第23話 恋敵はイケメンでした

(で、電話か……)


 そのメッセージを見つめ、皇成は悩む。


 皇成たちの通う桜川中央高校は、スマホの利用には、とても寛容だった。


 基本的に、休み時間の間なら、公共マナーを守る範囲での使用は自由にできるし、イアホンありなら、教室で音楽や動画を見ることもできる。


 それに、今は校舎裏にいるため、誰にも迷惑をかけない。


 だが、橘とは、もう5年ほど会っておらず、長いこと会話を交わしていなかった。


 それに、橘は、あの姫奈が、ずっと思いを寄せてきた相手。さすがに、直接話すとなると、多少なりとも身構えてしまう。


 だが、それでも、仲の良かった友人だけあり、話しをしたいという気持ちもあって


(話すの、小学生以来か……あっちの高校も、今は休み時間なのかな?)


 そんなことを思いつつ、皇成は橘に電話をかける。すると、呼出音がなり、その後、すぐに橘が電話に出た。


『久しぶり。悪いな、いきなり』

「お……おぉ、久しぶり」


 数年ぶりに聞く友人の声。

 

 そして、その橘の声は、小学生の頃からすると、大分、大人びた声に変わっていて、思わず聞き入ってしまった。


 これは、あれだ。いわゆると言われる部類の声だ。


(あー、もう声を聞いただけで、イケメンぶりに拍車がかかってるのが分かる……!)


 やはり、橘くんには勝てない。

 皇成は、それを改めて、実感してしまった。


 少しくらい残念な感じに成長していたら、多少は張り合う余地もあったかもしれないが、まさか声を聞いただけで敗北するとは!


「どうも……橘くん、5年経ってもイケメンなんだな」

『は? 何だよ、いきなり』

「いや、いい声してるなと思って」

『声? ……て、それより、さっきから何なんだ?』

「え?」

『だから「彼女はいるのか?」とか「こっちに来る予定はあるか?」とか、オマケに「どんな女の子がタイプか?」とか』

「……あー、それは」

 

 朝、大河に連絡先を聞いてから、何度か橘とLIMEのやりとりをした。だが、露骨な質問ばかりしてしいたからか、ちょっと警戒されたのかもしれない。


(そうか。だから、直接電話したいなんて言ってきたのか)


 相手の本音を聞き出したいなら、LIMEでチマチマ話すより、声を聞くに限る。だが、さすがに根掘り葉掘り、聞きすぎたかもしれない。


「ごめん。いきなり変なことばっかり聞いて……実は、その……紹介したい女の子がいて」

『え? 女の子?』

「うん。今、橘くん、彼女いないんだろ? なら、会うだけでもどうかなーって?」

『…………』


 その後、無言になった橘くん。


 だが、いきなり、連絡して来たかと思えば、女の子を紹介すると言われるわけだ。はっきりいって印象は、あまり良くないかもしれない。


 だが、しかし!

 橘くんだって、華の男子高校生!


 きっと、彼女はほしいはず!

 ならば、食いついてくる可能性も──


『なんで、俺なんだ?』

「え?」


 だが、食いつくどころか、ただただ疑問形で言葉が返ってきて、皇成は、うっと言葉をつまらせた。


「えっと……嫌だった?」

『嫌じゃねーよ。むしろ、女の子を紹介してくれるいうなら嬉しいには嬉しいが。でも、わざわざに紹介するか? 普通』

「…………」


 言われてみれば、確かにその通りだ。


 皇成たちが住む桜川から、隆臣が今住んでいる桜聖市は、車で二時間近くかかる。仮に、紹介されて付き合ったとしても、確実に遠距離恋愛。


「そ、そうだよな。遠距離、うん……」

『つーか、誰かに頼まれたんなら、俺じゃなくて、大河を紹介してやれ。あいつも、彼女いないだろ。女装した男に一目ぼれしてたくらいだし』

「え!? あ、いや……大河じゃダメなんだよ!」

「なんで?」

「な、なんでって……実は、小学生の頃から……ずっと橘くんのことが好きだった女の子で」

『小学生の頃から? それって、俺の知ってる子?』

「それは……」


 知らないはずはない。小学生の時、姫奈と橘は、何度も同じクラスになっているから。


 だけど、名前を出せば、もう後には引けない。

 いや、もう連絡した時点で、後には引けないんだけど……!


「う……碓氷さんって、覚えてるだろ?」

『え?』


 瞬間、空気が変わった。それは、校舎裏の寒さも相まって、軽く身震いする程に──


『ウスイさんって、碓氷 姫奈のこと?』

「そ、そう」

『…………』


 すると、再び橘は沈黙し

 

『碓氷さんが、俺を紹介してくれって言ったのか?』

「……いや、本人に言われたわけじゃなく、俺が勝手に、お節介を焼いてるというか……転校しても、まだ未練があるみたいだから、橘くんに、その気があるならと思って」

『…………』


 その後、橘はまたもや黙り込むが


『バカか、お前!! 何やってんだよ!?』

「えぇぇ!?」


 なぜか、いきなり怒られた。スマホからは大きめの声が響いて、耳もだが、心も痛い。


「な!? ごめ! でも、そんなに怒んなくても!」

『怒るわ! なにがどうなって、そーなってんのかわかんねーけど、!』

「え?」

『小学生のころ、碓氷さん、ずっと皇成のこと見てただろ。それが、なんで俺に未練があるみたいな話になってんだよ!』

「え? あ……え?」


 橘の話に、皇成は、ただただ困惑する。


 小学生の頃、姫奈が好きだったのは橘くんで、そしてそれは、今でも変わらないはずで──


『皇成』

「……!」


 すると、酷く真剣な声が返ってきて、皇成は息をつめた。


『久しぶりに話したし、正直、説教はしたくねーけど、お前今、凄く酷いことしてるぞ』

「……え?」

『自分の好きな男に、別の男を紹介される女の子の気持ち考えてみろ。間違っても、碓氷さんにそんなことするなよ……それと、今どうなんだ?』

「え?」

『皇成、碓氷さんのこと好きだったよな? 今はもう、違うのか?』

「……っ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る