第3話 手応え
手応え。そう、手応えを感じた。ずっと怯えているだけだったのが、戦えるという実感が湧いた。
「じいちゃん、ばあちゃん。俺、鬼退治に行ってくる!」
家に中に入り、唐突にそう言った。
「はあ?何を言っとるんじゃ。」
「バカも休み休み言え。」
相手にされなかった。
次の日から、俺はあちこちに鬼退治の話を持ち掛けた。だが、誰も相手にしてくれない。剣術の達人である宗達先生ですら、
「無理じゃ。鬼にかなうはずがない。」
と、こうだ。
「どいつもこいつも、意気地がねえ。」
俺は木に登ってふて腐れた。
この間の鬼の襲撃で、矢七の母ちゃんが殺された。矢七はしばらく寺子屋に顔を見せなかったが、十日余り後に久しぶりに姿を現した。
「矢七・・・大変だったな。」
俺が声をかけると、矢七はコクッと頷いた。それから、かっと目を見開いて俺の顔を見上げた。
「朱李、お前鬼をやっつけたそうだな。俺の、俺の母ちゃんの仇を取ってくれよ。母ちゃんを殺した鬼は赤鬼だったんだ。あの鬼を、やっつけてくれよ!」
矢七はそう言って俺の肩を揺すった。
「矢七・・・。おう、分かった。必ずその鬼を倒す。お前の母ちゃんの仇を取ってやる。」
俺は思わずそう言った。
「矢七、俺がいない間、俺のじいちゃんとばあちゃんの事を頼む。」
寺子屋からの帰り道、矢七にそう言った。
「え?どういう事?」
「俺、鬼退治に行ってくるよ。明日にでも出かける。」
「は?何言ってんだよ。」
「お前、俺に仇を取ってくれって、言ったじゃないか。」
「言ったけど・・・鬼退治って、どこへ行くんだよ。」
「鬼ヶ島じゃ。聞いたことあるだろ?この道をまっすぐ行った先に海があって、そこに浮かぶ島に鬼が住んでやがるんだ。そこへ乗り込んで行って、鬼を全てやっつけてやる。そして、お宝をたんまりもらって帰って来るさ。」
俺がそう言うと、矢七は言葉を失った。しばらく黙って歩いてから、矢七が口を開いた。
「お前独りで、どうにかなるのか・・・?」
俺は矢七を振り返った。確かに、独りではせいぜい鬼を二、三匹倒せるかどうかだろう。だから、仲間を集めないとならない。
「そりゃ、仲間が必要だ。だが、この村じゃとてもじゃないが集まらねえ。仲間を探しながら行くさ。」
「・・・お気楽というか、行き当たりばったりというか。だが、とにかくお前の家の事は任せろ。俺の親父にも言っておくから。」
「おう、頼むぜ。」
とにもかくにも、約束は成立した。
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