海を支配した少女、絶海の孤島に実家を超える貿易都市を造る~家から追放され貴族の世界に絶望したので、幼馴染とともにのんびり開拓生活を楽しみます~
ふみきり
第1話 ステラ、無能だと罵られる
「ふざけるなっ!」
私の父である辺境伯アロイス・バルテクの怒声が、執務室に響き渡った。
「で、ですが……父様……」
「口答えをするな、ステラ!」
父様は私の言葉を遮り、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしている。
「所詮は、卑しい女の子供だよなぁ」
「平民のメイドの子のくせに、僕たちバルテク家の一員になるだなんて、分不相応だったんだよ。ざまあみろってんだ」
「うっ……」
兄様たちからの罵声が飛び、私はドレスの裾をきつく握りしめ、歯がみした。
私とは違い、二人の兄様は正妻の子だ。
常日頃、私は彼らから強い敵意を向けられていた。
庶子の私が父様から優遇されてきたのが、よほど面白くなかったんだと思う。
というのも、生まれつきの高魔力持ちで、剣の腕前も兄様たち以上だった私の才能を、父様が高く買っていたから。
腹違いとはいえ、妹に嫉妬するなんて器の小さい愚かな兄たちだなあと、これまでは適当にあしらってきたんだけれど……。
でも、そんな状況も、洗礼式ですべてが変わってしまった。
「しかし、参った……。《万能魔法》は授からないわ、代わりの【天啓】もハズレだわでは、あの計画は中止か……。このためだけにあの女からステラを引き取り、多額の金をかけて教育したってのにな。忌々しい……」
父様は私をひと睨みすると、大きなため息をつきながら肩をすくめる。
私は幼い頃に、母様と暮らしていた平民街から、領主家であるバルテク辺境伯家へと引き取られた。
それ以来、私はことあるごとに父様から聞かされてきた。
――ひとつの計画を。
その計画とは、私が洗礼式で神様から授かるであろう《万能魔法》を使って、領内の大規模な土木工事を敢行する、というものだった。
おそらくは数年がかりになる、まさにバルテク家をあげての一大事業だ。
ここは、水の乏しい辺境の地。
私の高魔力を活かした《万能魔法》で、これまでは不可能だった大規模な運河の開削が可能になる。
そうなれば、バルテク領内は一気に豊かな大地に変わるに違いない。
これが、父様の目論見だった。
ちなみに、計画の責任者を私にすると父様が公言していたせいで、兄様たちは劣等感を相当に刺激されたみたい。
自分たちがないがしろにされているのはすべて私のせいだって、暴力も含め、さんざん陰で嫌がらせを受けてきた。
正直、いい迷惑だった。
でも、私が洗礼式で授かった【天啓】は、《万能魔法》ではなく《水流魔法》……。
今までの前提が、すべて崩れてしまった。
水が無ければ何もできなさそうなこの【天啓】で、どうやって土木工事をすればいいの……。
「おまえのせいだぞ、この半分平民女が!」
「散々父さんに期待をかけさせておいて、その様かよ。まったく、惨めにもほどがあるな!」
兄様たちは、ここぞとばかりに私をなじった。
そんなことを言われたって、《万能魔法》を手にできなかったのは、私のせいじゃない。神様のいたずらだとしか言えなかった。
なのに、どうしてここまで言われなくちゃいけないの……。
いったい、神様はなにを考えて、私にハズレ【天啓】なんて授けたの……。
半分貴族で半分平民の半端者な私にとって、この貴族社会はあまり居心地の良い場所じゃない。
だからこそ、国や実家の役に立ち、多くの人の助けになることで、自らの存在価値を示したかった。
でも、これじゃ台無し……。
身に降りかかるあまりの理不尽さに、納得がいかなかった。
さすがに腹に据えかねて、私は罵詈雑言を吐き続けている兄様たちを睨んだ。
「でも兄様、この《水流魔法》だって、きっと何かの役に――」
「「はぁ? おまえ、なに言っちゃってんの?」」
一瞬、兄様たちは私の向けた視線にひるんだ。
けれども、即座に私の言葉を遮り、声を揃えて非難しはじめる。
「効果のよくわからん【天啓】が、なんの役に立つというのだかな……。そもそも、我が領は水が極端に不足している。そのような土地で、はたしておまえの【天啓】は有効に使えるのか?」
父様も早口でまくし立ててきた。
「どうなんだ? ん? その、《水流魔法》などという得体の知れない【天啓】は」
「そ、それは……」
なにも言い返せなかった。
「おまえの今後については、これから考える。しばらくは部屋でおとなしくしておれっ!」
話は終わったとばかりに、父様は私に背を向ける。
ニヤニヤと笑う兄様たちに背中を突き飛ばされ、私は廊下へと叩き出された。
「これからは存分に、表だっておまえをいじめ――いや、かわいがってやれるなぁ。あぁ……最高の気分だよ」
「ステラに暴力を振るっても、もう父さんは止めないだろうしね。こいつは楽しみだ」
床にへたり込む私を見下しながら、兄様たちは下卑た笑い声を浴びせてきた――。
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