名前のない物語 ーNameless storyー
らこたか
第一章 対能力犯罪委員 委員会 『AAC』
第1話 始まりの物語
物語というのは必ず前置きがあります。プロローグとも言うのですかね?まぁ、だからこそ物語に面白味が付いてくるものです。
しかし人生というものには前置きなど存在しません。いつも唐突に始まります。
だけど、もし彼の物語にあえて前置きを付けるのなら出だしは「それはある日のこと......」と始めますかね。
ーーーーーーーーーー
4月上旬。冬の寒さから解放され、新たな出会いと生活に胸を膨らませる若者たち、幾度となく出会いと別れを繰り返しこの季節を過ごしてきた大人たちが寝静まる━━━夜。
ここは建物の並ぶ町の中心から少し離れた、虫の鳴き声がよく聞こえる田舎で田んぼ道で、
その男は走っていた。追いかけてくるその存在から、自分を殺そうと追いかけてくる存在から逃れようと━━
「どこへ行こうと言うんだ?」
追いつかれた。それはあまりにもあっさりと追いつかれてしまった。だがそれは至って当たり前のことであった。
黒い服にフードを目深に被り、デニムのような生地のズボンを履き、刀を手にした少年(顔が見えないため少年のようなと言った方が合っているかもしれない)。その背中には黒い羽があった。
目の前に静かに降り立った少年の容姿に聞き覚えがあったのか、男は怯え、震える口から言葉を放った。
「冥帝......」
冥帝......それは数年前から姿を現しており、夜になると犯罪に手を染める能力者の前に現れ「死」という裁きを下すという者。
しかしながら、その存在を見たものはおらず、居たとしてもそれは裁かれるべき者で、二度と口など開けなくなる。
結果冥帝を見たものは居ない。
そしてその人物は都市伝説にもなり、その行いから冥界からの使者でないのかと呟かれ、付いたあだ名が「冥帝」。
少年こと、冥帝は腰を抜かし動けなくなる男に問う。
「
だが、恐怖に震える男に答えることはできない。答えたとしても結果は同じであっただろう。
「放火、及び殺人......その身に罪を背負い━━償え」
そう冷たく言い放ち、抜刀する。
その刀は月に照らされ、青白く光っていた。
「う......うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ヤケクソであった。なんとか魔力の炎を放ち冥帝に傷を与えようと。しかし、
「ぇっ............」
一閃━━男がかろうじて放った炎を、冥帝は切って消した。そして男に刃が迫る。その恐怖に寸前で気絶してしまったのは、せめてもの救いか......だが男が二つに割けることはなかった。冥帝は刀の背を強く当てただけだった。
「......死を与えるなど誰が言ったかは知らぬが、お前は拘置所送りだ。もう殺しはしない......」
誰に言うわけでもなく、まるで自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
ーーーーーーーーーー
翌朝、とある町の高校に通う高校2年生、黒髪黒瞳のいたって普通な男子、
「お~~~~~~い!!光希~~~~!!」
「ムロか、うるせーよ、もっと声押さえろよ......」
完全に陰キャな受け答えをする光希になおまだ続ける。
「押さえてられっか!?隣のクラスの女子が能力者になったってよ!見に行こうぜ!!」
「別に良いけど、なんでそこまで見たがってんだ?」
「そりゃあ、可愛かったら追いかけるに決まってんだろ!」
何言ってんだと心の中で一蹴。
興奮気味の彼は友達の
自分のクラスとお目当てのクラスは同じ方向なのでとりあえずついていくことにした。
「しかし、能力者ねぇ......これで何人目なんだ?」
「確か......1年に1人、2年に2人、3年に1人だったはず。」
「何人中?」
「1クラス40人で7組あって、かける3の人数!」
「計算させんな」
「俺が暗算できると思ってるのか!?」
期待はしてなかったのでスルーする光希。
(しかしまぁ、840人中4人か......隣の町はもっといるぞ)
そもそも能力者とは神の力を与えられたものとも言われている。だが、与えるという表現は少し語弊がある。
人は何かしらの能力を必ず持っており、魔力が体を循環している。だがそれを自覚できていないがために能力を使えず、自覚できるよう仕向けるのが神の力である。
能力者には大きく分けて2つ種類がある。
1つ目は魔人、自分のイメージによって魔力を力に変える。それは攻撃に用いるものであったり、身体に作用するものであったりする。
2つ目は獣人、魔力を消費し続け獣の力を身に宿す。動体視力、身体能力などがあがり、宿した獣特有の力を使うことができる。
一般には魔人が当たり能力と言われている。それは、扱いやすさとでも言うべきか。獣人は基本近距離特化なため戦いにおいて不利になることがしばしば見受けられることにあるだろう。
しかしまぁ、基本自分の得意とする属性の能力以外上手く扱えない人が多いからあまり気にすることでもないのかも知れない。
「能力者はどちら~?」
智也がおちゃらけた風に探す。
さて件の能力者だが、正直興味が無い......と、目の前に懐かしい顔があった。
「あ、光希じゃん」
「香織?また、ずいぶんと久しぶりだな」
(なんか、隣に変なやつがいるな......)
そこには驚愕という驚愕を顔に出す智也がいた。なんで話てんの?と言いたげな顔で。だが推理の得意な光希には十分な情報であり、おおよそを把握した。
「なるほどな、能力者になったってのはお前のことか」
「そう。なに?祝いにでも来てくれた?」
上目遣いに聞いてくる香織に対して首を横に降る。
「いや、そこの変なやつのツレだよ。」
そう答えた。「変なやつ」扱いされた智也が不本意そうな顔をしているが気にしない。しかし、ここで「おめでとう」の一言でも言えてれば陰キャなどやってないだろうに。少し残念そうな顔で香織が見る。
「そっか......まぁ、もう授業始まるから、じゃあね」
「おう、じゃな」
そう言って軽く手を振り返す。
ーーーーーーーーーー
ありきたりに新任の教師たちが自己紹介をし、教材の説明をする間に授業は終わり、それを三回ほど繰り返した結果昼休みになった。途端、智也が駆け寄り━━
「なんでだよ!?」
「なにがだよ」
「なんで分かんないんだよ!?」
理不尽であった。
「なんで八色さんとあんなに親しそうなの!?」
3時間以上前の話をしようとしてるのを「悟れ」というのはなかなか無理な気がしたが、光希は質問に答える。
「そりゃあ、中学のとき同じクラスの友達だったしな」
「かーーーっ!でた!同じ学校とか言うアドバンテージ主張してくるやつ!!」
(微塵も主張したつもりは無い)
と、ぼやいた。そこに、
「なに?コウさんに彼女でもできた?」
「おい、ヒロ。お前、俺にそんなん出来ると思ったのか?」
冗談を言ってくるこのメガネは光希の友達の
弘人は光希を『コウさん』と呼び、光希は弘人を『ヒロ』と呼ぶ。
それなりに運動はできるが、光希と同じ帰宅部である。成績も悪くは無い方だ。
「聞いてくれよ!さっきな━━」
なんか話を盛られた気がしたが勘違いはしてないようなので適当に返事を返していく。いいから飯食わねーのか?と思ったが、智也の勢いに押されて言い出すことはなかった。
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