ラブコメ展開に持ち込めないのは僕の実力不足なのだろうか

雨雲

プロローグ

 僕がまだ幼かった頃、父は探偵をしていた。気さくで少し痩せ気味、ボサボサ髪には白髪が少し目立っていた。

 足はよく父の持つ探偵事務所で遊んでいた。というのも家の一階が探偵事務所だったからだ。あそこは父のワークスペースであり、僕の遊び場でもあった。


 あそこに来る人の表情かおもよく見てきた。浮気調査の依頼をしてきた男性の怒りと不安に満ちた表情。ストーカー被害に遭った女性の恐怖と憤りでいっぱいの表情。警察庁から依頼を受け持った時の、父のやる気に満ちた表情は今でも忘れない。常に全力を尽くす父の姿を見て、いつしか僕も父の仕事に携わりたいと思うようになったいた。


 しかし、小学4年の11月25日。

 父が失踪した。


 あの日を僕は鮮明に覚えている。雪が降っていたんだ。しとしとと降る雪を事務所の窓ごしに眺めながら俺は父の帰りを待っていた。


 「明日は遅くなるけど、心配せんでね」


 昨夜、父が発した最後の言葉だ。次の日の朝、父は誰よりも早く起き、家を出た。そして帰ってくることはなかったんだ。






 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る