最終話  最強の夫婦


 それから、数日。検査や警察からの聴取を終え、体力も無事に回復した姫奈は、学校にやってきた。


 学校一の人気者であり高嶺の花ともいわれるほどの姫奈の帰還は、まさにお祭り状態だった。クラスには、たくさんの生徒が詰めかけ、泣いている生徒もいたくらい。


 そして、その光景には、俺は度肝を抜かれた。


 改めて、あんなにも人気者で美少女な姫奈が、俺の彼女──いや、数ヵ月後には、になるのかと思うと、なんだか、身が引き締まる思いがした。


 なんせ、もうなんて呑気なことは、言っていられなくなったのだ。誕生日がくるまでに、急ピッチで、姫奈に釣り合う男に成長しなくてはならない!


 そんなわけで、俺は、これまで一切やってこなかった体力作りを本格的に始めることにした。このぷよぷよで貧弱な体を、少しでもイケてる身体にするために!


 もちろん、道のりはハードだ。そう簡単に引き締まった逆三角形のボディが手に入るわけがない。だが、幸いにも俺には、見本になるイケメンたちばな君がいた。


 まさに理想的な体型をしている上に、強くてカッコイイ橘くんは、俺の目標と言ってもいい!

 そんなわけで、今は、橘くんに頼み込みリモートで指導してもらっている。本当に俺は、友達に恵まれたと思う。


 あと、学園の番長でもある鮫島さめじまくんは、そんな俺に、抜き打ちで勝負を仕掛けてくるようになった。もちろん、姫奈のことはもう諦めているので、純粋に勝負するだけ。


 とはいえ、今の俺には、矢印様はついていないから鮫島くんに敵うはずもなく、もう、何度痛めつけられたかわからない。でも、鮫島くんと勝負するうちに、少しずつ受身が取れるようになってきて、前よりは少しだけ成長しているようにも感じた。


 そして、体力作りだけじゃなく、勉強にも真面目に取り組み始めた。


 高校三年生にもなると、自ずと進路を考えなくてはならない。なにより、姫奈と結婚するにあたって、親からは色々と条件を出された。


 そして、そのうちの一つが『大学はしっかり卒業すること』


 学費は、親が出してくれるらしく、高校在学中の生活費も、両家が折半して出してくれことになった。ただその代わりに、受験勉強はしっかりしろと念押しされた。


 だけど、いつまでも親のスネをかじって生活するわけにはいかない。色々考えた結果、高校を卒業したら就職をして、働きながら通信制の大学には通うことにした。これなら、収入もあるし、親の条件も叶えられる。


 ちなみに勉強場所として、最近、よく新聞部の部室を借りていて、あれから、よく四月一日わたぬきくんや長谷川はせがわさんとも話をするようになった。


 ただ、そんな新聞部も、来年には廃部らしく。長谷川さんが寂しそうにしていた。だけど、それでも、残った時間で沢山思い出を作ろうと、新聞部は今も、小さな幸せが詰まった新聞を、変わらずに作り続けている。


 クリスマスの爆弾事件から、数ヶ月。


 あの後も、日常は変わりなく進んでいった。

 時折、災難や喜びを招きながら。


 そして、季節は巡り──7月7日。


 ついに俺の、誕生日がやってきた。








       最終話「最強の夫婦」









 ◇◇◇


 そよそよと風が頬をかすめた。

 草花の香りが鼻腔をくすぐり、皇成は微睡まどろみの中、ふと目を覚ました。


(うっ……重い……っ)


 だが、なぜか、やたらと重い。

 体の上に、ずっしりと何かが乗ってる感覚。


 なんだ? 犬か、猫か?

 いや、うち動物飼ってねーよ。

 じゃぁ、なんだこれ。もしかして、金縛り??


