔獣除けのためです。
弱いくせに妙に攻撃的な魔獣が多いのです。
見境なしに私の襲いかかってくる魔獣が多過ぎます。
でも、流石に、魔虎ちゃんが四頭もいると、諦める魔獣も結構います。
今は急いで新しい家に行きたいので、余計な戦いは避けたいのです。
そんな私の気持ちを汲んで、魔虎ちゃん達が魔獣を追い払ってくれます。
「お腹すいたでしょ、はい、どうぞ」
私は魔法袋から魔虎ちゃん達のご飯を取り出しました。
この世界に来てからは、料理は使用人がするモノだと、絶対にやらせてもらえませんでしたが、前世では独り暮らしで自炊していたのです。
バイトに忙しくて、凝った料理をする時間はありませんでしたが、普通に焼き物や炒め物や煮物は作っていました。
だから、魔虎ちゃん達のご飯は自分の手で作ってあげたかったのです。
まあ、逆に無理矢理やらされたこともあります。
手芸などは、レディースの仲間に頼んでやってもらっていたので、前世では全くやっていなかったのに、この世界では令嬢の嗜みだといって、無理矢理やらされた!
あのチクチクと肩の凝る作業を延々と繰り返させられたのは、私にとっては拷問以外の何物でもなかった。
まあ、そのお陰で、自分で魔法袋を作れたのだから、そう文句も言えないですね。
「「「「「ギャッアアアアアア」」」」」
ちっ、ステュムパーリデスも群れが襲いかかってきました。
自分達の実力も私達の力も理解できない馬鹿な鳥です。
翼の先と嘴と爪が青銅でできている鳥で、それなりの攻撃力があります。
二〇〇羽くらいいるので面倒ですが、負ける相手ではありません。
青銅は少し価値がありますが、今の私にははした金ですし、そもそもこれからはお金と無縁の生活をするので、斃して意味がありません。
いえ、困った存在になります。
この手で殺した以上、命を無駄にするわけにはいかないので、食べることになりますが、ステュムパーリデスはあまり美味しくないのです。
それに二〇〇羽以上もいたら、何十日もステュムパーリデスを食べ続けないといけないのです。
本当に腹の立つ奴です!
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