二の宝〜天の巻

「なあ、俺の描写って、ちょっとばかし男っぽ過ぎやしないか……」

例によってキャラから筆者へのクレームです。

今回は神武じんむ時空ときちゃん。

一応女子高生なので『ちゃん』付けにしました。


「ふざけてんのか、この野郎!」(時空)


い、いや……そんなつもりは(汗)

じ、じゃあこの第二章から設定を修正してみます。


言葉使いを『俺』から『私』へ。

スカートの丈を短くして、髪も艶艶つやつやのポニーテールに。

箸より重いものを持たない主義で、か弱いけどお茶目でカワユク。

「てへっ♪」が口癖で……


(しばしの沈黙)


「……ごめん。なんか気持ち悪い。今のままでいいや」(時空)


と、トキさあん……



八刀神神社やとがみじんじゃでの出来事から数日後……

時空に、神鏡を手にしてからの記憶は無かった。

気付くと、青く輝くつるぎを手に立ちすくんでいたのだ。

更に驚いた事に、時空が正気に戻ると同時に、剣も神鏡に戻ってしまった。

時空もたけるも目の前の出来事が信じられず、暫し呆然としたのだった。


「二人同時に幻覚を見たとも思えない」


理性の戻った尊が口を開く。

今起こった事は、明らかに現実のもの……

相談の上、暫く様子を見る事にしたのである。



学校の休憩時間──


時空は肘にあごを乗せ、手に持った純白の御守袋おまもりぶくろを眺めていた。

中には、例の神鏡が収まっている。

あのまま神社に置いておく訳にもいかず、持ち出したのだ。

勿論、中身を知っているのは時空と尊の二人だけだった。


さて、これからどうしたものか……


こいつの取り扱いもそうだが、何より伊邪那美いざなみほのかにこの事を知られてはならない。

時空が八握剣やつかのつるぎを手にしたと知れば、何をしてくるか分からないからだ。

尊の台詞では無いが、注意するに越した事は無い。


時空は宙を睨みながら、状況を整理してみた。


今は神鏡の形態をとっているが、これが八握剣である事は間違いない。

信じ難いが、こいつは形態を変えられるようだ。

神鏡の方は……恐らく、仮の姿なのだろう。

それが俺が掴んだ途端、本来の剣に変容した。

明らかに、俺の何かに反応したのだ。

これが仄の言う、【継承者】とやらのあかしなのか……


この剣が、どんな力を持っているのかは分からない。

だがあの時の現象から見て、尋常では無い力を宿しているように思える。

仄が狙っているのも、その力なのだろうか……

もしそうなら、手に入れて一体何をする気なのだ。


いや、ひょっとして……

これは元々、あいつのものだったとも考えられる。

それを取り戻そうとしているとか……

だがそれなら、なぜ俺を継承者と呼ぶんだ?


考えれば考えるほど、深みにはまるばかりだった。

これ以上考えても仕方ない。

とにかく、これを仄に渡す事だけは阻止しないと……

時空の直感が、そう告げていた。


「どうしたの時空?何だか元気無いわね」


抑揚の無い乾いた声に、瞑想が破られる。

はっとして顔を上げると、冷ややかな目をした伊邪那美仄が立っていた。

後ろには、女子が二人追従している。

どちらの表情も、目が据わっていた。


「何かあった?」

心配そうな声の中に、探るような響きが感じられる。

「いや、別に何でもない……部活で疲れただけだ」

そう言って、時空はそっと御守袋を膝上に下ろした。

「そうなんだ……」

仄は輝く碧眼で、時空の顔をじっと見つめた。

ふいに、屋上での出来事が脳裏に蘇る。

時空は無意識に視線をらした。

「……分かった。元気出してね」

取って付けたように言うと、仄は目を伏せた。

そのままきびすを返し、おともを従え離れて行った。

極度の緊張で、時空の口腔はカラカラになった。


「まるで女王様ね」


昼食の買い出しから戻った尊が、ポツリと呟く。

一部始終を、何処かで見ていたようだ。

「彼女、他のクラスでも相当な人気よ。売店でも彼女の好きなパンはあっという間に無くなる。ファンが買い占めて持っていくみたい。たった二週間足らずでこの状況は異常ね。何か特別な力が働いているとしか思えない」

