謎研にようこそ
時雨色
第一章
第1話 謎の男
瞼を開けるとそこは見慣れない天井が広がっていた。体を横に向けると、すぐ横に窓があり夕焼けの空が広がっている。
「いだっ」
体の左半分が強く打ち付けられたような痛みを感じ、腕に目線を向けると俺は見覚えのない制服の袖を通していた。
困惑しつつも体に掛けられていた布団を引き剥がすと、俺ではない誰かの体にしか見えず、仕方なく姿見があるところまで移動をする。
「誰だよ。お前は……」
そこには見ず知らずの学ランを着た男が映っていた。何故か土埃で袖が汚れている。右頬をつねってみるも目は覚めない。ほんのりと赤く染まる。
辺りを見回しても、医務室であることはわかるが俺が知っている場所ではないことだけは分かる。
状況が把握出来ずにいると、俺とは反対側に位置する扉が音を立てて開かれる。
「天波くん、目が覚めたんだね」
「えっ、まあ、ちょうど今」
どうやら俺のことを知っている女子らしい。以前の俺と身長があまり変わらないのか、目線にあまり違いを感じることはない。
この女子は俺より頭一つ低く、綺麗な黒い髪をしていて、手間隙かけて毎日手入れをしていることが感じ取る事ができる。ブレザーではなくセーラー服とまたより一層と際立たせている。
「どうしたの? まだ体痛いとか? 無理もないよね。だって、脚立からとはいえ、足場が崩れて落ちたんだから」
こいつは一体何をやろうとしていたんだと心の中でつっこむ。
それにしても、名前も分からず、帰ろうにも場所も分からない。校内と思われるこの場所であるなら、吹奏楽部の練習をしている楽器の音が聞こえてきてもおかしくはないはずなのに聞こえてくることはない。そうして、謎のチャイムが鳴ることで焦燥感を煽られる。
「吹奏楽部はもう帰ったのか?」
「今日は練習無いって行ってたよ。それがどうかしたの?」
ということはもう、あれを使うしかない。
「あのさ」
「なになに?」
「俺、記憶喪失になったみたいだ」
「記憶喪失!? どうしよう……まずは先生? それとも病院?」
「そんなに慌てる必要ないって。その都度、記憶喪失になったと言ったとしても、あーはい冗談ね……そんなことよりさってなるから」
「ならないよ! え~……家とか帰れないでしょ?」
「……恥ずかしながら帰れません」
「最初に会ったのが私で本当に良かったね」
そういって、帰路を一緒に付いてきてくれた。彼女の名前は御影詩織と呼ぶらしい。ただ、俺の前の名前といったものや友人も思い出そうもモヤがかかってしまい思い出すことが出来ていない。
彼女の名前と道と家が分かればどうにかなる。そう信じて俺は「他のことに関しては覚えているから大丈夫」とだけ言って心配をさせないようにした。
怪しまれたが、俺じゃない天波は信用されているみたいだった。
「はいこれ」
「持たせて悪いな」
「けが人なんだから、いーのいーの。それじゃ」
来た道をたどるように詩織は帰る場所に帰っていく。
手渡されたのは黒い普通のリュックサック。中身は丁寧にまとめられたゴミ袋に筆箱。そして教科書やノートの類。ちらりと顔をのぞかせた現代文は二年生向けの教科書だった。
「まあ、流石に中学生になって俺つえーは出来たりしないような」
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