第2話:婚約

 俺は一歳にして婚約することになってしまった。

 相手は皇太子だという事で、乳母や侍女達が大喜びしていた。

 確かに、たかだか伯爵家の娘が皇太子の婚約者に選ばれるなんてありえない事だ。

 普通の貴族令嬢なこれほどの良縁はありえないだろう。

 だが、俺は、男の魂を持っているのだ!

 男に抱かれるなんて、おぞまし過ぎて、とても耐えられん。

 おのれ、神め、絶対に復讐してやるからな、覚えていろよ。


「オンギャア、オンギャア、オンギャア、オンギャア」


 くそ、感情が高ぶると勝手に泣いてしまう、なんと御し難い身体なのだ!

 こんな状況に追い込んだ家族を恨むしかないが、貴族なら仕方のない事だ。

 大陸全体がきな臭い状況なのは、乳母と侍女達の会話を聞けばわかる。

 曽祖父も祖父も父も、家臣領民を護り、家を保つことに必死なのだ。

 女が生まれれば、政略結婚の駒に使うのは仕方のない事だ。

 彼らの苦しみは防衛大学で戦史を学んだから分かる。

 だが、だからといって、大人しく男に抱かれる気はない。

 姪っ子の書いたBL小説では、御先祖の真田幸村が上杉景勝に抱かれていたが、だからといって、俺が男に抱かれなければいけない事にはならない。


「まあ、まあ、まあ、まあ、オムツを交換しましょうね、お嬢様」


 くっ、感情を高ぶらせると泣くわ漏らすわ最低の身体だな!

 莫大な魔力を宿すようになったというのに、どうなっているのだこの身体わ。

 いい加減大小便を我慢できるようにならないと、内政改革ができないではないか。

 生れた時から鍛え上げている魔力と前世の知識があれば、魔王と綽名されている遣り手領主の、祖父を超える大魔王になって見せるのに。


「オンギャア、オンギャア、オンギャア、オンギャア」


 くそ、くそ、くそ、糞、情けなさすぎるぞ、羅王よ。

 布オムツをとってもらって気持ちいからといって、オムツを開いた乳母の見ている前で小便を漏らすなど、涙が出るほど情けないではないか。

 なんとしても、なんとしても大小便をコントロールするのだ。

 尿毒症が何だというのだ、そんなモノ魔力で何とかすればいいのだ。

 いや、そうだ、腎臓の再吸収機能があるではないか。

 魔力を使って血液を尿にする量を減らせばいいのだ!


「あら、あら、今日も体調が宜しいようで、大きなうんこですよ、お嬢様」


 やめろ、やめてくれ、乳母よ。

 人がせっかく大便の事を忘れて小便の事だけを考えようとしているのに、うれしそうに大便の話をするのは止めてくれ!

 別の事だ、別の事を考えるのだ。

 そうだ、皇太子の婚約者問題を考えて大便の事は忘れるのだ。

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