第18話
結局、ルビーのピアスは……売れなかった。
キャサリンが寝ている間に、宿屋のおばさんにアクセサリーの買取できる店を紹介してもらって、宝石商に向かったのだが、買い取れないと言われたのだ。この町で買取するには、あまりにも高額すぎて無理だ、と。むしろ、盗品なんじゃ、とまで言われ、慌てて『祖母の形見』と言って事なきを得た。
たぶん、没落貴族か何かと勘違いしてくれたのだろう。最後には、簡単に売れるようなのだったらいつでも持ってきな、と言われてしまった。ある意味、正直者の宝石商だったのだろう。だって、相場のわからない私に嘘をついて、安く買うことも出来たのだから。騙されなかった、ということだけは感謝だ。
冷静に考えてみれば、一応、一国の王子からのプレゼントだもの、こんな町の小さな宝石商じゃ、無理な話だったのかもしれない。
とりあえず、キャサリンには何も言ってなかったので、変な期待をさせないで済んだから、いいことにする。内心、私はけっこう凹んだけど。
部屋に戻る際に、宿屋のおばさんから、もうすぐ夕飯の時間だというのを告げられていたので、部屋に入ってすぐに、キャサリンを起こすことにした。
「キャサリン」
「ん……むぅ……う?」
こうして彼女の寝姿を見るのは、初めてかもしれない。少し寝ぼけた感じが、いつもの気張った感じと違って、ちょっと可愛いと思ってしまった。
「そろそろ夕食だそうよ」
「……はっ!? す、すみませんっ」
飛び起きた彼女が慌てて身繕いしていると、タイミングよく伝達の青い鳥が届いた。
「……ファリア様からです」
キャサリンは急いで手紙の確認をする。緊張した面持ちから、どこかホッとしたような感じに変わる。なんとかなりそうだということか。
「どう?」
「はい。ファリア様は冒険者登録はされていなかったのですが、部下の中にいたようです。その者の名義で送金していただけるようですが、ただ、冒険者ランクによって送金額の上限があるようで、その者のランク次第では、あまり高額な送金は難しいと」
「わかったわ。ゼロでないだけ、ありがたいわ。それで、受け取りはいつ可能だと?」
「2、3日かかるようですね」
「……便利なようで、不便ね」
あちらでの銀行のようなものを連想してただけに、ついつい愚痴を言いたくなってしまう。もしかして、手数料とかもとられるのかしら。
「であれば、モンテス伯爵領に着くころには受け取れるということね」
「はい」
モンテス伯爵領の領都であれば、大きな宝石商もあるかもしれない。それなら、ピアスの宝石も売れる可能性もある。少しは希望が持てる。
私たちは互いに笑みを浮かべると、部屋を出て食堂へと向かうのだった。
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