第21話 中国に現地法人(製造業)を設立するなら立地には注意しよう
前回は「中国に合弁で現地法人を設立する場合の注意すべき交渉方法」と題して、一般論を紹介させていただきました。
今回は製造業に特化した内容でお伝えさせていただきます。
業種、初期投資額、出資形態(独資か合弁か)、などの要素によって、留意点は異なります。
ここでは「開発区」に進出する場合をモデルとしてご説明します。
開発区と五通一平
多くの日系企業は「開発区」と呼ばれる地域に工場を建設します。
日本でいう「工業団地」と同様に、 多くの場合中国の開発区には製造業を営むためのインフラが整備されており、一般地域と比べると 短時間で工場着工に着手できる、というメリットがあります。
開発区側が誘致する際に「五通一平」などという言葉があり、この「五通」とは一般的に、電気・上下水道・通信・ガス・道路が通っていることを指します。
ただし用地選定時には、将来現地法人が必要とする電気や水の用量を確認し、不足する場合は早急に増量してもらうことが必要ですし、開発区によっては、スチームや有線テレビも数えて「七通」と宣伝しているところもあります。
「一平」とは用地が平らになっていることを指しますが、開発区の多くは直前まで農地だったケースが多いことから、開発前の地形図を取り寄せて確認することをオススメします。
特に沼地や養殖場だった場合、地盤が弱い可能性がありますし、土盛り・填圧がいつ行われたかも確認することを忘れないようにしましょう。
また、目視する段階では平らに見えても、実際に計測すると数%の傾斜がある場合がありますので、ポイントごとに海抜を測定することも必要です。
耐荷重が重要な業種であれば、進出を決断する前にボーリング調査を行い、場合によってはパイルを打つことも検討しましょう。
また、揚子江下流域など岩盤がない地域もありますので、ボーリング調 査と併せて既進出の近隣他社にヒアリングすることも大切です。
筆者の経験上、進出予定地をほぼ決めていたものの、大雨の日に進出予定地を訪問したところ、 徒歩で移動することもままならないほどの大きな「水溜り」ができており、水はけの悪さから進出予定 地を変えたという事例もありました。
各地の開発区は、その認可機関のランクに応じて、国家級・省級・市級などに分類されています。
2008年1月1日に旧企業所得税法と同実施条例27が改正施行されるまでは、開発区に応じて企業所得税の優遇がありましたが、現在ではそのメリットも薄らいでいます。
現在でも誘致の観点から、独自の政策として、設立後の数年間は企業所得税や増値税の一部を還付するかのような説明を行う開発区もありますが、厳密には税還付ではなく補助金の色彩の濃いものですので、将来に亘って合法的に授受できるか否かについて、不透明なものもありますので注意が必要です。
この場合、受領可能な金額のみ見るのではなく、契約上、また契約に定めがなくても 法律上、この補助金を返還しなければならない場合があるかを検討する必要があります。
中国から 撤退する場面になって、政府機関から突如として補助金の返還を求められ、清算費用が不足する事 例も散見されます。
土地価格
そもそも中国では、土地自体の所有権を購入することはできません。
有期限の土地使用権を購入し、 土地使用権の購入には、国家から直接買取る「出譲」(日本語では「払下げ」と訳されます)と、国家から買取った土地使用権を転売で購入する「転譲」があります。
「転譲」は、民間同士の相対取引ですので大きな規制はありませんが、「出譲」の場合は、国家の貴重な資産を安く売却することのないよう、「全国工業用地払下最低価格標準」の発布および実施に関する通知28により、最低価格が定められています。
その第2条に「工業用地は、必ず入札募集・競売・公示の方式を採用して払い下げなければならず、その払下最低価格および成約価格は、いずれも所在地の土地等級(詳細については附属書2を参照のこと)の対応する最低価格標準を下回ってはならないとされています。
各地の国土資源管理部門は、土地払下手続をするときは、必ずこの『標準』を厳格に執行しなければならず、土地の取得源泉の相違または土地の開発程度の相違等の各種理由により所定の最低価格標準に対し減価修正をしてはならない。」と定められています。
しかし、この通知にもかかわらず、外資企業を誘致したいがゆえに、地方によっては、この価格以 下で契約したり、契約では最低価格を上回る金額を明記しながら、事後的に「投資奨励金」や「補助 金」の名目で、実際取引価格との差額を補填しようとするケースもあります。
合弁の場合
土地使用権の取引には、当然にして利権が絡みますので、合弁の場合は特に注意が必要です。
合弁パートナーが紹介してくれる土地使用権は、合弁企業にとって必ずしもベストな選択ではなく、紹介の過程で日本側には見えない様々な利権が潜んでいる場合があります。
土地面積
将来の拡張計画を見据えて検討するべきです。
「小さく産んで、大きく育てる」のは工場建設の基本ではありますが、隣接地が空いているか否かで、 将来の拡張の難易度も変わってきます。
だからといって最初から広めの土地を確保しようとしても、今度は開発区側から「投資密度」に関する規制を持ち出され、総投資額に一定の変数を乗じた面積しか使わせてもらえないケースがよくあり ます。
業種による対応の違い
投資密度の高い企業は歓迎されますが、環境負荷の高い業種である場合は、基本的に歓迎されません。
歓迎されない場合、明確な理由を伝えられないまま、開発区以外の土地や他の開発区を紹介される ことがあります。
進出検討の初期段階から、生産工程から排出される有機物や破材について、自社内で処理する工程や専門の産業廃棄物引取業者に引取を委託するスキームなど、環境関連の対策をしっかりと検討しておき、開発区との会談に望むことが重要です。
従業員の確保
従業員寮の有無についても、事前に検討しておくべきです。
開発区によっては、すでに独身寮や世帯寮をインフラの一部として建設し、それを外資企業が借上げることができるよう整備されているところもあります。
整備されていない場合は、開発区に建ててもらうのか、敷地内に自社用の宿舎を建設するのか、などの検討が必要です。
次回は、現地法人の名称のルールについて紹介させていただきます。
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