第46話
憂鬱な気分に押しつぶされそうになった時、部屋のドアが叩かれた。
ドンドンッ
ドアをノックする音で、相手がわかる。使用人たちは、もう少し遠慮気味にノックする。こうも遠慮のない叩き方をするのは、ミーシャだ。
「はい」
『入ってもいい?』
やっぱり。
短い滞在期間だというのにすぐにわかってしまって、つい笑みが零れてしまう。
「どうぞ~」
「……あれ、寝てた?」
「あ、ううん。ちょっと横になってただけ」
ベッドから身を起こしたところを見られた。まぁ、ミーシャだからいいか。
彼女が、まさかの日本人だと言うのを教えてもらったのは、こちらに戻った翌日のこと。それも、私のように転生ではなく、死にかけのところを強引に召喚されたらしい。その召喚した連中は、すでにそれなりの報いを受けているそうだ。
そして、今では薬師として、あちこちを点々としているとか。
私が転生者だというのは、『ロリコン』というキーワードが決定打になった。そりゃそうだ。こっちにはそんな言葉はないもの。
その上で、神様から聞いた話、ということで転生のことについて教えてもらった。
なんでも、地球からの転生自体が珍しいことなのだとか。ミーシャがこちらに来て、まだ数年らしいのだが、そんなところに、短期間のうちに私がいるのはおかしいらしい。
もしかしたら、すでに私自身が過去に一度、あるいは、何度か、こちらで輪廻転生の輪に入っていたのではないか、というのだ。
でも、私とミーシャの会話の感じからも、大きな時代の誤差は感じられない。ほぼ同時期じゃない? って思うのだけれど、もしかしたら、地球と、こちらの世界とでは、時間の流れというのも、違うのかもしれない。
なんとも不思議な話で、そもそもが神様と話をした、なんて、普通なら信じられないし、そうなの? としか言いようがない。だけど、自分の前世、なのか、前々世なのか、その記憶があることを考えると、一概に信じられない話ではないのかもしれない。
「そろそろ帰ろうかと思って、挨拶に来たの」
「え、帰るって」
「うん、これでも一応、お世話になっている家があるのよ。その保護者から、そろそろ帰ってこいってお達しが」
苦笑いしながら言うミーシャ。そんな彼女にも帰るところがあったことに、少し、ホッとする。
「それでね。メイリンちゃんに渡しておきたいものがあってね」
「え、何々」
ミーシャが掌を私の方に差し出した。
「……うん?」
「あ、見えないか」
空っぽの掌を見せられて、首を傾げている私に、ミーシャが今更気付いたみたいに言葉にする。
「姿を見せて」
ミーシャの言葉に、ぽわんと淡く緑に光る玉が掌の上に浮かぶ。
「え、な、何、これ」
ふわふわと浮かぶソレに目が釘付け。
「この子は風の精霊」
「せ、精霊!?」
その言葉に反応したのか、スルリと宙を舞う光の玉。そして、驚きで声がでない私。
魔法のある世界にいるのは自覚してはいたものの、精霊までいるとは知らなかった。
光の玉は私の方に近寄ってきたので、私も掌を開いてみせると、その上にとまった。顔があるわけでもないのに、何やらこの子はご機嫌なのが伝わってくる。
「普通は姿は見せないんだけどね。一応、精霊魔法を使う人とか、一部の人には見えるみたいだけど。この子を置いていくね。ていうか、メイリンちゃん、王都で勉強してたって聞いたけど、なんで、そんなに驚いてるの?」
「……魔法関係はまったく教えてもらえなかったのよ。おかげで、伝達の魔法陣も使えないの。前世で使ってた電話とかメールとか思い出したら、もう、不便で不便で。逃亡中の苦労ったらないわ。今思うと、なんでって思うくらい魔法とは接してなかったわ」
私の掌の上で、ポヨポヨ浮かぶ光の玉に自然と口角があがる。うむ、可愛い。
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