第3話:弟の分際で

「さあ、自分のやった事の責任ととってもらいましょうか!」


 私は弟のオスカルに詰め寄った。

 なんとしてでも、こいつにもサインと押印させなければいけない。

 抵抗するようなら、ボコボコのタコ殴りにする事も辞さない。

 それだけの決意を眼に込めて脅かしてやりました。


「それは構いませんが、行く当てはあるのですか、姉上?」


 私の決意など知らないように、オスカルがあっさりと承知する。

 肩透かしを喰らった気分だが、私はそんな事で悩むほど複雑な性格ではない。

 サインと押印をしてくれるのなら、私から長引かせる気はない。

 

「当てくらい幾らでもあるわ、でもどこに行くかは教えないわよ」


 私は事前に予防線を張っておく。

 こいつに話してしまって、ペラペラと喋られてはかなわない。

 特に国王と王妃に話されてしまったら、騎士団を差し向けても連れ戻そうとする。

 あの鳥頭を操縦して、国の舵取りができるのは私だけだと、妙に頼られてしまっているのだ。


「いえ、そこまで聞こうとは思っていませんよ。

 お金と食料はもっておられるのですか?

 王都の外は、随分と治安が悪いと聞いていますよ」


 泣き虫の女装癖弟のくせに、姉を心配するなんて生意気ですね。

 でも、口先だけでなく、本気で心配してくれているようなので、許してやります。


「直ぐに泣く弱虫の弟のくせに、生意気な口を利くんじゃないわよ。

 この日の為に以前からちゃんと準備をしているわよ。

 逃亡資金も貯めてあるし、食糧も確保してあるし、護衛も用意しているわ。

 お前はさっさとこれにサインと押印すればいいのよ」


 私が斬り捨てるように話すと、オスカルが傷ついたような顔をする。

 そもそもお前が今回のきっかけを作ったのに、何故そんな顔をする?

 私が普通の貴族令嬢で、王太子がまともだったら、私は自殺するくらい傷ついていたのだぞ、お前はそれが分かっているのか!

 ええい、何故私が罪悪感を感じなければいけないのだ?


「分かりました、姉上、直ぐにサインと押印をさせていただきます。

 ただ父上や母上に伝える事はありませんか?

 学園の御学友に伝えることがあるのなら、私がお伝えさせていただきます」


 本当に、気が利くのか、神経を逆なでしようとしているのか、苛立つ弟です。

 前世の記憶がるので、この世界の両親への愛情は微妙ですが、それでも相応の愛情は持っているのです。

 ここで両親への伝言などと言われたら、逃げ出す事に罪悪感を感じてしまう。

 学園の友人達にも、色々な思い出があって、別れ難い友人もいるのです。

 泣き虫の弟の分際で、本当に苛立つ奴です!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る