第59話

 数台の馬車の周りを、護衛を乗せた何頭もの馬が走っている。

 まだ、肝心の魔物の姿は現れていない。もしかして、間に合うかもしれない。


 ……そう思ったのは甘かった。


 GUOOOOOO!

 GYAGYAGYA!

 KYAAAAAAAA!


 獣の雄叫びなんか目じゃないくらい、身体の中心に響くような叫び声が聞こえてくるようになった。ドシドシと響く足音や、森の木々が倒される音が近づいてくる。こんなに距離があるのに……どれだけ大量の魔物がやってきてるのか。それよりも。


「か、母様たちは!?」

「おそらく、ご領主様の馬車を守りながら、殿を務めてらっしゃるのかと」


 そう言われて、ジッと見るけれど、馬車の後ろに続く護衛たちの姿しか見えない。

 他の冒険者や兵士たちは!? 


「あ、ああっ!? 兵士たちが、森から一気に出てきました。あ、まずいっ! あのままでは、街道に戻る前に、魔物に追いつかれるっ」

「なんですって……」


 衛兵の言葉に、青くなり、彼の持っていた望遠鏡を奪って、覗き込む。

 ほとんどの兵士たちは街道を走っているが、冒険者と思われる者たちが街道から外れたところから、わらわらと出てきている。彼らは後方に気を取られていて、土壁に気づいていないのか。


「風の精霊さん、力を貸してっ」


 ミーシャとのやりとりで声を伝えることができるのがわかったから、もしかしたら、拡声器としても使えるのではないかと思ったのだ。案の定、土壁を作る時、離れたところにいた土の精霊に指示を出すのに、何度も使わせていただいたのだ。


『みんな、街道に向かって走って!』


 私の声が届いたのか、冒険者や兵士たちが一気に街道の方へと走っていくのが見えて、ホッとする。


「母様たちの姿はまだ?」


 街道を走る兵士たちの姿がなかなか途切れない。じりじりとしていると、森の外れから、小さな魔物たちがバラバラと姿を見せ始めた。


「早く、早くっ……ああ!」


 本当に最後の最後、母が馬に乗って領都の方に走っている姿が見えた。そして、その脇に巨大なスレイプニルに乗るへリウスの姿もある。


「そのまま、真っすぐ走って……」


 そう願っていると、なんと母が馬上に立ち上がった。中国雑技団!?

 母が何をしようとしているのかがわかったのは、空でいくつかの光が瞬いたから。


「まさか、あれが」


 ――メテオラ(流星弾)。


 あれが着弾した時の爆風の威力は、予想できない。おじいさまたちはすでに土壁の中を走っているけれど、多くの兵士や、冒険者は土壁の外にある街道を走っている。間に合うのか。そもそも、母たちが無事に済むのか。


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