 軽く恐怖を感じつつ、皇成は恐る恐る、それを確認する。すると


「あぁ、勇者様〜。暫く合わない間に、こんなに逞しくなって。女神は、とっても嬉し」


「ぬああああああぁぁぁっ!!!?」


 瞬間、全身が総毛だった。草原のど真ん中で、寝転がる皇成の上にのしかかり、ぴったりと身体に張り付いているのは、あの銀髪の猫耳女神!!


「ぎゃあああ!! ななな何やってんだよ、あんた!?」


「なにって、目の前にいい男の身体があったら、抱きつきたくなるものでしょう。はぁぁぁ、少し前までは、あんなに貧弱なモヤシだったのに、今では、こんなに筋肉がついて! 勇者様、今から私を抱き」


「ません!!何考えてんだよ!ていうか、俺が寝てる間に変なことしてないよな!?」


「まぁ、失礼ですね。いくらなんでも、同意もなく襲ったりしませんよ! 私、これでも女神ですから!」


「そ、そうか」


 どうやら、無事らしい。何がとは言わないが。


 その後、皇成は丁重に女神を引き離し、改めて向き合った。あの爆弾事件の後から、女神は一切現れなくなった。矢印様も消えたし、もう現れないと思っていた。


「何しに来たんだ?」


 真面目な顔で問いかける。すると女神は、微笑みながら皇成を見つめ返した。


「今日は、勇者様にお話があって来ました」


「話?」


「はい、本当に、あの娘とするつもりですか?」


 何かと思えば、姫奈との結婚についてらしい。そういえば、女神には、散々『別れろ』と言われていた。


「結婚するよ。そのために、必死に鍛えて、姫奈を守れるように」


「無理ですよ」


「え?」


「前にも言いましたが、あの娘の魂はを呼び寄せます。結婚なんてしたら、この先、平穏な生活なんて送れません。またどこかで、悪意ある魂によって、命を落とすほどの危機に晒され」


「わかってるよ。それでも俺は」


「いいえ、あなたはまだ分かっていません。勇者様、あなたは、前世で魔王を倒し命を落とした。でも、その原因は、あの娘がです」


「え?」


「あの娘は聖女でした。特殊な力を持ちながら、それを隠し、ただの村娘として、あなたのパーティに加わっていました。でも最後の決戦で、圧倒的な魔王の力を前に、彼女は自らの命を犠牲にし、魔王の力を全て奪いさったのです。あなたが止めるもの聞かずに」


「……」


「そのせいで、動揺した貴方は、致命傷を負ってしまいました……わかりますか。あの子の魂には、その聖女としてのが、今も根強く染み付いています。だから、あなたが、どんなに強くなろうと、あの子は、いざという時、自分の命を投げ打ってでも他者を助けようとしてしまうでしょう。そんな娘を守ることが、本当に出来ると思っているのですか?」


 その言葉に、ふと、あの夜のことを思い出した。

 タイムリミットが迫った爆弾を前に、姫奈は『自分のおいて逃げろ』と皇成に指示をした。


 あの時、姫奈は確かに、自分の命を犠牲にした。

 皇成を、助けるために──


「今なら、まだ間に合います。このままでは、またいつか愛する人を失い、辛い思いをしてしまいます。だから、


 女神の目は、真剣だった。

 真剣に、姫奈を選ぶなと言っていた。でも


「そうか。そんなに、俺達のことがだったんだな」


「……え?」


「だって『姫奈が死んだ方がいい』だなんていいながら、姫奈が死なないように手助けしてくれただろ。俺が意識を失った時も、今は体力を回復しろと諌めてくれた。なにより、映画館に行ったから姫奈が死ぬって聞かされてなかったら、俺は、24日に姫奈が死ぬことも、観覧車が危険なことにも一切気づかなかった。本当は、。俺も姫奈も、ショッピングモールにいる人たちも」


