第20話
夫の宏と初めて出会ったのは、高校生の頃。宏と私は同じ学校に入学し、そして友達となった。
やがて私は記者へ、そして宏は刑事へなるべく別々の進路を進んだ。私たちは疎遠となったが、成人式の日で再会を果たす。その時に、宏が私に告白をしてきた。ずっと前から好きだったと、言ってくれた。私も彼を気になっていたので、その告白が嬉しくて了承した。
やがて私は記者になり、宏は刑事となった。交際していた私たちは、二人の情報網を駆使して事件の真相を解き明かしたりもした。
結婚して子供が出来た。子供は日継と名付けられた。
「なあ東子。この子は俺たちの血を受け継いでいるんだぜ。敏腕刑事と記者の血をさ。それって最強だよな」
最強、なんて拙い言葉に私は笑った。
「日継は絶対に頭の良い子に育つ。そしたら、刑事の俺と記者のお前と、そうだなあ……天才の日継で事件を解くんだ。きっとこの三人が集まれば、どんな事件も解決できる。だから……」
そして宏は、ドヤ顔を浮かべてこう言い放った。
「久遠家は無敵だ」
それから数年。日継が大分成長した頃。宏は黒鱗村で起きた二つの事件について調査へ向かった。しかし事件を解決出来ずに帰ってきた。帰ってきた直後の彼は、特に問題が無いように見えた。
しかし翌日。宏の容態は一変した。髪の毛や首筋、腕や脚を血が出るまで掻きむしるようになった。夜中にドンドンと壁を無意味に叩くようになった。
「あなた! もう止めて!」
見ていられなくて、私は宏の手を押さえた。
「離せ! 離せよ!」
私の拘束を振り払おうと、怒鳴り、暴れる宏。彼の精神が異常なのは明らかだった。
「帰りたい……帰りたい……」
宏は呻くように呟く。
「どこに帰りたいって言うのよ」
私はストレスから、イライラしたように聞いた。
「黒鱗村に、帰らなきゃ」
宏がそう呟くようになってから恐らく三日後。彼は自殺したのだった。
*
「久遠家は、無敵なのよ」
夫が死ぬまでの過去を思い出していた私は、決意を込めて言った。
「夫が死んで、息子がいなくなった。でもまだ、私がいるんだから」
私は拳を固く握った。
「まだ久遠家は負けていない」
必ず、全てを解き明かして見せる。
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