浸れぬ余韻
遊撃隊としての初戦を快勝で終えられて、私達はすごく気分が昂ってた。はっきり言って<いい気分>だった。
だけど、渓谷の外まで後退した王国軍の部隊と合流した時には、そんな気分は吹き飛んでた。
痛々しい怪我人でテントは埋まり、みんな疲れ切ってた。ここまで撤退できたのも殆ど奇跡に近かったらしい。
私達の
ただ、傷は癒えても、私達が魔王軍を退けたことを知っても、彼らにはそんなに喜びはなかった気がする。隊長に当たる人が戦死して臨時の隊長になってた人が「ありがとうございます!」とは感謝してくれたけど、他の人達が私達を見る目は、喜びというよりは<妬み>だったのかもしれない。
勇者を頂き、優れた魔法使いとヒーラーを擁し、戦死者を出さずにやってこれた私達に対する明らかな妬みが込められていたのかな。
だから私達はその部隊に長くとどまることはせず、渓谷に入ったところに自分達でキャンプを張ることにした。撤退していた部隊も、態勢を整えればここに戻ってくる筈という場所だった。
「やっぱり、私達の部隊って恵まれてたんだね…」
同じテントになったアリエータがそう話しかけてくる。
「うん……」
と私は頷くしかできなかった。
私がドゥケに反発してられたのも、それだけ私達が恵まれていて余裕があったからなんだろうなって分かってしまった。
王宮の方で一番優先度が高いと判断されたくらいだから今回のは特に厳しい状態にあった部隊なんだろうけど、以前に怪我人を迎えに行った隣の部隊もそうだったけど、本当はどこも厳しい戦いを強いられてるんだっていうのが実感されてしまった。
彼らからしたら妬ましいくらいに私達の部隊は恵まれているんだ……
本音を言えば遊撃部隊だなんて貧乏くじを引かされたっていう印象があったのも事実だ。でも、それは私達が現実を知らなかったからっていうのもあるんだな……
勝利に酔いしれるような気分には誰もなれなくて、私達はただ自分の剣や鎧を黙々と手入れしながら次に備えた。
リデムの魔力が回復する明日にはまた、新しい戦場に行くことになる。今度もきっと厳しいところに違いない。
『早く駆け付けなけりゃいけないんじゃないの…?』
なんて、こうして剣や鎧の手入れをしてる間にも苦しい思いをしてるかもしれないと思うと何だかすごく気持ちが落ち着かなかった。
テントの隙間から外を見ると、ドゥケのテントに女の子が出たり入ったりしてた。たぶん、ドゥケに慰めてもらいに行ってるんだろうなって感じた。
「ごめん…、ちょっと行ってきていい…?」
そう言ってアリエータもテントを出て行った。ドゥケのテントの方に歩いていくのが見えた。
だけど私はそれを、『不潔!』とか思う気にはなれなかったのだった。
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