「……ッ」


 女神の不可解な行動や言動に、やっと答えが出た気がした。そして、その言葉に女神は案の定、戸惑い、その後、恥じらうように顔を真っ赤にした。


 そして、その珍しい反応に、皇成は確信する。


「姫奈に、矢印様を授けたのも、あんたなのか?」


 皇成が問いかければ、風が草原を吹き抜け、女神の髪を揺らした。すると、女神は、観念したように


「はい……そうです。あなた達は、結ばれるべきではなかった。だから、あなた達を引き離したあと、程なくして、あの娘にも"矢印の加護"を授けました。それぞれの矢印が、あなた達を幸福に導いてくれるなら、この先、あなた達の運命が交わることがないと見越して。その結果、あの子は高嶺の花と呼ばれるまでになり、あなたとの間には、絶対的な格差が生まれました。そして、それは簡単に覆せるものではなかった。それなのに……それなのに! あの子の矢印は、どんなイケメンに告白されても、あなたを指しちゃうし! あなたに至っては、矢印の采配を無視して、あの子に告白までしてしまって! あのまま、矢印の言うとおりにしていれば、ずっと平穏な生活を送れたのです! あの子だって、愛する人を危険に巻き込むこともなかったかもしれないのに……っ」


 女神の顔は、泣きそうだった。

 泣きそうな顔で、必死に訴えていた。

 

「そうか、ごめんな。前世の俺の願いを叶えるために、頑張ってくれてたのに」


「そうですよ! このままでは、前世の二の舞になります! あの子と一緒いたら、命がいくつあっても足りませんよ!」


「そうか……でも、もう決めちゃったし」


「え!?軽すぎますせん!」


「あはは、でも、自分ので決めたことなんだ。誰でもない自分で決めたこと。それに、俺は今、すごくだよ」


「え?」


「俺は今、あんたが不幸だと言っている道の上にいて、それでも俺は、今すごく幸せだ。大丈夫だよ。不幸の先で待ってる幸福もあるって気づいた。だから、この先何があっても、俺は希望を捨てたりしない。だから、


「……っ」


 はっきりと目を見て話せば、その瞬間、女神は涙ぐんだ。


「本当に……大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ」


「じゃあ、絶対に……死なないでください」


「……え?」


「私は、あなた達に生きて欲しかった。あんな形で死んで欲しくはなかった……例え、世界が救われても、誰か一人でも死んでしまったら、それは私にとって、ハッピーエンドではないのです。だから、生きてください……今度こそ、生きて、生きて、生きて、絶対に幸せになってください……あの娘と一緒に……っ」


 涙目になった話す女神の瞳は、とても綺麗で、まるで宝石のようだった。


 そしてその姿は、誰がどう見ても女神様だった。

 平和を愛する心優しい女神様──


「あぁ、生きるよ。この先、どんな不運に見舞われても、姫奈と一緒に生きていく。絶対に死なないし、絶対に死なせたりしない。今度こそ──幸せになる」


 今度こそ、幸せになろう。姫奈と二人で。


 前世のような、悲しい結末バッドエンドにはならないように──


「ふふ……やはり、勇者様は勇者様ですね。わざわざ茨の道をいくなんて……でも、あの、そういうところが……その、好きです……っ」


「え?」


「あぁ、でもやっぱり心配ですにゃ! 今の勇者様に、あの娘の不運に打ち勝つことができるのか?」


「え? そんなにヤバいの? ていうか、いつまで勇者って呼ぶつもりだよ、俺は勇者じゃ」


「いいえ、、私にとっては立派な勇者様です。だから、これは、私があなたに与える、最後の祝福です」


「祝福?」


「はい、未来へ進む勇敢な勇者様へ――女神から最高のプレゼントですにゃ!」







「……にゃ?」

「皇成くん?」


 長いような短い夢から覚めたあと、ふと視線を上げれば、そこには姫奈がいた。


 机に突っ伏してうたた寝をしていた俺を、夏服を着た学校一の高嶺の花が見つめてる。そういえば、姫奈が図書委員の仕事を終えるまで、図書室の奥で勉強してたんだっけ?


