第62話 ドレスを作って着せ替えて
色々な様々なドレスを考案したグレース達だったが、結局どれが一番シーに似合うのか、どのドレスが一番シーに相応しいのかを決められず……考案したドレス全てを絵にして、おずおずとした態度でキャロラディッシュへと差し出してきた。
それはつまり考案したドレスを全て作って欲しいと……数え切れない程のドレス全てをシーのために作って欲しいという意思表示であり……絵の書かれた紙束を受け取ったキャロラディッシュは、グレースやソフィア達の性格からしてそうなることは分かっていたと、今更驚くようなことではないと無言で頷き、その紙束を一枚一枚丁寧に確認していく。
確認しながらグレース達にこの部分はどうなっているのか、裏側はどうなっているかなどを訪ねて……その全てをかなりの時間をかけながら確認していって……そうしてから一枚の絵を手にとって、もう片方の手で杖を振るう。
そうやって発動した魔術を受けて最初に動きを見せたのはグレースが用意した布地だった。
布地が開かれ、空中を舞い……その布地に光の線が書き込まれていく。
こう切れば良いのか、こう切ればドレスになってくれるのか。
そんな確認の意味を込めた光の線を見て……グレースが声を上げる。
「あの、あそこの、お腹の辺り。
もう少し細めにしてあげてください。シーさんの身体にはそちらの方が合うはずです。
それとあちらのスカートの部分ですが……」
そんなグレースの言葉の途中で再度杖を振るったキャロラディッシュは、グレースの体を浮かせて宙を浮かぶ布地の側まで移動させて……自ら線を修正しろとその手を光らせる。
次いでドレス会議に参加していたソフィアもマリィも宙に浮かされることになり……楽しげな声を上げて笑い合いながら、その手を光らせながら、布地に様々な線を書き込んでいく。
その光景を受けてただ呆然と……何も言わず何もせず事の成り行きを見守っていたシーは、その光景があまりにも楽しそうで、自分もその中に入り込みたくて、キャロラディッシュの方をちらりと見やる。
「……お前は自分で飛べるのだから、光の線だけを与えてやろう」
そう返したキャロラディッシュは再度杖を振るい、シーの手を光らせて、それを受けてシーは満面の笑顔となって、グレース達の下へなんとも嬉しそうにとひらひらと舞い飛んでいく。
そうして食堂は、布地と糸巻きと笑顔の女性陣が飛び交うなんとも形容しがたい空間となり……女性陣の笑い声を音楽として、指揮棒を振るうかのようにキャロラディッシュが杖を振り続ける。
布地に描かれた光の線がグレース達の思う通りの形となったなら、布地が魔力に切られ、ほぐされ、糸巻きの糸と絡み合い……新たな形に生まれ変わり、布から服へ、ドレスへと変化していって……出来上がった小さな、シーにしか着られないサイズのドレスは、シーの側へとふわりと浮かんでやってきて、まるでクローゼットにそうされているかのように整然と整列していく。
赤、白、黄色、単色のドレスもあれば、様々な色が組み合わさったドレスもあり……その数が増えてきたなら列が円状になり……シーの側をくるくると回転しながら舞い踊る。
そんな円の中からこれが良いと赤いドレスをシーが選んだなら、着替えの為の布地に囲まれた空間が出来上がり、そこに選んだドレスとシーが放り込まれ、着替えが行われて……柔らかくふわりとスカートが膨らんだドレス姿のシーが姿を見せる。
「わぁ、素敵、とっても素敵!」
両手を合わせてそんな声を上げるソフィア。
「うん……よく似合う」
微笑みながらマリィ。
「ん~~……もうちょっとスカートをこう、波のようにうねらせたいっていうか……キャロラディッシュ様、もうちょっとだけ手を加えさせてください」
と、難しい顔をしながら、頬に手を当てながらグレース。
「……いつまでも完成しないようでは魔力が尽き果ててしまうのでな、程々にするように」
女性陣にそう言葉を返したキャロラディッシュは、グレースの求めに応じて杖を振り、ドレスの微調整を行っていく。
こんなドレスが良いのではと絵にしたなら、その通りのドレスが出来上がって。
出来上がり次第すぐに、ドレスが似合う女の子に着せることが出来て。
着せた状態での微調整が出来て、思っていた以上の素敵なドレスを作ることが出来て。
それはキャロラディッシュが魔術を使っていればこそ……彼の魔力を消費しての光景だったのだが、ソフィア達はそのことを忘れてただただその素敵な奇跡に心を踊らせて、次々に、もっともっととドレスを作り上げていく。
その光景を眺めながら……食堂の椅子に腰掛け、杖を振るいながらキャロラディッシュはため息を吐き出す。
こうなるのだろうなぁとは思っていたが、まさかここまで楽しんで喜んで、夢中になってしまうとは……。
この程度の魔術であれば負担も少なく、体力的魔力的にどうこうという訳ではないのだが……あまりに長く続いてしまうようだと面倒であり、手間であり……食堂にいる他の猫達の手前、早く終わってくれることを欲しいと切に願うのだが、ソフィアもマリィもグレースも、そして着せかえ人形のようになってしまっているシーさえもが、そんなことを願っているキャロラディッシュの様子に全く気付くことなく、魔術によるドレス作りを楽しみ続ける。
キャロラディッシュの枝がうねり魔力が唸り、作り出しているその光景は……まるで海の中を泳ぎ回っているかのような、ドレスや布地が魚のように泳ぎ回る空中を遊泳しているかの光景で……ドレス作りに参加していない猫達は、その目を煌めかせながらその光景に見入ってしまい……自分達もそこに混ざってみたいと、空中を泳いでみたいと、食堂の天井を見上げながらわたわたとその両手を振り回し始める。
それを受けてキャロラディッシュは今日一番の大きさのため息を吐き出して……そうして仕方なしに、猫達の為に不承不承といった様子で、ドレス作りの関係ない猫達も空中を遊泳出来るようにと、杖を振るいその魔力を食堂全体に振りまくのだった。
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