第5話 仲間

 生成と一緒に、鬼退治へと向かう事となった。この村を抜け、街道に出た。少しにぎやかになってきた。茶店などもある。銭は懐に隠してある。持っている事を悟られてはならないと、前に寺子屋で習ったのだ。銭を見た者の半分は、泥棒になると教わったのだ。

 生成は黙ってついてきた。こいつは暇なんだろうか。いくらきび団子が欲しかったとはいえ、家を長く空けて平気なのだろうか。

「おい、お前、なぜ鬼退治に行く気になったのだ。暇なのか?」

俺は声をかけた。生成は両腕を頭の後ろに組んで歩いていた。

「俺は暇だ。この前、鬼に親兄弟を殺された。家も壊され、畑も荒らされた。どこに行こうが、野たれ死のうが、誰にも迷惑はかからないのだ。」

「お前も・・・そうか。」

「朱李は、どうして鬼退治をしようなんて思ったんだ?」

生成が逆に聞いてきた。

「俺も昔、両親を鬼に殺された。鬼の所業は許せん。何とかしたいんじゃ。それに、この間鬼を一匹倒した。手応えを感じたんじゃ。何人かで協力すれば、きっと鬼どもをやっつける事が出来ると思うんじゃ。」

「鬼を倒した!?どうやって?」

生成は目を丸くした。

「この木刀で。」

俺が腰に差した木刀を指すと、生成はその木刀を凝視した。

「・・・それで?」

そして、木刀を指さした。

「そうじゃ、これで突いて、叩いた。」

「あははは、そりゃすごいな。」

生成は笑った。俺もつられて笑った。

「鬼、大したことないな。あははは。」

生成がそう言った時、俺たちの目に鬼が映った。

 はっとして立ち止まった。関所だ。街道には関所がある。昔はお役人が立っていたものだが、今は鬼が立っている。

 そういえば、鬼を倒した時、その鬼は金棒を持っていなかった。鬼にも階級があるのだろうか。そしてこの関所に立っている二匹の鬼は、金棒を手に持っていた。

「生成、行くぞ。」

「おうよ。」

二人でそう言い合い、俺が木刀に手をかけて走り出そうとした時、ざっと俺たちの前を一人の若者が塞いだ。

「待て待て、お前ら何考えてんだ!」

その若者は手を前に突き出し、俺たちの体を止めた。

「何って、鬼を倒すんだよ。」

俺が言うと、

「バカか。殺されるぞ。」

その若者が言う。俺はちょっとカチンときた。

「俺はバカだが、鬼を倒した事がある!そもそも鬼退治の旅をしてるんじゃ。あの鬼を倒して何が悪い!」

そう言うと、その若者は一瞬黙った。

「どこへ行くのだ?」

それからそう聞いてきた。

「鬼ヶ島。」

俺が言うと、またその若者は考え込み、

「そうか。ちょっと話そうじゃないか。」

と言った。俺と生成は目を合わせた。

「まあ、いいだろう。」

俺たちは少し奥まったところへ移動した。


 その若者の名は、青竹(あおたけ)という。町人のようだ。

「鬼を倒した事があるのか?」

その青竹が俺に聞いた。

「ああ。ついこの間だ。」

俺が答える。

「どうやって?」

と聞くので、生成に説明したのと同じように話してやった。青竹はやっぱり、それで?!と、木刀を指さして驚いていた。

「待て。金棒はどうした?」

青竹が言う。

「ああ、その事なんだが、俺の村を襲った鬼どもは、金棒を持っていなかったんじゃ。考えてみたら、金棒を振り回されたら木刀は・・・折れるかな?」

「だろうな。」

青竹は即答した。

「俺は、武器を持っとらん。」

生成が唐突に言った。

「あっ!どうするんだ?」

俺はその事に初めて気づいた。

「俺は、相撲が強いんじゃ。熊を倒したこともある。武器なんかいらん。」

生成が言う。

「いやいや、それはまずいでしょ。」

青竹が言った。

「そうしたら、金棒を手に入れてはどうだ?」

青竹は、更にこう言った。

「鬼から奪うのか?」

生成が言う。

「そうだ。今関所にいるのは二匹の鬼。我々三人でかかれば、何とか倒せるのではないか?幸い、俺は既に金棒を一本持っている。」

青竹がそう言うので、

「えー!?どうやって手に入れたんだよ?」

俺と生成が同時に叫ぶと、青竹は指を口の前で立てた。

「シー、声が大きい。俺はな、鬼がちょっと金棒を置いた隙に盗んで来たんだ。それ以来、家の中に保管している。」

「すげえ。」

俺と生成は感心した。

「朱李、お前がその金棒を持って鬼を倒し、金棒を更に二本手に入れようじゃないか。」

青竹が言う。

「青竹、お前も鬼退治に加わってくれるのか?」

「え?!そんなわけないだろう。俺は頭は働くが、腕の方はからっきしだ。今回は手伝うが、それ以上は無理だよ。」

青竹は狼狽して首を振りながら言った。

「けど、それならなぜ今回は手を貸してくれるんじゃ?それに、こっそりと金棒をくすねるなんて、鬼を怖がっているやつのする事とは思えないけどな。」

俺が言うと、青竹は一瞬黙った。

「それは、鬼に親を殺されて、憎らしいからさ。誰かに倒して欲しいってずっと思っているんだ。」

「それなら、尚更俺たちに加わってくれよ。ほら、このきび団子やるから。」

俺はきび団子を出して青竹に一つ差し出した。青竹はきび団子を一つ掴み、口に持って行った。

「うまい!」

「だろう?俺も、一つ・・・。」

生成がそう言って手を伸ばすので、

「お前はもう食っただろ?」

俺はきび団子をさっさとしまった。

 青竹はきび団子を食べ終えると、しばし考え込んだ。そして、

「分かった。俺も一緒に鬼ヶ島へ行くよ。でも、まずその前に関所の鬼を倒さないとな。今は、関所を通れる者はいないんだ。通ろうとすると鬼に殺される。よっぽど豪勢な食べ物でも差し出せば、あるいは通れるかもしれないが・・・俺たちにはそんなものは用意できないし。」

「青竹!」

俺は感極まって青竹の手をガシッと握った。

「そうか!一緒に行ってくれるか!ありがとう。」

青竹の手を握った俺の手を、生成が更にガシッと握った。

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