第4章 面倒な相手に出会ったようです
第20話
以前の私だったら、たぶん卒倒していただろう。そもそも、冒険者ギルドのような所にすら来はしなかっただろうけどね。
目の前の状況に、これからどうすべきか、と頭の中でぐるぐると考えているのに。
「さぁ、さっさと指名依頼の申請をしてくれや」
考える隙を与えてもくれない。
私は大きなため息とともに、目の前の受付の人に指名依頼のことを伝える。相手は慣れたもので、慌てることもなく淡々と書類を差し出して、記入部分だけを教えてくれた。
それが終われば、続いてヘリウス様がクエストを受けるというので、席を外そうと立ち上る。すると、私の左腕をヘリウス様の大きな手が掴んだ。
「なんでしょうか」
「逃げんなよ」
「……これから護衛してもらうのに、それはないです」
ニヤリと笑ったヘリウス様は、ムカつくほど男前な顔。ほんと、ムカつく。
腕を離されたので、私はキャサリンとともに、クエストの貼りだされている掲示板の前に立って、ヘリウス様が来るのを待つことにした。
「まさか、あの方が護衛についてくださるとは思いもしませんでした」
「私は、王族が、という方がビックリよ」
「我が国にはおりませんが、他国ではいらっしゃいますから」
「……そういえば、そうだったわね」
そもそも、うちの王族の数自体が多くないから考えもしなかったし、すっかり忘れていた。だいたい、うちの王太子が冒険者とか、絶対無理でしょ。
「おう、待たせたな」
元気に現れたヘリウス様を見上げる私たち。
……これで王族か。さすが獣人の国。というか、獣人の王族というのは、こんな人ばっかりなんだろうか。
「お前さんたちも着いたばかりだろう? まずは宿をとってから、これからの話をしようや」
「……なんで、私たちが着いたばかりだと?」
なんか、嫌な予感しかしない。まさか。
ジロリと睨みつけると、ヘリウス様は、ただただニヤニヤするだけ。答えるつもりはない、ということか。むしろ、私の想像通り、ということなのか。
「ずっと、つけていたのですか」
「えっ!?」
キャサリンの驚きの声が思いの外大きかったのか、周囲の視線がこちらに向く。
「す、すみません」
いつもなら流すキャサリンも、ちょっと動揺している。確かに、護衛をしている自分が、気付けなかった、となったら、騎士としては悔しいかもしれない。私は宥めるように彼女の背中を軽くたたく。
「まぁ、いいじゃねぇか。とりあえず出るぞ」
「……はい」
王族らしからぬ物言いに、あんたのせいじゃないのよ、と思ってしまって、多少イラっとしながらも、彼の後を追いかける。
スラリとした長い脚に、長くて太い尻尾が、ゆらゆら揺れているのが、目について、つい目が追いかけてしまう。できるなら触れてみたい。……まるで、私、玩具を目の前にした猫みたいね。そう思ったら、少しだけ口元が緩んでしまった。
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