「あれ……俺、寝てたのか?」


「うん。にゃーって可愛い寝言いってたけど、猫と遊ぶ夢でもみてたの?」


「いや、猫の夢じゃなくて」


 瞬間、ふと女神の話を思い出した。


 姫奈の魂は災いを呼び寄せる。そして、その魂には、聖女の頃の自己犠牲の精神が、今も染み付いてると言っていた。


 そして俺は、そんな女の子と、今日――結婚する。


「姫奈……俺、年取って、ばあちゃんになった姫奈の膝の上で、大往生したい」


「え?」

 

 いきなり変なことを言い出したからか、姫奈は目をぱちくりと瞬かせて


「寝ぼけてるの?」


「あ、いや……つまり、じーちゃん、ばーちゃんになっても、一緒にいようなって話!」


 笑って、頬に触れてみる。

 すると、姫奈は、驚きつつも顔を赤らめた。


 夏のセーラー服を着た姫奈は、格段に可愛い。そして、そんな可愛い幼なじみが、今日から俺の、妻になるわけで……


「姫奈……キスしていいか?」


 不意に、柔らかそうな唇が目に止まって、思わずそう言った。すると姫奈は、耳まで赤くして


「ダ、ダメ。ここ学校だし……っ」


「でも、これが最後かもしれないし」


「最後?」


キスできるのは、これが最後」


 そう、俺達はこのあと、を出しに行く。だから、恋人同士でいられるのも、あとわずか。


「で、でも、誰かに見られたら」


「誰もいないだろ。みんな帰ったあとだし」


「そ、そうだけど……っ」


「そんなに心配なら、矢印さまに聞いてみれば?」


「え?」


「キスをしていいか、どうか?」


 ちなみに、姫奈の矢印様は今も健在で、たまに、こんなくだらないことで使ってる。


 でも、長年の習慣もあってか、姫奈は、矢印さまにいわれたとに関しては、あまりNOとはいわない。


「矢印さま、なんて?」


「し……していいって」


 桜色の頬が、林檎のように赤くなった。


 どうやら姫奈の矢印さまは《キスをしていい》と采配したらしい。流石に、矢印さま。空気読んでる!


