十の宝〜明の巻
「
おうむ返しに時空が呟く。
「
それまで後方に控えていた鈴が、
「それまで連敗を
鈴は史書のポイントを抜粋し説明した。
「金色の……霊鵄?」
「【霊鶏の蒼炎】の事よ……
隣に立つ仄が、意味深な表情で補足する。
「数百の軍勢と八握剣をもってしても相当苦戦した相手……つまり、それだけ手強いという事よ」
「フフ、さすが
そう言って赤角こと、長髄彦は不敵な笑みを浮かべた。
「あの奥義さえ無ければ、我は確実に彦火火出見の息の根を止めらたのだ。我の
長髄彦は
「でも確か史書では、長髄彦は信奉する
「何っ!饒速日命に……殺されたのか!?」
鈴の言葉に、時空が思わず声を上げる。
「はい。彦火火出見に敗れた事を認めず、饒速日命の制止を聞かなかった……それで剛を煮やした饒速日命が命を絶ったと……」
「フフフ……馬鹿な事を」
「
腹の底に響くような声だった。
顔に張り付いた笑みが、次第に異様な角度にねじ曲がり始める。
「御神は申された……私と共に来るが良い。神武天皇の
そう言って、長髄彦は両手を天に掲げた。
吊り上がった口角から泡が垂れ落ちる。
「どうやら饒速日命に
仄が眉を
「じゃあ、あの異形たちは……!?」
驚く時空に少女は小さく頷く。
「皆、
「この角も、この顔も、そしてこの身体も、全て憎き神武天皇を倒すために、御神が与えて下さったもの……見るがいい!生まれ変わった我の真の姿を!」
最後に絶叫すると、長髄彦は両拳を固く握り締めた。
全身から尋常では無い殺気が
赤く変色した身体が、何か別のものに変わろうとしていた。
数え切れぬほどの突起物が表皮を覆い、背中からは蜘蛛の脚に似た触手が突き出した。
耳元まで裂けた口には牙が生え、長い舌が垂れ下がる。
巨大化した額の角が、赤黒い光沢を放っていた。
それはもはや人では無く、例えようも無く
その様相を目にした少女たちの身に戦慄が走る。
恐ろしいほどの殺気に、皆硬直して動けなかった。
シャァァァァァ……っ!!!
その元長髄彦だった怪物が、巨大な遠吠えを上げる。
凄まじい振動に、思わず耳を塞がねばならなかった。
「一体……アイツは何なんだ!?仄」
驚愕の表情で時空が問いかける。
「分からない。奴の強い怨念から饒速日命が創り出した生き物……もはや人でも古の異形でも無い、別の何かよ」
さしもの仄も、困惑の色を隠せなかった。
「いずれにしても、今までの相手とはレベルが違うわ」
それは時空にも感じ取れた。
怪物から発散されるオーラは、闘気と言うよりは
対峙しているだけで、こちらの体力が吸い取られていく。
見回すと、少女たちにも苦悶の色が浮かんでいた。
「これは……長引くと危険だ」
「短期決戦しかないわね」
時空と仄は顔を見合わすと、二手に分かれた。
「俺たちが突破口を開く。皆、用心しろ!」
そう声を掛けると、時空は怪物の背後に回り込んだ。
「
そのまま首筋目掛けて斬りかかる。
ガキィィィーーンっ!
甲高い金属音を伴い、何かが真っ二つに裂ける。
だが、それは怪物の体では無かった。
見ると先ほどの巨大なクレーンが、怪物のまわりを取り囲んでいた。
クネクネと揺れ動くそれは、もはや天井から吊り下がった機械では無かった。
一本一本が、まるで生き物のように
「こ、これは!?」
「ふっ……驚いたか」
思わず声を詰まらす時空に向かって、怪物は鼻を鳴らした。
「我の身は、すでにこの廃工場と一体化している。この建物にあるもの全てが、我の意のままに動く。お前たちは我の体の中で闘っているのだ!」
怪物の顔に、勝ち誇ったような笑みが浮かぶ。
先ほどのクレーンの襲撃は、コイツの仕業だったのか。
だが全てのクレーンを切り落とせば、コイツは丸裸になるはず……
やるしかない!
意を決すると、時空は仄の方を
同じようにクレーンと対峙していた仄が、その視線に気付く。
意思疎通を図った二人は、左右から同時に斬りかかった。
「無駄だ」
身動き一つせず、怪物が言い放つ。
「
掛け声と共に、怪物の体から得体の知れない黒煙が噴出した。
あたりに散らばる廃材や棚が、見る見るうちに怪物に引き寄せられていく。
それらは次第に、怪物の周りで渦を巻き始めた。
キィィィィィ……ン!!
甲高い金属音と共に、時空と仄の攻撃が跳ね返される。
まるで竜巻のような廃品の渦は、完全に怪物をガードしていた。
さしもの時空や仄の剣でも、突破するのは容易ではなかった。
「くっ……なんだ、この渦は!?」
八握剣でも破砕できないとは!?
言いようの無い衝撃が時空を襲う。
「倉庫内に張り巡らしたアイツの闘気が、廃材の硬度を増幅しているみたいね。鉄よりもはるかに硬いから、私たちの斬撃も通用しない。しかも、それを回転させて身を守っているので、付け入る隙も無いわ」
「工場と一体化したとは、そう言うことか」
仄の解説に、時空は困惑の表情を浮かべた。
「ふん、無駄だと言ったろ。これが我の力だ。この建屋内のもの全てが、我の体の一部なのだ。たとえお前たちでも、我には指一本触れられぬわ。さあ、分かったら此処で大人しく死ね!」
そう叫ぶと、怪物はまた両手を広げた。
それを合図に、渦の中から
それは周囲に散らばる少女たちに、飛弾となって降り注いだ。
「
「鳴動拳!」
尊の放つ光の壁と、幽巳の起こした
なんとか
それは、尊と幽巳の苦しげな表情が物語っていた。
「くそっ!こうなったら……」
時空は咄嗟に仄に目配せした。
もはや奥義を使うしかない!
かつて倒せたのなら、今の自分にも出来るかもしれない……
意を汲み取った仄が、
それに合わせるように、時空も
「
仄の剣から白き炎が噴き出す。
「
時空の剣からも青き炎が噴き出した。
二つの剣から
が……
その体には傷一つ付いていなかった。
周囲を覆う渦が防御壁のように遮ったからだ。
それだけではない。
跳ね返された炎が、逆に時空と仄に降りかかった。
瞬時に回避するも、激しい衝撃が二人を
時空は肩口に傷を負い、仄の衣服は
「フハハハ!無駄だ、無駄だ。今の我にお前らの奥義など効かん」
平然とした顔で、怪物が笑い飛ばす。
その様子を見て、時空は唇を噛み締めた。
このままでは、全員やられてしまう。
だが、コイツに八握剣は通用しない。
一体……どうすれば……
「こうなったら、最終奥義を使うしか無さそうね」
時空の心中を読み取ったかのように、仄が声を上げる。
「最終奥義?だが、霊鶏の蒼炎は奴には……」
言葉を詰まらす時空に、仄は光る目を向けた。
「時空、あなたにはまだ最後の切り札が残ってる」
「最後の……切り札?」
「鈴さん、あなたの力を借りるわよ」
仄の突然の呼びかけに、鈴が飛び上がる。
「私のチカラ……
鈴が驚いた顔で
「いえ、【
「最後の神器って……!?」
晶と凛の揃って驚く声が
「
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