その3
今、起きている目の前の光景が信じられない。
「ん~……やっぱりこの時間だと、あまり良さそうな依頼は残っていないね」
「せやな~……」
どうしてシオン達が私の目の前に居て、依頼の掲示板を見ているの?
時刻を考えてもここに居るはずがないのに……。
とっとにかく、フードを深くかぶって顔を隠さないと。
「うう……本当に申し訳ありませんわ……」
あら? なんかシオンがうなだれているわね。
という事は、あの子がギルドに遅れた原因なのかしら?
ええ……あの子ってば一体なにをしたのよ……。
「シオン様のせいじゃありませんよ、急病人が来られましたからね」
「そうそう。それに念の為に教会へ行かせたのはチト達が相談した事やし、謝る必要はないって」
なるほどね、今日は先に教会の方へ行っていたのか。
で、急病人が来たからこの時間にずれたわけね。
なんてタイミングなの……。
「ですが、その教会に行く事になったのは、わたくしの未熟な事が招いた事ですし……」
う~ん……昨日の失敗を引きずっていたところに、今日の時間のずれに更に迷惑をかけたと思っているのか。
そればかりは考えても仕方ないと思うけどな~。
「もう~気にするなって言っているのにな~、まぁそこがシオねぇだけども…………お、これなんてどう?」
あれ?
あのルイカちゃんが依頼書を取った位置って、私の依頼が張ってあった場所の様な……。
「どんなん、みせて?」
あの依頼書って……もしかして……。
いやいや、流石にそんなわけないわよね~。
「……ゴールドリングの捜索か~。ええんちゃう、これで」
「――ブフッ!?」
ちょっと待って!
それ、私の依頼じゃないのよ!
「そうですね……それにいたしましょう。どうでしょうか、シオン様」
「……分かりましたわ。その依頼引き受けましょう! わたくし頑張りますわ!」
嘘ッ!
シオン達が私の依頼書をもって受付に行っちゃった!
「すみません。この依頼を受けたいのですが……」
「あ、はい。え~と……あっ丁度良かったですね~」
丁度良かった?
何だろう、嫌な予感がひしひしと。
「何がですか?」
「これはあそこの席に座っている方が出した依頼書なんです。ですから、詳細を直接お聞きできるかと思います」
やっぱり!
そう来たか。
「そうだったのですか! それは良かったですわ」
私的には良くないですわ!
ああ、シオン達がこっちに来た。
「え~と、貴女がこの依頼書の依頼主さんですの?」
「は――」
あ、駄目だ。
ここで普通に声を出しちゃったら、流石のシオンでも私だってわかっちゃう。
裏声を出して誤魔化さなければ。
「ハッハイ。ソウデスゥ~」
どっどうかな?
さすがに苦しいかしら?
「……ん? ――へっ!?」
アスターが驚いている。
あの反応は、明らかに私だとわかった感じだ。
「ちょっと、アスターさん。変な声だからって、そんな反応したら失礼じゃない」
「えっ? あっいえっそのっ――」
変な声って……せめて小声で言ってよ。
普通にルイカちゃんの方が失礼よ。
う~やっぱり無理があったかな……もはや、ここまでか。
「わたくしの仲間が失礼な事を! 申し訳ありませんわ!」
「イッイエェ~キニシナイデクダサイィ~」
……全然、私だと気が付いていないと。
「コホン……改めまして、わたくし達はこの依頼書を受けた冒険者ですわ」
本当に、ここまで鈍感なのも困ったものね。
ある意味ローニの行いが合っている気がして来た。
「では、このゴールドリングについてお聞かせ下さいませ」
ここで断るのもおかしな話だし、仕方ないか。
「……ワカリマシタァ」
この声で説明とか……喉を傷めそうだわ。
※
「――ト、イウワケデスゥ……」
あ~やっぱりのどが痛い……この声で話すのはきつかったわ~。
今すぐにでも飲み物がほしい。
「……ふむふむ……なるほど……」
シオンは几帳面に私の話した事をメモしているわ。
本当は全部話した方がいいとは思ったんだけど、お酒を飲んで指輪を失くした事は恥ずかしくて言えなかった……ごめんね、シオン。
「話を聞ぃた感じだと、見つけ出すのは大変そうやね」
「そうですわね……でも、必ず見つけて見せますわ!」
すごいやる気のシオン。
昨日と今日の失敗を取り返そうとしているっぽいな~。
「後はわたくし達にお任せくださいませ! 必ずや、そのゴールドリングを見つけ出しますわ!」
「ア、ハイ……ヨロシクオネガイイタシマスゥ」
シオン達がギルドから出て行った。
う~ん……自分で依頼しといて何だけど、あのパーティーで大丈夫なのかしら?
……とりあえず、今は飲み物を飲みたい……。
「失礼、少しお話を聞きたいのですが……」
はぁ~何よ……。
こっちは喉が痛いの……。
「――にッ!?」
はあ!?
なんでローニが目の前に居るのよ!!
「ああ、安心して下さい。私は怪しい者ではありません」
十分すぎるほど怪しいわ!
というか、この感じだとローニも私だって気が付いていないわけ!?
もうううう! ローニもシオンもどういった目で私を見ているのよ!!
ふざけるんじゃないわよ!!
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