第56話
王都方面にも、魔物の波は向かっているはずだけれど、あちらには『守護の枝』を使った王都を守る結界がある。王都周辺の貴族の領地は、酷いことになるかもしれないが、最悪、王都だけは守られるだろう。
「なんで、私の手には力がないんだろう」
自分の掌を見つめながら、無力感に苛まれる。しかし、そんなことで悩んで時間を割いている暇はない。私は大きく息を吐いて、気合を入れる。
「……周辺の村々はどうなってるの」
「事前に周知されていたのもあって、ほとんどの者たちは城下に避難しています」
「いつの間に」
「メイリン様、ここは辺境と言われる土地です。皆、多少の異変には、慣れておりますよ」
「いや、全然、多少じゃないわよね」
私が呆れながらも、どこか自慢げなキャサリンにそうツッコんでしまう。
そんな中、今度はノックもせずに、ドアが勢いよく開く。
「メイリンッ、冒険者ギルドに避難誘導の指示と防衛の通達が来たようだが、大丈夫かっ」
厳しい顔つきのへリウス。久々にそんな真剣な顔を見て、少しドキッとする。
こんな時にする反応じゃないでしょ、自分!
「私のところにも、母様から連絡が来ました」
「ファリアから! 何と?」
「城門を閉じて襲撃に備えろとのことです」
「くそっ……あいつでも抑えられなかったとなると、最悪、アレをやる可能性もあるか」
顔を青ざめるへリウス。
「アレ?」
「メイリン、悪いが、俺もファリアの所に向かうぞっ」
「え、なんで? ていうか、アレって何のことよ」
「もしかしたら、ファリアの最大魔法、メテオラ(流星弾)を放つかもしれん」
「……は?」
――母様、そんなスゴイ魔法使えたの?
魔法で戦うよりも、肉弾戦なイメージしかなかった母。実際、訓練の様子でも、魔術師の部隊よりも、騎士たち相手にしているのしか目にしてこなかったのだ。
私の頭が真っ白になっている間に、へリウスは飛び出して行ってしまっていた。
「え? あ、ど、どうしよう」
メテオラなる魔法の威力なんて、想像がつかない。でも、城門を閉じれば済むような規模にも思えない。
「と、とりあえず、年寄や女性、子供たちを城の地下へと避難させて。万が一、魔物たちが侵入してきた時に、城下では守り切れないわ」
「わ、わかりました」
執務室から飛び出しているキャサリンを見送ると、私は力なく椅子に座り込む。
「他に……他に私に出来ることはないの……」
そんな私の目の前に、いきなり、ぽわんと淡く緑に光る玉が現れた。ミーシャが置いて行ってくれた、風の精霊だ。ほとんど姿を見せないから、すっかり、そんな存在、忘れてた。
「あ」
緑の玉が激しく私の周りを動き回って、何かを主張しているようだけれど、その意図が伝わらない。そもそも、この子に、どんな力があるんだろうか。ミーシャが残していってくれたけれど、詳しい話を聞く暇もなかった。
「ごめん、全然、わかんない……ああ、ミーシャがいてくれたらっ!」
『うん? 何、何~?』
私の悲痛な声に反応するかのように、突然、ミーシャの声が聞こえてきた。
「え、え? えぇぇぇぇぇっ!?」
……思わず私が叫んでしまったのは、仕方がないと思う。
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