第22話

「息子が行方不明になった事に関して、崎守家が関与していないことは分かりました。次に、龍の呪いについて教えて頂けますか」


 私は夫の死の真相について尋ねた。


「それは分かりません。あなた方の方が良く知っているでしょう」


 現道が言った。


「そんな訳ないでしょう?」

「いいえ。私たちは何も知りません。何も知らないからこそ、龍の力に恐れているのです」


 紀子が言った。そういえば倉持も、この村は龍に恐れているからこそ頻繁に儀式を行うのだと、そう言っていた。そう考えると、崎守家が呪いについて何も知らないのは、確かに納得できる。


「では儀式の際に起きた殺人事件について教えて下さい。あれは、あなた方が内心でダム建設に反対だったから、行ったのですか?」

「いいえ。違います」


 紀子が即答した。


「私たちは、本当にダム建設に賛成じゃった」


 と芙蓉はそう言って、お茶を啜った。


「しかし、ダム建設の為には村を手放さないといけませんよね。それでも賛成でしたか」

「ああ、賛成じゃった。村に住む者たちは皆貧しい。高羽市はそんな村人達に、保証を約束してくれた。断る理由などないわい」


 芙蓉は本心で語っているように見えた。


「ですが、あなた方は龍に恐れを抱いている。そしてこの村は、龍に呪われている。龍の呪いによって、あなた方は村から出られないはずですよね?」

「しかし、この村から高羽市に移住した人はいます。そしてその人達は無事でした。そして、市は村人全員を高羽市に移住させることを考えております」


 なるほど。そういう事実があるなら、辻褄は合う。


「では、ダム建設の責任者を殺害したのは、崎守家ではないと?」

「ああ、そうじゃ」

「では、誰がやったと思いますか」

「そんなこと、分かりきっています」


 口を挟んだのは、奈緒であった。


「龍の舞において、龍役は龍人が行う。つまり、犯人は龍人です」


 と奈緒は説明した。


「龍人がダム建設の責任者を殺害する理由は……」


 私はそう尋ねようとして、そして気付いた。芙蓉の話によると、ダム建設は村人にとって良い話だった。そして龍人はその村人を恨んでいる。とすれば、ダム建設の責任者を殺害して邪魔をすることは納得できる。


「久遠さんが今考えている通りです。そして龍人は、収入が見込めないこの村に閉じ込めて、ジワジワ、ジワジワ苦しめる。これが龍の復讐です」


 なるほど。わざわざ龍の言い伝えに見立てて責任者を殺害した理由も、犯人が龍人であれば納得ができる。


「それと、先ほどの日継君の件。彼は龍人に誘拐された可能性があります」


 奈緒は言った。


「何故、龍人が息子を?」

「日継君には、恐らく龍人に好まれる匂いを出していたからです」

「匂い?」

「はい。龍人には龍から力を授けられています。その力を子に対してより濃く引き継がせるには、相性の良い相手が必要です。そしてその見極めは、どうやら匂いで判断している様なのです」

「息子が、その匂いをしていたと?」

「はい、恐らく。私と日継君と、龍堂家の娘である尊は同じクラスでした。そして日継君を見る尊の目は、尋常じゃありませんでした」

「つまり龍人は息子と子作りをする為に誘拐した、ということですか?」

「はい」


 それが本当だとしても、違和感がある。


「しかし子作りなんて、一晩で済みますよね?」

「普通ならそうです。しかし龍人には龍人の慣しがあるようです。何らかの儀式をしてから子作りを行う。恐らくその所為で日継君は拘束されているのだと思います。それに我々の監視もあります」


 とするなら、息子が生きている可能性はさらに高まった。貞操の危険はあるけれど、命よりはマシだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る