第8章 狼は実は大型犬だったようですわ
第45話
実家である辺境伯領に帰って来て3日。
その間、ヘリウスと直接会話をすることはなかった。しかし、部屋から出る度、近寄ってはこないものの、私の視野に入るところにいる。護衛か何かのつもりなんだろうか。
砦のようなこの屋敷の中に、スパイや暗殺者が紛れ込む可能性がないとは言えないけれど、彼のようなA級の冒険者が居続けるのも、どうかと思う。一応、タダ飯食らいにならないようにと、うちの私兵団の訓練に参加しているらしい。母もそれは許しているようだ。
パティについては、その後どうなったのかは、わかってはいない。母からは始末しろと言われていたが、ヘリウスにそれができるのか、大いに疑問だ。
正直、自分はヘリウスの番、と言われても、いまだにピンとこない。
それでも、目が合う度に切なげに見られることに、ちょっとドキドキしてしまうのは、許してほしい。何せ、ホント、外見だけなら好みドンピシャなのだ。
今では、王太子のアルフレッドのどこがよかったのか、さっぱりわからない。マリアンヌにのし付きで贈呈したいくらいだ。
あれから、獣人のことについて、母から色々と教わった。
なんというか……人族のそれとは大いに違うことを痛感した。理解は出来ても納得は出来ない、そういう感じ。
基本、獣人は一夫一婦制らしいのだけれど、それに至るまでは、なかなかどうして、お盛んな模様。ある意味、自分に合う相手を探すことに貪欲なのかもしれない。
当然、もう四十過ぎのヘリウスが、過去に女がいなかったことなどないのは、私にでも想像がつく。それこそ、娼館にだって通っていただろう。
精神年齢28才の私だから、過去の女のことまでは許せる。そこまで潔癖ではないつもり。
――しかし。パティは駄目だ。
『14歳の私』が、許せない。
肉体関係まではなかった、と言われても、あんな風に見せつけられて、我慢なんかできるわけがないのだ。
* * *
自室の窓辺で、外の景色を眺める。
どんよりとした曇り空の下に、濃い緑の森が広がる。その先には、辺境の町が見えるけれど、周囲はほとんど森に覆われている。この砦の裏側には、もっと深い森が広がっている。それこそ、隣国、ナディス王国へと繋がる深い森。
こうして、前世の記憶を取り戻した私として見る辺境の森は、必死に越えてきた魔の森の風景と重なる。すると、どうしても、あの二人のイチャイチャしていた姿が脳裏に浮かんで、苛々してしまう。
関係ない、関係ない、と頭を振っても、どうにも消えない。
「もう、なんで消えないの」
……たぶん、自分でもわかってる。
番という運命に縛られたくはないけれど、やっぱり、あの人への執着が、私の中にも芽生え始めてしまっている。
ヘリウスの傲慢な顔と、屈託のない笑顔。そして、最近一番多く目にする、切なそうな顔。共に過ごした時間に、心の奥に植え付けられてしまったようだ。獣人程ではないにしても、私の中にも番への想いが生まれてしまったのだろうか。
窓際から離れ、自分のベッドへとダイブする。
「ヘリウスなんかと、出会わなければよかった」
重い溜息だけが、部屋の中に響く。
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※第41話にて、ミーシャとヘリウスの出会いについて言及している一文について、修正しましたことを、お知らせいたします。
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