 その後、席から立つと、姫奈を引き寄せ、誰もいない図書室で、こっそりキスをする。


 あれから俺達は、少しだけ変わった。


 姫奈は、前よりも髪が伸びて、前よりもずっと女らしくなった。そして、俺も背が伸びて、前よりも男らしくなった……と思う。


 あと、この半年で、キスをするのにも少しは慣れた。でも、そこからには、全く進んでいない。


「ん、…っ」


 唇を離せば、甘い声が漏れて、微かに心中がザワついた。姫奈の声は、それだけでも、男の欲を刺激するだけの威力がある。


 ていうか、今日から俺たち、んだよな? 大丈夫なんだろうか、俺は……


「皇成くん」


 すると、名前を呼ばれ、更に心拍が早まった。

 俺は、それを悟られないように、姫奈を抱きしめていた手を緩めつつ


「な、なんだ?」


「今日から、ずっと一緒なんて、夢みたい」


 姫奈が嬉しそうに、俺の胸に頬を擦り寄せる。

 なんだよ。これ、可愛すぎるだろ。


「お前なぁ……一緒に暮らすのが、どういうことか、ちょっとわかって」


「分かってるよ。子供じゃないんだから」


「……っ」


「それより、そろそろ行こっか。みんな待ってるし」


「……あぁ、そうだな」


 婚姻届を出したあとは、新居で、みんながお祝いをしてくれる事になっていた。


 俺の家族も、姫奈の家族も、みんなして浮かれてて、でも、こうして祝福されるのは、とても幸せなことだと思った。


 その後、俺たちは、学校を後にし、役所に向かった。


 高校生が制服姿でやってきて、役所の人たちは、それはそれは驚いていたけど、婚姻の手続きはスムーズに進んで、俺達は無事に入籍し、夫婦になった。


 姫奈の名前も、碓氷から矢神に変わり、正式に「矢神 姫奈」に。だけど、正直、夫婦になった実感は、あまりない。だって、ただ紙切れ一枚、出しただけだしな。


「役所の人たち、みんな見てたね」

「そりゃ、俺たち、高校生だし」


 その後、いつもと違う帰り道を、二人並んで進む。夏の黄昏時は、赤から紫に変わり始めていて、とても綺麗だった。


「それより、明日は覚悟しとけよ。学校一の高嶺の花と底辺が結婚したなんて知ったら、みんなどんな反応をするか!」


「うーん、大丈夫じゃないかな? 今の皇成君をみて、底辺とかいう人はいないと思うよ」


「そうか?」


「うん! あ、そういえば、長谷川さんが、結婚すること記事にしたいって言ってたよ!」


「はぁ!? またかよ!? それ絶対ダメなやつだろ!? 大炎上する未来しか見えねーよ!?」


「ふふ、大丈夫だって。それに、矢印様も大丈夫って言ってたし」


「あ、そう……」


 そういえば、女神が夢の中で祝福がどうとか言ってたけど、あれは、なんだったんだろう?


(プレゼント……か)


 その瞬間、少しだけ気になって、足を止めた。

 

 あれから、どことなく物足りない生活を続けていた。ずっと一緒にいた相棒がいなくなってしまったせいか、どこか物寂しい感覚。

 

「皇成くん、どうしたの?」


「なぁ、何か聞いてみたいことあるか?」


「聞いてみたいこと?」


「うん、矢印様に」


「え?」


 瞬間、姫奈が驚いたように目を見開く。


「矢印さま?……もしかして、戻ってきたの?」


「わからない。でも、試すなら、なにかでっかいこと聞いてみたいなって、何かある?」


「何かって、そんなこといきなり聞かれても……うーん、じゃぁ……私たちは、幸せになれますか?とか?」


 幸せ──それは、ずっと矢印さまに、姫奈とでは叶わないと、否定され続けてきたこと。


「いいな、それ。よし、それにしよう!」


「え、ちょっと待って!本当に聞くの!? そんなこと聞いて、もし《幸せになれない》って采配されたら」


「大丈夫だよ。どんな結果がでても、変えていけばいい」


「変える?」


「うん。姫奈も言ってただろ。『矢印さまが憑いてる俺たちは、きっとになれる』って。なら、なってやろうじゃん! どんな運命にも負けない、最強の夫婦に――」


 運命を決めるのは、きっと神様じゃない。


 俺たちの一つ一つの選択が、未来を作って、そして、運命すら変えていく。


 なら──


「大丈夫だよ。俺達なら──それに幸せは常に傍にいて、気づかれるのを待ってる。例え、不幸の真っ只中にいたとしても──」


 ──だから、なにがあっても、一緒に乗り越えていこう、二人で。


 そう言って、手を差し出せば、姫奈は、俺を見つめたあと、綺麗に笑って、俺の手を取った。


 空を見上げれば、そこには星が、一つ二つと輝き始めていた。


 鮮やかな黄昏の空が、ゆっくりと夜に変わっていく。


 その美しい世界を見上げながら、俺は久方ぶりに、矢印さまに問いかけた。


「矢印さま、矢印さま──俺たちは、幸せになれますか?」


 ピコン──! 


 すると、その瞬間、目の前に二枚のプレートが現れた。赤と青のプレートだ。


 その懐かしいその光景には、自然と胸が高鳴った。


 戻ってきたんど。矢印さまが──俺の元に。

 

 そして、そのプレートは、その後、うっすらと文字が浮かび上がらせた。


 右側の赤いプレートには《幸せになれない》

 左側の青いプレートには《幸せになれる》


 と書かれていて、そして、その中央にある《やじるし》は、ユラユラとゆれ、その後、片方をさして、止まった。



 矢印さまが、指したのは────


 


 そして、その『答え』を見て、俺は優しく姫奈の手を握りしめた。


 妻になった幼馴染の手は、とても暖かかった。


 自分よりも小柄な手。だけど、その温もりは、これまでにないくらい、大きな幸せに満ちていた。






 END.

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