第2話 襲来

 「朱李(しゅり)のやつ、ずいぶんでっかくなったなあ。いくつになったんだい?」

「そうさな、十六かな。」

「よく働くよなあ。身の丈はいくつだい?」

「六尺(180㎝)はあるぞ。」

「へえ、一間じゃねえか。そりゃすごいな。」

畑仕事をしていると、隣の畑のじいさまがやってきて、俺のじいちゃんに話しかけた。俺の身の丈が一間(180㎝)あるのは本当だ。

「何食ってそんなにでかくなったんだ?」

「きび団子じゃな。うちのばあさんのきび団子が、朱李の大好物なんじゃ。」

じいちゃんがそう言ってふぉっふぉっふぉと笑った。

 寺の鐘が鳴った。

「朱李、鐘が鳴ったぞい。そろそろ行きない。」

じいちゃんからそう言われた。

「おう。」

俺は走って家に戻り、読み書きの道具をひっつかんで寺子屋へ向かった。


 眠い。朝から畑仕事してるから、座らされると目が・・・閉じそうになる。

「朱李、分かるか?」

「は、はい!」

先生に名を呼ばれて、とっさに返事をしたものの、分かるわけがない。

「お前なあ。図体はでかいのに、頭の方はまだまだじゃのう。」

返す言葉もない。

「ここはほれ、こうじゃ。よく覚えておきなさい。」

「・・・はい。」

勉強はあまり得意ではない。それより、剣術の方が好きだ。勉強の後の、剣術の稽古のためにここに通っている。ここの宗達先生は、剣術に長けた御仁なのだ。

 ようやく読み書きの時間が終わった。しかし、次はそろばんだ。早く剣術がやりたい。

「朱李、どうしたよ。元気がないな。」

「いや、眠いだけじゃ。お前は勉学が得意で良いのう。」

こいつは一つ年下の矢七。

「朱李は強いじゃないか。うらやましいよ。」

「ふん。」

矢七め、気取った言い方をしよる。


 剣術の稽古を終え、家に帰る途中。突然村の警鐘が鳴り響いた。

カンカンカンカン

「鬼じゃー!鬼が来たぞーい!」

遠くから、村の者が走って来た。

「何?!鬼が?」

俺は走って家に帰った。じいちゃん、ばあちゃん、無事でいてくれ!

「じいちゃん!ばあちゃん!」

二人は、警鐘を聞いて家の中に入っていた。良かった。まだ鬼はここまでは来ていなかった。

「鬼が来るのか?」

じいちゃんが言った。

「分からん。さっき村の者が来ると言っておった。けど、ここ一年くらいここには来ておらんからな。そろそろ来る頃だろうよ。」

「そうじゃな。ああ、鬼が来たら畑も荒らされて、家も壊される。何とかならんかのう。」

じいちゃんは震えながら言った。

「それより、命を取られたらたまらん。食べ物くらいくれてやっても構わんから。」

ばあちゃんが言った。

 俺は、木刀を手に取った。そして家の外へ出ようとした。

「これ、朱李や。ここから出てはならん。」

「じいちゃん、大丈夫じゃ。俺が鬼をここには入れさせない。」


 外に出ると、小鬼らが何匹か見えた。畑に植えてある野菜を引っこ抜き、木に成っている果実をもぎ取る。それに飽きたらず、人家に押し入り、中を荒らす。人の悲鳴が響く。俺は木刀を握る手に力を込めた。

「鬼め、許さん。」

青いのが、こっちへ向かってやってきた。うちに入ろうというつもりだろう。

「そうはさせん!」

俺は木刀を構えた。鬼が恐ろしい跳躍力でとびかかってきた。

「えい、やあ!」

鬼の頭に一撃を食らわせた。鬼はうめき声をあげてよろめいた。だが、すぐに体制を整えてとびかかってくる。

「とりゃあ!」

次は鬼の胸を突いた。一発、二発、三発。そして、飛び上がって頭から木刀を振り下ろした。

「うぎゃあ。」

青鬼はひっくり返った。それを見た他の鬼が、うおーと言って集まってきた。まずい。俺は木刀を構えた。だが、鬼たちは俺に襲い掛かっては来なかった。そして、倒れている青鬼を二匹の鬼で担ぎ、去って行った。

「勝った・・・?」

鬼を撃退できた。今は一匹しか倒せなかったが、何人かで協力すればきっと、鬼を倒す事が出来るのではないか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る