第3話

 トーレス王国の現国王が入り婿なのは有名な話。


 先代の国王には娘、娘、息子、の3人の子供がいたが、国王の急死により、王位は第1王女が継ぐことになった。

 当時、第1王女が18才、一番下の王子はまだ3才だった。

 先代の国王は一人っ子で兄弟もいなかったし、先代の従兄弟たちはすでに鬼籍に入っていて、その子供たちは軒並み、女子ばかりだったのだ。


 第1王女の性格も、女王として立つほどの器量もないこともあり、婿となる者が国王として立つこととなった。それが現在の国王だ。

 何代も前に王族が降嫁したこともある公爵家の三男坊。見目麗しいことで社交界でも有名で、第1王女も密かに恋をしていた。

 ちょうど彼の婚約者が病で亡くなったという、タイミングも良かったのか、悪かったのか。

 その彼女の求めに、現国王は否応もなく受けざるを得なくなった。


 最初の1年は、それなりに幸せだった。すぐに第1王女が産まれたのだ。

 さぁ、次は王子様を、という周囲からの大きな期待が、プレッシャーになったのか。なかなか子供に恵まれず、ついには、医師たちからも、子供は難しいだろうと言われてしまった。


 しかし、いつまでも跡取りがない状態というわけにもいかない。

 男子が無理なら、王妃同様に、第1王女に婿を、という話も出たが、王女自体、体が弱く、この先、成人まで生き延びられるか、多くの者が疑問視した。

 であれば、末の王子を国王に、という話も当然出ていた。

 しかし、その時には既に遠縁の侯爵家へと養子に出されてしまっていたのだ。


 ――王妃が現国王の王位を守るために。


 次に考えられたのは第2王女、となるが、彼女は王子が養子に出された2年後、18歳に病気で亡くなっている。


 基本、一夫一妻制のトーレス王国であったけれど、王妃は苦渋の選択として、現国王は側妃を向かえることとなる。


 ――それも、かつての婚約者に瓜二つの、彼女の妹を。


 そこからは、ありがちな展開。

 現国王は王妃に目を向けることなく、側妃ばかりにうつつを抜かし、ついには今の王太子が産まれることとなる。

 王家の血など、ほとんど入っていない王太子が。


 しかし。この王家には、王族でないと受け継げないものがあった。

 それは『守護の枝』と呼ばれる、大きな杖だ。この杖はトーレス王国の王都を守る結界の礎となるもの。大国からの攻撃からも、強力な魔物からも守る結界。その存在は、国民であれば誰しもが知っている。

 そして、それを維持するのは王族の血筋と言われている。

 例えかつて王族が降嫁した公爵家出身の父を持つアルフレッド王太子でも、それを維持するだけの王家の血は入っていなかった。


 その彼がトーレス王国で国王となるためには、王族の血を濃く引く女性と結婚しなくてはならなかった。この国を守るために必要なことだから。

 当時の王族ではすでに既婚か、赤ん坊くらいしかいなくて、アルフレッド様と婚約できる年頃の女性はいなかった。


 そしてどうやって調べ上げたのか、私に王家から婚約の打診が来ることとなる。


 かつて養子に出された一番末の王子、アーサー・オル・トーレスの娘、私、メイリン・フォン・ゴードンを。




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