その時のあいつの

 魔王軍の侵攻は、昼夜を問わなかった。深夜、昼に出撃した私達が休んでいると、魔王軍が動き出したことを告げる鐘が打ち鳴らされた。今回は、私達が出撃した時に休んでた隊が出撃することになる。

 でもドゥケとリデムとポメリアは、昼夜関係なく出撃になる。なのにドゥケは昼の疲れなんか全く見せない感じで「行くぞ!」と号令をかけて出て行った。

 私は自室の窓からそれを眺めてた。

 唇を奪われた時のことがまた頭をよぎってカアッと顔が熱くなる。唇を噛み締めながら心の中でまた、

『許さない…!』

 って思ってた。

 明け方、ドゥケ達が戻ってきた気配にまた目が覚めて、窓から様子を窺った。

 やっぱりヘラヘラした様子で、ドゥケは疲れた様子も見せない余裕の顔で帰ってきた。でもさすがに、騎士団員達は疲れた様子が見える。それと、ポメリアは団員の一人に抱きかかえられて本当に辛そうだった。するとドゥケが馬を降りて駆け寄って、手を差し出した。

 それに縋るようにしてポメリアが抱き付く。その体をしっかりと抱きかかえながら彼女の頭を撫でていた。

『…なんだ、そういうこともできるんじゃないの…』

 初めてドゥケが他人を労わるような姿を見せたことでついそんなことを思っちゃったけど、イヤイヤ! 騙されちゃダメだ! あいつは女の子の唇を無断で奪うような最低の奴なんだ…!!って思い直した。

 それでも、その時のあいつの姿は、<幼い妹を労わる優しい兄>のように見えてしまったことだけは事実だった。

 でもでも、私はあいつを許す気ないから……!!




「ポメリア様、お食事です」

 昼前、出撃から帰ってきて部屋で寝ているポメリアのところに食事を持っていく。食事を作る料理人は配属されてるけど、配膳や後片付けは団員が交代で行っていた。今日は私がポメリアの食事を持っていく番だ。

 ポメリアとリデムは、交代ができない代わりにこういった雑務は免除されてる。今朝がたの様子を見れば当然かな。

 ノックしても返事がなかったから仕方なくそのままそっとドアを開けた。するとまだ、彼女はベッドの中で眠ってた。無理もない。年齢こそは私と同じ十八だって言われてるけど、見た目にはまだ十二~三くらいの子供にしか見えないもんね。それであの戦は負担が大きいって私も思う。

 ベッドに埋もれるみたいにして眠る彼女は、本当に子供みたいにあどけない顔をしてた。

 カワイイ……!

 他の子達もそうだけど、どうしてこんな子があんな奴に付き従ってるのかやっぱり分からない。昨日のことを思い出してまた唇を拭ってしまった。

 でも気を取り直して、声を掛ける。


「ポメリア様、お食事ですよ」


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