第3章 しつこい男は嫌われますわよ

第13話

 入口に衛兵がいるだけあって、先程の村と比べればけっこう大きな町だったが、私とキャサリンは無事に町の中に入ることができた。

 日はまだ高いけれど、徹夜明けのキャサリンを休ませるためにも、宿に入りたい。

 道なりに宿がないか、探したいところなんだけど。


「嬢ちゃんたち、この後、どうするんだい」


 私たちは常歩なみあしで馬に乗っているにもかかわらず、ヘリウスが、のんびりと私たちの後をついてきている。


「先程は助かりました。私たちのことはお気になさらず。キャサリン、行くわよ」

「はっ」

「おいおい、助けてやったのにそれは……お、おいっ、ぷっ!」


 町の中とは言え、舗装されていない道だから、馬が走り出したら埃が舞うのは仕方がないよねぇ~。助けてはもらったけれど、これ以上はあまり人と関わらないほうがいいと思うのよ。あちらにとっての手掛かりは少ないほうがいい……って、ヘリウスのせいで、すでに若干目立ってしまってる気はするけど。

 キャサリンはちゃんと私の後をついてきているみたい。よし、次の角を曲がって、もう一度、門の方へ戻ろう。そこから宿を……。


「おい、そのまま行くとスラムで何もないぞ」


 ギョッとして声をした方を見ると……ヘリウスが私に並走してる。

 ええ、太い尻尾をゆらゆらさせながら並走してるんですっ。


「なんでっ!?」

「お、お嬢様っ」


 キャサリンも必死な声が聞こえたけれど、それどころではない。

 なんとか、逃げねば、そう思う私はシャイに鞭をいれる。少しだけヘリウスが後退する。


「ちょ、おいっ! こんな狭い町ん中でそんな勢いよく馬を走らせるなっ」

「だったら、ついてこないでっ!」

「俺は、一応、護衛ってことになってるだろうがっ」

「そんなの忘れたわっ!」


 そりゃぁ、助けてもらったけど!

 一度助けられたからって、安易に知らない人についていっちゃいけないと思うのっ!

 しかし、ヘリウスは息切れもせずに、余裕でついてきてる。

 もう嫌っ! 獣人ってなんでこんなにタフなのっ!?


「たくっ、しょうがねぇな」

「お嬢様っ、危ないっ」

「あぁっ!?」


 勢いよく走るシャイの手綱を強引に掴むヘリウス。シャイは急停止させられ、その勢いのまま、私の身体が放り出されて、宙に浮いた。手綱は当然……手から離れてる。


 ――ヤバイ、これ、マジで落馬する。

 

 声も上げられずに、そう思ったのに、なぜか、私、ヘリウスの腕の中にいた。


「?????」


 どうやって? なんで? 

 私の頭の周りにクエスチョンマークが飛びまくる。シャイはブルルっと言いながらも大人しくしてる。


「お嬢様っ! 貴様っ! お嬢様に触れるなっ!」

「おいおい、そのお嬢様は、今は俺の腕の中だぜ? お前さんが攻撃したら、どうなるよ」

「くっ! 卑怯者がっ!」


 私が混乱している間に、キャサリンとヘリウスが言い合いしていた。その怒鳴り声で、あちこちの家から顔を覗かせたり、家から出てくる人までいる。

 もうっ! だから目立ちたくないのにっ!


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