第3話 創造スキル

 猫とフクロモモンガもどきは放っておいて、新たに得た能力を確かめるとしよう。

 創造スキルは妄想を形にする夢のような能力だ。しかし、何でも再現できるというわけじゃあない。

 その証拠に、焼き鳥も照り焼きも再現できなかった。

 「調理済み」の料理だったからダメだったのだろうか。

 

 新鮮な豚のバラ肉を想像し、場所は地面でいいか。

 

「出でよ」


 出てきたのは、精巧に彫られた木製品……バラ肉の。

 料理じゃあなくて、食べ物そのものが創造できないことは確定だ。

 衣食住の食以外はという俺の断定が間違っちゃいなかってことだな。うん。

 それに、今出て来た木彫りのバラ肉だが、彩色されていない。

 

「意外に制限があるな。頭の中でいかにリアルに思い浮かべるかにかかっているのか……」


 彫刻という分野なのだからかもしれないけど、より細部まで思い浮かべたら精微な製品となって出てくる。

 ぐうう。

 腹が鳴ってしまったが、検証が先だ。

 

 先ほど出した木彫りのバラ肉に向け、「消えろ」と命じてみる。

 すると、一瞬にして木彫りのバラ肉は姿を消す。

 元は魔力か何かでできているのかな。綺麗さっぱりと消失した。これで、作ったものを廃棄する心配はしなくていい。

 次から次へと作って、失敗して作ってを繰り返していると辺り一帯がゴミだらけになってしまうからな。

 

「サバイバルとなると、肉も自分で狩らなきゃなんないからな。こいつを試すか」


 ストンと手の平に落ちた筒と持ち手で構成された黒い金属製品をしげしげと見やる。

 うん、写真でしか見たことがなかったけど一応再現できているな。

 こいつはリボルバーと呼ばれる回転式シリンダーを持つ拳銃だ。ええっと確かセーフガードを外してトリガーを引くのだっけ。

 シャキッと構え、狙いをつける。

 

 撃鉄を起こし、人差し指に力を込めトリガーを引く。

 カチリと音が鳴るだけで、何ら反応を返さなかった。

 弾が詰まっていない?

 シリンダーを外して弾の様子を確かめようとしたが、シリンダーが外れない。

 よくよく見てみたら、これ、おもちゃの銃みたいに外観を真似ただけじゃないか。

 俺が構造を細部まで知っていたらこうはならないのだろうけど、知識的に銃を再現することは無理そうだ。

 

 てことはだな。

 

 今度は勉強机ご用達のスタンドライトを創造し、スイッチを押してみるがやはり点灯しない。

 こいつは参ったな……蛍光灯の構造を正確に再現し電池の構造も同じく……なんて無理だろ!

 電化製品なんていうまでもなくダメだ。

 

『さっきから何を遊んでいるもきゃ? 見た目通り小さい男もきゃ。やるならどーんとやれないのかもきゃ?』

「え、ええい。俺はやるときゃやる男だ。見てろよ」

『オマエのことだ。せいぜいそこの大木程度でどうだとかやるもきゃ』

「う……」


 売り言葉に買い言葉じゃあないけど、創造スキルがどこまで巨大なものを再現できるのか試してみたくなった。

 ビビッて気を失うなよ。ルルー。

 できる限り細部まで、想像し、創造する。

 いきなり家を建ててやるか。いや、それだとあのフクロモモンガが「ふーん」とか気の無い返事をするに違いない。

 創造しやすい単純な構成で、派手派手なもの。あ、そうか、これなら一石二鳥だな。

 

 目をつぶり、深い集中状態に入る。

 全体構造から、材質、見た目、できる限り詳細に細かく妄想していく。

 

「出でよ!」


 ドドドドド。

 周囲の木々が薙ぎ倒され、巨大な四角い天高くそびえ立つ鉄筋コンクリートの建物が出現する。


『上が見えないもきゃ……。天空の塔を作るとは……恐れ入った』

「お、おう」


 正直俺もビックリして心臓がバクバクしていた。

 想像しやすいように、333メートルの立方体にしたのだ。

 一階の高さを5メートルにして、66階建ての超高層ビルとなった。

 といっても、立方体だからビルというより巨大なサイコロみたいに思えてくるな……。

 張りぼてにならないように、中はどの階も同じ作りにしたのだけど、崩れてこないところを見るに最低限の再現はできていると思う。

 もし崩れてきたら、即「消して」いたところだった。

 消す時は一瞬で消すことができることを確認済みだからな。

 

