帰り道
@munyamunya
小学四年生
1.初日
四月上旬、しとしとと雨が降る日。昨日の入学式までは快晴が続き、桜も溢れんばかりに咲いていたのだが、今日の雨で多くが散ってしまった。水に濡れた花弁が地面にべったりと染み付いている。幾度も踏まれたりしたのだろう。泥にまみれてしまっている様子は何処と無く寂しさを感じさせた。
信号を待つ女の子も俯きがちに散った桜を見ていた。青に変わったので歩みを進める。横を低学年の男子達が、雨なんか知ったことかと服を濡らしながら駆け抜けていった。彼らに遠慮して女の子は歩みをゆっくりなものにした。通りを渡り切るころには信号は点滅していた。そんな折に後ろから走ってくる音が聞こえた。
「よっしゃ、セーフ!」
足元をドロドロに汚し、走った勢いで折り畳み傘をコウモリ傘にした男の子が女の子の隣に並ぶ。傘についた水滴でズボンが濡れるのを気にするそぶりなく、膝に手をつきはぁはぁと息を切らしていた。だが、流石に若い。数秒で息を整えると顔を上げた。
「あっ、莉奈じゃん」
「浩太だったのね。後ろからドドドドって駆けてきて、何かと思った」
「しょうがないだろ。信号が変わりそうだったんだから」
反対側へと折り曲がった傘の骨を正しい方向へ戻していく。しかし、最後の一つが曲者だった。それを直そうとすると隣の骨がまた上を向いてしまう。見かねて女の子、莉奈が手を貸していた。
「ありがとな」
「どういたしまして。それにしても、学童はどうしたの? 抜けてきた?」
「もう卒業したんだよ」
「学童に卒業なんてあるのね」
「小三までだし。はーあ、せっかく一番上だったのに」
「一番上?」
「そう。学童じゃ一番えらい学年だから。下の学年も連れてサッカーとか色々できたんだ」
その他にも最上級生であったことの恩恵をいくつか話していた。
「へぇ、そういうものなの。他に誰が通ってたっけ?」
「蓮二とか、明とかいたよ。今日もこのあと遊ぶ約束してるんだ」
その二人は浩太よりも近いところに家があるため、もっと前に彼らとは別れていた。彼らと一緒に帰っていたから同じ位の時間に教室を出たはずの莉奈よりも後ろにいたのだ。
「あぁー、あいつらね。確かに、浩太とよくいっしょにいるわね」
「どうする? まざって遊ぶ?」
「えー、何するの」
「サッカーかなあ。校庭で集まる約束してる」
「雨なのによくやるわね」
「これぐらいなら平気だし。それより、来る?」
「いえ、いいわ」
「ええー、いっぱいいた方がいいのに」
「それなら男子をさそいなさいよ」
「でもなあ、他の男子とあんまり放課後遊んだことないし」
「あぁー、学童だったものね」
「そう。だから通ってない人、いいなあって思ってた」
「わたしのことも?」
「そう」
「わたしは全然、遊んだりしてないわよ」
「ううーん、そういうことじゃなくて。好きなように過ごせていいなぁって」
「それなら、そうね。自由にゲームやったりしてたわ」
「だからか、やけにゲーム上手かったの。ずるいぞ」
「とっけんよ、とっけん……あ、わたしここ曲がるわ」
「あ、そうか。じゃあ、また明日」
「うん、じゃあね」
そう告げるや否や浩太は家の方へといそいそと歩みを進めた。走りたいだろうに雨が降っているから遠慮しているのだ。この後サッカーするのなら気にすることないのに、とちぐはぐな彼の様子を眺めて、莉奈は可笑しくなった。
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