第15話 幼女は突然にのびる

 その日、いつものことではあったが、目が覚めたのはシイコのほうが先だった。こういうとき、シイコは必ず、絵本を読み始めて、もしそれでも持て余してしまったら寝ているトオルにちょっかいを出す。

 トオルはシイコがちょっかいを出すのを目覚まし代わりにしていて、起こされればシイコのためにネットで買ったミネラルウォーターを準備することにしている。すっかり、それが日課になっていた。

 シイコが、――いつもはそういうことより、頬を引っ張ったり、上に乗っかってきたりするものなのだが、――寝ているトオルの体をゆすった。

「ん――――……なんだシイコ、もう起きたのかぁ……きょうは大人しいなぁ。わかったわかった、いま、朝ごはんしたくするな……」

 トオルは身体を起こした。シイコと目が合う。これもいつものことであったが、彼の眼前にいたのは、シイコであって、しかし厳密に言って、シイコでなかった。

「なあぁああ――――!?」

 そのとき、玄関先で、インターホンをすっ飛ばしてドンドンという音がした。

「幸野!? 幸野、いるんでしょ!?」

「しゅしゅしゅしゅ主任んんん!」

 トオルは腰を抜かしたまま玄関に急いで、鍵を開けた。

「幸野! 玄関先まで叫び声聞こえたわよ!? 朝っぱらからご近所さんに迷惑かけ、……、?」

 部屋に飛び込んできたノゾミも、シイコを目の当たりにした。すこし間があって、

 ノゾミは目をこする。何度かシイコを見直して、また目をこする。

 シイコはふたりの狼狽などお構いなしのように、床を転がってみたり、トオルに甘えてみたりと、相変わらず自由であった。

 ――姿が……変わっていると、いう、以外には。

「……ごめん、今日私眼科行こうかしら」

「……いや主任、多分俺にも同じもの見えてると思いますんで……」

「じゃあ聞くけどなんでタネコがのびてるの!」

「のびてるって言い方どうかと思いますが! あとシイコです!」

 シイコは目に見えて成長していた。最初のシイコが幼稚園児くらいだったとするなら、目の前のシイコは中学生一歩手前くらいと言ってもおかしくない。

「一晩でいきなりこうなったの? たねもの屋はなんて言ってるの?」

「まだ今日来てなくて。何時頃に来るとか全く読めないんで……」

 瞬間、大変タイミングがよく、インターホンの音がした。間違いない、これで宅配便なら俺はキレる! トオルは勢いよく玄関に走った。

「たぁねもの屋――――っ!!」

「はいはいおはようございます。今日はいい天気ですねぇ、勢い余って朝っぱらから来ちゃいましたよおアハハ」

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