 しかし、これ、住むには広すぎだよな……。ま、まあいい。部屋を区切ればいいんだ。

 創造スキルがあれば、後付け工事も楽々だぜ。


「中に入ろう。高いところから見下ろせば、周囲の様子も分かるし」

『もきゃ!』


 興奮した様子のルルーがピンク色の鼻をひくひくさせ、白猫のスレイプニルにまたがる。

 

 ◇◇◇

 

 甘かった。

 何が一石二鳥だよ……。少し前の俺、もう少し考えてからにしろよ、全く。

 中ががらんどうで仕切りさえないのは想定通り。広すぎて反対側の壁が霞んで見えることもご愛嬌だ。

 入口からすぐ右手にエレベーター、左手に階段がある。

 試しに壁、階段をコンコンと叩いてみたけど、ちゃんと頑丈に作られているようでホッとした。

 次にエレベーターのスイッチを押したところで、俺は気が付いてしまったのだ!

 

 エレベーターが動くはずがないってことに。

 電池でさえ再現できない俺にエレベーターが動作するようにできるはずもなく……。

 なら、階段で333メートルを登るか?

 いやいやいや。空腹に耐え、登り切ってまた降りて来るなんてするくらいなら獲物を探しに行った方がいいって。

 66階だぞ。階段で登り降りするなんて正気の沙汰じゃない。

 

 更にもう一つ、重大な欠陥がある。

 現代日本のビルならば、あって当たり前のものがここにはない。

 そうだよ。明かりがないんだ。

 蛍光灯を作ることができないので、いくら全面ガラス張りだとはいえ333メートルも幅がある室内だと中央に行くまでに真っ暗になってしまう。

 頑張ってもせいぜい30メートルくらいだよなあ、外の光が届く距離って。

 

 興味津々といった様子でまん丸の大きな目を輝かせるルルーを放置し、頭を抱えつつ外へ出る俺であった。

 

 さて、どうしたものか。

 改めてビルを見てみる。

 ビルが立つ境目を見た感じ、基礎工事なんてものがなく地面の上にそのままビルが建っているように見えた。

 この辺は魔法ならではってことか。

 ビルが建つ前にあった木々やらは、吹き飛ばされていった。

 こいつは大災害だな……ビルの周囲にバラバラになった木々が多数転がっているじゃあないか。

 

 お、おおお。

 不幸にもこの場にいたイノシシらしき動物が倒れている! 探せば他にもいそうだな。

 あまりに豪快過ぎる狩りにもなったってわけか。

 明かりの問題を解決してからと思ったけど、腹が減って仕方ない。

 

 なので先に、木炭とバーベキューセットでも出してお食事といきますか!

 解体用のナイフも問題ない。電化製品じゃあない単純な道具ならいくらでも作り出せる。

 

 ◇◇◇

 

 じゅうじゅうと焼けてきたイノシシ肉にパラリと塩をふりかけ、トングで挟み口に運ぶ。

 塩は無機物だから、作り出すことができるのだ。塩分が摂取できないと人間は生きていけないから、非常に助かる。

 

「熱っ! だけど、うめえ!」

 

 一心不乱に食べて食べて、食べる!


「ふう。食った食った」


 満腹だ。

 いつの間にかルルーとスレイプニルもイノシシ肉を食べていたけど、肉は食べきれないほどあったし問題ない。

 彼らが食べたところで、俺一人分にも満たない領だったから、イノシシ肉が大量に余った。

 

「よっし、なら保管しておくとしようか」

『どうするもきゃ?』

「煙で焙っておくと保管がきくようになるんだよ」

 

 燻製セットを出し、燻製チップに火をつけ残りの肉を煙で焙る。


「よっし、できあがるまでビルの周辺を探索しよう。きっとまだまだ肉がある」

『スレイプニルは鼻が利くもきゃ。彼に先導させる』

「おお。ルルーと違ってスレイプニルは役に立つんだな」

『もきゃー!』


 お怒りなルルーのピンク色の鼻を突っつき、思いっきり吹き出してしまった。

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