第49話ここにいる彼女はダメ?

 すんすん、と俺にしがみついたまま泣き続けた美鈴。

 その間、優しく頭を撫でる。


 どれほどそうしていたか。

 やがて、美鈴は泣き止み……。


「の、のぼるさん……?」

「ん?」

 顔を見ようと美鈴の肩に手を置く、と。

「離さないで!」

 自分の顔を隠すようにしがみつかれた。


 また沈黙。

 美鈴は俺の服に顔を隠すようにして。

「そ、その〜ですね。お願いがありまして、ですね」

 その声の様子から、美鈴が正気に戻ったのは分かった。


「熱は大丈夫か?」

「熱? あはは、そうデスネ。熱、有りますよ? 有りますけど、もう少しだけ待っていただけますか?」

「分かった」

 美鈴の肩に置いた手を、背中と頭に戻し抱きしめ直す。


 その美鈴は両手で俺の服をしっかり掴み、顔を隠したまま話を続ける。

「その〜ですねー、2つほどお願いがありましてー」

「いくらでもどうぞ」

「いやいや、甘過ぎでしょう。……いいんだけど。えっと1つはしばらくこのままでお願いします」

 チラッと顔を見ると、俺の服に顔を埋めたままで耳は真っ赤だ。


 どうしてくれよう、この娘さんは。


「もう1つは……、お返事は卒業後まで待って頂けませんでしょうか?」

 なんの返事かは言うまでもない。

 俺と美鈴の今後の関係だ。

「今では、ダメ?」

 出来るだけ優しく、甘やかすようにささやく。

 言い方だけで答えが分かるように。

 イエス以外ないよ?


「ダメです! ……ダメになってしまうので。ずっと一緒に居たい。だから甘えて依存するのは嫌だ。ちゃんと成長して胸を張って、ずっと……」

 ギュッと美鈴は俺に更にしがみつく。


 俺は優しく頭を撫でる。

 そうだ俺は、そしてきっと美鈴も終着点はではない。

 その先だ、お互いその先が欲しいから。

 恋が大嫌いだから。


「待つよ。ずっと待ってる」


「あの……出来れば、ですね。そのあいだは彼女など作らないで頂けると、嬉しいのですが……」

 この娘、可愛いことを言う……。

 俺はギュッと美鈴を抱き締める。


「ここに居る彼女はダメか?」

 明らかに美鈴が動揺する。

「い、いいえ、その彼女さんは少し待っていただけると、有難いのでし、て……」


 不満はあるが仕方ない。


 そこでふと、冷静になってしまう。

 これ、もしかして、俺もあとになってもだえてしまうやつか?


 ……未来の自分に任せよう。

 未来の自分、頑張れよ!!


 俺は思考放棄して、彼女の耳元で言葉を続ける。

「待つだけなので、確定でお願いするよ」


 美鈴から力が抜ける。

「よろしくお願いしまふ〜……」

 ふにゃ〜っと、返事をしながら美鈴は伸びた。


 無理させ過ぎた。


 俺は急いで美鈴を抱え保健室に急いだ。

 保険の先生に診てもらったが、少し熱があるが他は大丈夫そうだ、と。

 美鈴は直ぐに目を覚ましたので、俺は真っ赤な顔の彼女を連れ帰った。


 家まで送ると、美鈴のお母さんと花純ちゃんにはとーってもニマニマされた。


 さらに部屋に帰ったあとはやっぱり、自分の言った言葉を思い出し、悶え転がってしまうのであった。



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 ……。


 オーケー、美鈴。

 まだイケる!

 ヘイ! 美鈴! ネゴシエーター美鈴!

 交渉だ! 交渉でなんとかするんだ!


 私は登の服で顔を隠すようにして交渉を開始した。

「そ、その〜ですね。お願いがありまして、ですね」

「熱は大丈夫か?」


 嗚呼、登、優しい、LOVE。

 ハッ! いかんいかん。


「熱? あはは、そうデスネ。熱、有りますよ? 有りますけど、もう少しだけ待っていただけますか?」


 登が肩に置いた手を私の背中と頭に戻す。

「分かった」


 おうふ、これはこれで私をダメにする体勢ですよ!? 登さん。

 簡単に言うと抱きしめられてます! 包まれて温かくて色々ヤバいのです!


 とにかく私は顔を隠したまま話を続ける。

「その〜ですねー、2つほどお願いがありましてー」

「いくらでもどうぞ」

 いくらでも! いいの!?


「いやいや、甘過ぎでしょう。……いいんだけど。えっと1つは暫くこのままでお願いします」

 離されたら悶死出来ます。

 お願いします、許して。


「もう1つは……、お返事は卒業後まで待って頂けませんでしょうか?」

 色々とぶっちゃけたので、ここでトドメ刺されたら本当にどうしようもない。


「今では、ダメ?」

 まるで愛しい人にささやくような、甘くとろける危険な口調を!

 言い方だけで良い返事をしてもらえると、感じてしまうほど。


 私の腰よー!

 頑張れー!

 腰砕けになるなー!

 めろめろだ〜。


「ダメです! ……ダメになってしまうので。ずっと一緒に居たい。だから甘えて依存するのは嫌だ。ちゃんと成長して胸を張って、ずっと……」

 ギュッと私は登に更にしがみつく。

 一緒の未来が欲しいんです!


 登は優しく私の頭を撫でる。

 ふーわ〜! とーかーさーれーる〜。


「待つよ。ずっと待ってる」


 待ってー。待っててー。

 は! しかし、その間にタイムリミットを迎えては目も当てられない!


「あの……出来れば、ですね、そのあいだは彼女など作らないで頂けると、嬉しいのですが……」

 図々しいお願いとは思いますが。

 そんな私を登はギュッと抱き締めた。


 ハウ! 登からギュッと!?


「ここに居る彼女はダメか?」

 ここここここ、ここにいる彼女さんですか!?

 それって私!?


「い、いいえ、その彼女さんは少し待っていただけると、有難いのでし、て……」

 私じゃダメかって? ダメじゃない!

 ダメじゃないけど、ダメなのです!

 トロトロに溶かされるので、依存しきってしまう! それでは、困る!


 ああ〜でも〜堕ちる〜、ダメだー、でも幸せだ〜。


 そこにトドメとばかりに登は私の耳元で言葉を放つ。

 頭の中で艦長美鈴の号令の下、巨大戦艦が必殺の波動的なエネルギーがぶち放たれた感じに。

「待つだけなので、確定でお願いするよ」


 かーのじょー確定ー、おーめーでーと〜。


 もう何が起きているのかさえ分からなくなった私は。

「よろしくお願いしまふ〜……」

 ふにゃ〜っと、返事をしながら意識を失った。

 意識を失いながら、よく頑張って返事した私。


 ……幸せ。


 気付くと保健室で寝ていて、目を覚ますと心配そうな登の顔。

 ご、ご迷惑をお掛けいたしまして。


 家まで登に送ってもらうと、お母さんと花純にとーってもニマニマされた。


 ……そして、今。

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