伯爵令嬢はケダモノよりもケモミミがお好き
実川えむ
第1章 私の方から、婚約破棄ですわ
第1話
私は唖然としながら、目にしているものから、視線をはずせないでいた。
――なんだ、これは。
生で金髪と赤毛の『洋モノ』の『AV』でも見せられているみたいだ。
「あああ、あん、ああっ、アル~、いい、いいわぁ」
「はっ、はっ、んあっ、くっ」
思い返してみれば、『元カレ』と『ラブホ』で見た『洋モノ』も、こんな感じだったかも。
――あ、いや、『元カレ』? うん? 『ラブホ』?
――『洋モノ』ってなんだ? 『AV』?
自分の頭の中に浮かんだ言葉に、疑問符がいくつも浮かぶ。
目の前のケダモノのような行為よりも、そっちのほうが気になった。
「あ、ああ~っ♡」
「愛してるっ、くっ、マリアンヌッ、あっ、あっ」
私、メイリン・フォン・ゴードン。
14歳……のはずなんだけど、この状況に、色々と違和感が止まらない。
金髪の男の人は、私の婚約者、アルフレッド・オル・トーレス様、18歳。トーレス王国の王太子。
そして、あの赤毛は二つ年上で、私の従姉で親友だと思っていたマリアンヌ・ド・スタール侯爵令嬢、16歳。さすがに、こんなの見せつけられて、親友だなんて言いたくはない。
二人はまだ、私がドアのところに立ち尽くしていることに気付きもせず、せっせ、せっせと、繁殖行為に勤しんでいる。
元々、明日はこの国の王太子であるアルフレッド様と、ゴードン辺境伯の孫娘である私の婚約パーティのはずだった。
本来なら、パーティ当日に王都にあるお祖父様の屋敷から王城に入るところを、王妃様のたっての願いで、前日から泊まることになったのだ。その上、私一人で泊まるはずだったのを、従姉のマリアンヌが強引に『一緒にいてあげる』とか言い出して、二人で泊まることになった。
まぁ、それはいい。確かに、侯爵令嬢とはいえ、王城になんて滅多に泊まることなんかできないもの。
だから『夕食の後、寝る前に話があるの』というマリアンヌの話も、彼女の実家にお泊りした時みたいに、女子だけのお話でもするのかな、と思ったのだ。
ええ、素直なメイリンは、単純にそう思ったのよ。
「ああ、いいわぁ、いいわぁ♡」
「おお、おおお、おっ、おおおっ」
……うるさいわね。
ていうか、本当に『AV』みたいで、萎えるわ。
こうやって、冷静に考えられちゃってる私、所謂、『走馬燈』っていうのかしら。徐々に記憶が蘇って来てるのがわかる。
そう、どんどんと情報が流れ込んでくる。その勢いに、足元がふらつくけれど、私はなんとかふんばった。
そして私が気付いたものは……私、メイリン・フォン・ゴードンには、前世、なるものがあったらしいこと。『日本』という国に住んでいた28歳の『バツイチ』『OL』。名前までは思い出せないけど、それが私の前世。
「いいっ、いいわっ」
いや、私は全然、よくないし。
さて、そろそろ、私、キレてもいいわよね。
そもそも、王家に請われて、婚約者候補として王都まで来て、いよいよ婚約者となるはずだったのに、これはないわぁ。
あの従姉もないわぁ。
私は大きく息を吸って、思いっきり叫んだ。
「きゃぁぁぁぁっ!」
ドタン、バタン、と、あちこちのドアが開き、王城の者たちが集まってくる足音が聞こえてくる。ていうか、あんな大声で喘いでるのに、なんで誰も出てこなかったのかしら。
ああ、遠慮してたのか。
「な、何事だ」
「やだ、何っ!?」
何言っちゃってるのマリアンヌ。自分で私を呼びつけたくせに。既成事実作って、王太子妃になるの、狙ってたんじゃないの?
私は冷ややかな視線で、二人を見つめた。
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