ケンタウロスから来た犬

kumapom

 稲妻が走った。

 轟音が辺り一面に轟き、道行く人々が振り返った。

 そこに現れたのは一匹の白い犬。

 人々の注目を意に介さずに、舌を出し、ただハァハァと息を吐いている。

 犬は言った。

「やあ、こんにちは。僕の名はポーティー。宇宙からやってきた」

 そこに通りがかった一人のポニーテールの女子高生。

 犬の前に行くと、しゃがみ込み、手を差し出した。

「お手!」

 犬は思わず手を出して「お手」をしてしまった。

 犬は自分のとった行動に驚いた。

「おかしい! 僕は何故こんなことを!」

「おかわり!」

 犬はもう一方の手を差し出した。

 犬は驚愕した。

「僕は……いったい! はっ! もしやこれは地球人の精神攻撃なのでは?」

 女子高生は犬の頭をなでなでした。

 犬は思わず嬉しくなり、しっぽを振って喜んだ。

 いけない! このままでは地球人の思うがままに操られる!

 そう思った犬だったが、しっぽの振りは激しくなるばかりだった。

「ちんちん!」

 犬は自分の意志に反して両足で立ち上がり、前足を何度も振った。

 もちろん、しっぽははちきれんばかりに振っている。

 ああ!僕はなんてことを!これではまるで犬ではないか!犬だけど!

「待て! 待ちたまえ地球人! ここは交渉といこうじゃないか!」

 犬はそう叫んだ。

 女子高生は怪訝な顔をしながらも犬の両手を掴んで、ぶらぶらさせている。

 ああ!何か楽しい!いっそこのまま女子高生のいいなりになってしまうのもいいのかもしれない!

 犬はそう考え始めていた、その時。

「あ、学校遅れちゃう!」

 女子高生はそう言うとタタタと走って行ってしまった。

 犬は呆然とそこに残された。

 犬は考えた。

 地球侵略に来てみたが、地球人は我々種族に対して精神的な攻撃をし、操られてしまう。

 しかも今のはたった一人の地球人だ。それにこれほど翻弄されるとは!

 地球人恐るべし。

 うん、やめよう。やめてしまおう。ここは一つ逃げるのが最良だろう。

 我々の科学力をすれば、地球など一気に侵略可能だが、操られてしまっては何も出来ない。

 くやしいがしかたがない。何か対策をせねば。

「我々は新たな力をつけて必ずまたやってくる!待っていろ地球人!」

 と、天に向けて逆さまの稲妻がドゴォォッォンンッと立ち昇った。

 人々は一瞬振り向いたが、ああ、いつもの犬型宇宙人が帰ったんだなと思い、そのまま歩き続けた。

 

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