三の宝〜天の巻

「これでやっと二つ目ね」


何がです?


「神器に決まってるじゃない。全く【十種神宝とくさのかんだから】なんか題材にするから、結局十個集まらないと終わらないんでしょ。このハナシ」


は、はあ……

一応設定がそうなってますので……


「後から出てくる人たちはいいわよ、楽で。私と時空ときなんか、バカみたいに一話からフル出演よ。キャラのイメージ持続させるのも大変なんだから、ちょっとは気をつかってよ」


い、いや「バカみたい」と言った時点で、すでにイメージがくずれ……


「とにかく、今後の展開にも最新の注意を払ってくださいね!」


わ、分かりました……努力します。


「……まあいいわ。一応メインキャラでもあるし、何とか頑張るわ」


ありがとうございます。

助かります。

喜びの極みです。

ははぁ……(筆者土下座)


……以上、推古尊すいこ たけるちゃんのお茶目?なクレームでした。



時空ときの額に汗がにじむ。


伊織を家に送り届けた帰り道で、その死闘は続いていた。

川沿いを歩いている最中に、突然襲ってきたのだ。

相手は一見すると例の黒装束だが、頭部から突き出た赤い角がである事を示していた。

動きも、これまでとはまるで異なる。

両手にたずさえた短剣から繰り出される攻撃は、恐ろしい程の速さと正確さを備えていた。

八握剣やつかのつるぎで応戦するも、防御するのがやっとだった。


とにかく速い。

得意の居合術も、構える隙が全く無かった。

甲高い金属音と火花を散らしながら、じりじりと後退する。

土手際に生える樹木に背中が当たり、後が無くなった。

身をひるがえしたいところだが、途切れる事の無い神速の攻撃がそれを許さなかった。


このままでは危ない!


防戦するのも限界と判断した時空は、一か八かの賭けに出た。

大きく身を沈めると、一気に相手のふところに飛び込む。

縮地法しゅくちほうと呼ばれる古武道独特のフェイントだ。

逃げられないのであれば、逆に間合いを詰めて隙をつくるしかない。

一瞬でも相手の手が止まれば勝機はある。

だがもう一歩のところで、今度は赤角の方が身を翻した。


しまった! 

読まれたかっ……


心中を後悔が走ったが、手遅れだった。


逆手さかてに持ち替えた赤角の短剣が、時空の両肩に食い込む。

灼熱の痛みが、全身を襲った。

樹木を背にした時空の肩から、血がしたたり落ちた。

赤角の深紅色の目に、勝利の光が宿る。

トドメを刺そうと両腕を振り上げた瞬間、辺りに轟音が鳴り響いた。

手を止めた赤角が、驚いたように振り返る。

その音は、まるで動物の雄叫びのようだった。

そして次の瞬間、林の中からそれは現れた。


見覚えのある縦縞に、茶色の体毛……


虎だ!


体長は、優に大人二人分はあるだろう。

き出した牙と鋭い眼光は、明らかに赤角に向けられていた。


何故、こんな所に虎が……!?


出血と痛みで意識が混濁し、思考が働かない。

だが錯覚や幻で無い事は、赤角の様子から理解できた。

異形の注意は、すっかり時空からその猛獣に移っていた。


虎は、その巨体からは信じられない程の瞬発力で、赤角に襲い掛かった。

さしもの異形も、避けるしかなかった。

時空から離れた赤角は、虎の放つ俊敏な攻撃に果敢に応戦した。

刃物のような爪と牙を、神速のフットワークでくぐる。

反撃の機をうかがっているようだった。


虎の爪が大きく弧を描いた瞬間、勝負はついた。

鈍い音と共に、赤角の短剣が喉に食い込む。

獣は唸り声を上げ、地面を転がりまわった。

口から血の泡を噴き、のたうつ巨体の動きが徐々に弱まる。

やがて低い唸り声を残し、完全に停止した。

虎が絶命した事を確認した赤角は、仕切り直しとばかりに時空の方をかえりみる。


だが、時空もじっと待ってはいなかった。


思わぬ助っ人により、体勢を立て直す事ができた。

脇に剣を納め、居合の構えを取る。

相手の攻撃に合わせ、神武至天流八咫烏じんむしてんりゅうやたがらすを放った。

赤角の肩口から背中にかけて、血しぶきが舞う。


「ギャィィィっ!!」


悲鳴を上げ、のけぞる異形。

人間離れした跳躍力で宙を跳ぶと、何処いずことも無く姿を消した。


極度の疲労と激痛により、その場に倒れ込む時空。

遠のく意識の中で目にしたのは、塵のように霧散する虎の亡骸だった。

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