尊の言葉に、眉をしかめる時空。


とにかく、常人離れした奴だ。

人心を操る力なども、持っているのかもしれない。

時空や尊に、その魔手が及ばないのは謎だが……


「中庭にでも行きましょう」

「……そうだな」


尊からパンを受け取ると、二人は教室を後にした。



中庭に出ると、人気ひとけの無い木陰に腰掛けた。

「彼女、気付いてるわね」

ハンカチで掌を拭きながら、尊が切り出した。

「ああ、さっきの様子で俺もそう思った」

時空も、巨大なカレーパンを頬張りながら答える。

曲がった事の嫌いな時空は、当然のごとく嘘が下手だ。

神鏡の件は別にしても、何か隠していると見抜かれたに違いない。

ならば今後、何か仕掛けてくる可能性はある。

「とにかく気を付けましょう」

尊の囁きに、時空は小さく頷いた。


「しゅしょぉぉっ!」


突然の叫び声に、時空はパンを喉に詰まらせた。

振り返ると、誰かが手を振りながら走って来る。

剣道部員で後輩の長須根ながすね伊織いおりだ。

二人の前に到着すると、下を向きゼイゼイと肩を震わせた。

「た、大変です!ど、道場が……大変な事に!」

血相を変え、必死に訴える。

尋常では無いその様子に、時空と尊は顔を見合わせた。

「す、すぐに来てください。お願いします!」



時空が先陣を切って駆け出す。

後続の二人も懸命に追走した。

程なく、道場の角ばった屋根が見えてきた。

時空は速度を落とさず、そのまま中に飛び込んだ。

道場に入った瞬間、思わずその場に立ち竦んだ。


道場の壁面には、練習用の竹刀しないが掛けてある。

部員数に予備用も含め、三十本ほどだ。

その竹刀が、全て床に落下していた。

しかも……そのことごとくが、真っ二つにへし折られていた。

時空は呆然と、その光景を眺めた。


「……ひどい」


続いてやって来た尊が、顔をしかめ絶句した。

「一体誰が、こんな事……」

「更衣室の忘れ物を取りに来たら見つけて……主将に知らせなきゃと思って……あちこち探し回って……」

途切れ途切れに話す伊織の目に涙が溢れた。

「よく知らせてくれた。すまなかったな」

時空は振り返ると、その頭に静かに手を置いた。

尊がハンカチを取り出し、伊織に手渡す。

その様子を見ていた時空は、おもむろに踵を返し戸口に向かった。

目には怒りの火が灯っている。


「時空っ、待って!あなたまさか……」

尊が引き留めようとしたが遅かった。

外に飛び出した時空は、脱兎だっとの如く駆け出した。


……許せない!


剣術の道を志す者にとって、剣は命だ。

日々、汗にまみれながら鍛錬に励む部員たち……

その大切な道具をへし折るなど、断じて許される事では無い!


誰がやったのか……

その問いに対し、真っ先に浮かんだのは一人の人物だった。


伊邪那美……仄……


見下すような視線と、凍るような微笑が脳裏をよぎる。


確かめなくては!


アイツの仕業なのか、どうかを……


時空は脇目も振らず、教室に駆け込んだ。



仄を中心に、数名の女子が談笑していた。

その前に立ち、険しい形相で見降ろす。

「あら時空じゃない。どうしたの怖い顔して?」

そう言って、仄は目を丸くした。

周りの女子も、一斉に時空の方を顧みる。

どの顔も、蝋人形のような笑顔を浮かべている。


「お前がやったのか?」


震える声で問いただす時空。

湧き上がる怒りを、必死で抑えていた。

「一体、何のことかしら?」

竹刀しないだ!」

威圧的な時空の声に、皆の顔から笑顔が消える。


「お前が、剣道場の竹刀を折ったのか?一本残らず」

その言葉に仄の笑顔も消え、能面のような表情に変わる。

「何を言っているのか、さっぱり分からないけど」

そう言って、仄は肩をすくめた。

「私が何かしたというなら、それは誤解よ……今日は一日、この子たちと一緒にいたもの。授業は勿論、休憩時間も、昼食も、ずうーっと……」

ワザとらしい口調で言い放つ仄。

その言葉に、まわりの女子が一斉に頷く。

時空は、声を詰まらせた。


クラスメイトの大半が、仄に傾倒しているのは知っている。

そこにあるのは、ある種の主従関係とも言えるものだ。

主人の命令とあらば、口裏を合わすくらいは当然するだろう。

ただ……

だからと言って、今は仄のアリバイをくつがえすほどの証拠は無い。

屋上での一件を話したとしても、誰も信じないだろうし……


「私たち、仄様とずっと一緒だったわよ」


女子の一人が、駄目出しの一言を放つ。

結局、時空はそれ以上何も言えなかった。

拳を握り締め、ただ立ち尽くすのみだった。


仄の顔に張り付いた笑みを眺めながら……

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