どうして私が

 湯あみしてさっぱりしてお腹がふくれると、アリスリスはいきなり頭がかくんかくんと揺れ出した。三日間まともに寝てなかったっていうのもあるんだろうな。安心して一気に疲れが出たんだろう。

 すっかりぺちゃんこになったワラのベッドだけど、シーツもちょっと色が変わっちゃってるけど、ないよりはマシか。

 私とポメリアとで整えて、カッセルに運んでもらって、アリスリスをベッドに寝かせた。

 それから三人で顔を合わせる。

 ポメリアは野苺とヤマイモで足りたらしいから、私とカッセルで木の実を食べながら話した。

「僕も青銅騎士団の勇者については、<アレックス>って名前だと聞いてました。まさかあんな小さい女の子だったとは」

「私もびっくりですよ。なんであの子が勇者なんでしょう? もっと相応しい人はいっぱいいると思うのに」

「それは僕も疑問に思ってました。どうして僕なのか?って。正直、勇者に選ばれなければ今でも絵を描いてたはずなんです…」

 そう言って顔を伏せたカッセルの表情は、少し険しいものだった気がする。でも当然か。さすがに魔王軍が攻めてきてる中で絵を続けるっていうのは難しくても、戦いとかに縁のなかった人が勇者をするとか、きっと辛いことだろうし。

 それで言えば、私のように騎士を目指して修練を積んできた者が勇者に選ばれない理由は何なんだろう? 他に選ばれた勇者がみんな騎士や戦士だったらまだ分かるのに、画家志望の大人しい人や子供とか、まったく意味不明って感じだ。

 決して善神バーディナムを疑いたい訳じゃないけど、すごく分からない。不可解だ。

 ドゥケやカッセルやアリスリスにあって、私に無いものって、何?

 どうして私が選ばれないの?

 別に勇者に選ばれたいわけじゃないけど、少なくともアリスリスにぶかぶかの鎧を着せて大きすぎる剣を持たせて魔王軍の前に立たせるよりはずっとマシだと思うんだけどな。

 しかも、ポメリアの言う通りなら、神妖精族の巫女を魔王のところに連れていけば殺されるらしいよね。アリスリスはそのことを知ってたの? 知ってて戦ってたの? だとしたら辛すぎる。

 たぶん敵わないと思うけど、これからは私がアリスリスも守ってあげたい。彼女にこれ以上戦わせたくない。ましてや魔王のところに行って殺されるなんて、有り得ない。

 だからってドゥケなら死んでも構わないって訳じゃなくても、十一歳の女の子にそれをさせるよりはって気もする。

 だけどそういうあれこれはともかく、日が暮れる前に私も少し眠っておこう。完全に夜になるとぐっすりとは寝られないからね。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る