第16話 ひゃっはー!
「ビルの周囲を」と申し伝えたものの、ゴブリンらの性質からちゃんと伝わっているか不安だったので、俺たちが住む南棟はしっかりと施錠してきた。
施錠と表現しているが実のところ、入り口を壁に作り替えてくるという完璧さだ。
自由自在に調整ができる創造スキルならではのやり方だな、うん。
狩場の森まではそれなりの距離があって、徒歩で行くにはちょっとなあ……。
ゴブリンたちは多すぎるから歩きで仕方ないとして、今度もまた俺だけスケートボードに乗ってラウラに「後から来てね」は気が引ける。
「あ……」
とっても良い手を思いついてしまった。俺って天才かもしれん。
スケートボードの時より大きな車輪とゴムタイヤ……いわゆるノーパンクタイヤを出してから、板と落ちないようにぐるりと柵を作って……よし、完成。
見知った台車を一回り大きくして周囲をぐるりと二本の棒状の柵で囲った一品だ。
「ラウラ。ここに乗って。ついでにスレイプニルも」
「うん?」
「にゃーん」
ルルーはスレイプニルでも俺でもどっちでもいいのでしがみついてもらおう。
『これは何もきゃ』
「これは、台車です」
『台車って何もきゃ』
「コマが付いていて、押すと動きます」
『スケートなんとかと同じもきゃ』
「スケートボードと違って、足で押して動くようにはできていない。どう使うかは見た方がはやい」
俺も台車に乗ってから柱を想像し、創造する。
高さは5メートルってところ。余裕を持たせてもう少し高い方がいいかもしれないけど、慣れるまでは落ちるかもしれないからこれくらいの方がいいだろう。
「行くぞー」
柱が坂に変わり、重力に引かれ自然と台車が動き始める。
地面に到達する前に高さを5メートルに戻し、また下り坂……と繰り返し、進んで行く。
「うまく行ったー。よしよしー」
ガッツポーズをする俺に対し、彼らは三者三様の反応を見せる。
「すごいー。勝手に進んでる!」
『もきゃー』
「にゃーん」
よっし、大きく軌道がズレることもないし、このまま行けそうだな。
坂道の角度をつけ、スピードをあげることにした!
「ひゃっはー!」
気持ちいい―。自分で頑張らなくていいから楽々だぜー。
といっても集中力が必要なので、車を運転することに似るのかもしれない。
◇◇◇
森の入り口まできたところで台車から降り、柱もどきや坂道を消して元のアスファルトの道へ戻す。
ゴブリンたちが来るまでしばしの時間があるけど、先に森へ入ろう。
「スレイプニル、頼む」
『任せろもきゃ』
得意気に応じたのは、スレイプニルにまたがってピンク色の鼻をひくひくさせるルルーだった。彼は自分のペットが頼られて上機嫌なご様子。
猫の鼻に頼るってのも不思議な話だ。それほど鼻がきく種だったっけ、猫って。
犬なら分かるのだけどねー。
スレイプニルの後を続きつつ、食べられる木の実や果実など無いか周囲を見渡すことも忘れない。
「あ、ちょっと待って」
ラウラが木の根本を指し、俺たちを呼び止める。
続いて彼女は腰のダガーを抜き、木に絡まったツタに指をかけ引っ張った。
「食べ物なの?」
「食べることもできるけど、苦いわ。これは火傷をした時に貼り付けるの」
「ほおほお、薬草の一種かー。この辺りは俺の住んでいた街と植生が少し違うんだよな」
「よく、山に採集へ行っていたから。この辺りは私の村にあった野山によく似ているの」
「おお。そいつは心強い」
ぼっちだった俺は、殆ど誰の手も借りず独学で採集に励んでいたんだ。
彼女も似たような感じかもしれないけど、予想した通り俺よりは随分と詳しそうだな。
彼女が住んでいた村がここと似たような植生だったということもあるのだろうけど……。
そんなやり取りをしている最中、もきゃーから指示が飛ぶ。
『右方向、空。飛んでくるもきゃ』
大雑把だな、おい。
だけど、問題ない。目視さえできれば……。
バッサバッサ。
ルルーの示す通り、木々の間右手上方向に蛇らしい何かが翼をはためかせとんでいた。
灰色の鱗を持つ8メートルほどの大蛇は背にいつくものハトのような翼があって、ちょっと気持ち悪い。
あれ、食べられるのかなあ。
お、おお?
シャアアアア!
大蛇の顔がこちらを睨んだかと思うと細い紫色の舌を出して急降下してくる。
「出でよ」
進行方向に巨大な金網を幾重にも張り巡らす。
メコメコォ!
大蛇が金網に頭突きをすると、金網が大きくひしゃげる。
おいおいなんてパワーだよ。
このまま放置していると、金網を喰い破りそうだ。
ならこいつはすぐに仕留めた方が良いな。
「出でよ!」
足止めされている大蛇の上空から幾本もの槍が降り注ぐ。
だが、大半が硬い鱗に弾かれてしまう。
それでもうまく突き刺さった槍が、奴に深々と傷をつけた。
しかし、大蛇の勢いは止まらない。俺たちに襲い掛かろうと巨大な頭を金網に打ち付けている。
「え、ええい! 出でよ!」
1メートルのキューブを大蛇の5メートル上空に出現させる。
下へ動く勢いをつけたキューブは重量に引かれそのまま蛇の頭を押しつぶした。
イメージは10トーンと描かれた分銅だったのだけど、思った以上に破壊力があったな、これ。
「……大賢者様……凄すぎて……なんだかもう……」
ラウラは派手な戦闘風景にくらりときたようで、ペタンと座ったまま茫然と俺を見上げていた。
我ながら雑な戦いだとは思うけど、安全に倒すにはこの方がいいんだよねえ。
近づけると怪我するかもしれないし。
「うわ。頭はもう完全にダメだな」
創造した槍や錘を消して、ズルズルと蛇を引っ張ったが頭は完全にひしゃげていて地面にめり込んでいた。
それにしても、重い……。
胴体に腕を回しても手が届かないものな。
「ゴブリンたちが来てから運ぼうか」
『喰われるもきゃ』
すかさず白猫に乗ったルルーから突っ込みが入る。
蛇の新鮮な肉を放置したら、何者かが食べてしまう。確かにそうだ。
誰にも手をつけられないように保管する手はもちろんある。
「いや、これを餌に捕食しようとする魔物を狩れないか」
『待ってみるかもきゃ?』
「スレイプニル。何か近づいてきたら『にゃーん』頼めるか?」
「にゃーん」
こくこくと頷くスレイプニルは、尻尾をピンと立てて了承してくれた様子。
『任せろもきゃ。オレサマとスレイプニルならば、容易い事』
「おう。期待している」
ルルーは何の役にも立ってないだろう、なんて正直に言うと拗ねてしまうからな。
大人な俺は素直に彼へ応じことにした。
「ラウラ。立てるか」
「うん。ご、ごめんね。腰が抜けちゃって」
手を差し伸べると、縋るようにしてラウラが俺の手を引っ張り立ち上がる。
「何か来るまで周囲に食べ物や薬草がないか探そうか」
「うん。任せて。探してみるから」
「ありがとう。俺にも教えてくれ」
「もちろん!」
ようやく笑顔が戻ったラウラに俺も自然と口元が緩む。
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