第101話魂の覚醒

 ヒュドラ、それは実在があやふやな伝説の魔物。


 ヒュドラ、それは五本の首を持つドラゴン。


 ヒュドラ、伝承では国や土地を滅ぼす魔物。


 つまり、我が国が滅亡の危機ということだ。




 すぐに戻ろうとした俺は、あることに気づく……。


 待て……ここに連絡くるまで何日かかった?


 もうすでに、王都にきているのでは!?


「団長!どうしましょう!?これ多分……今から救援に行っても……」


「わかっている!間に合わないことは!2日もかけていたんじゃ……!」


 どうする!?考えろ!!

 いくら叔父上でも、相手が悪い……!

 王都を守りながら、伝説の魔物と戦うなど……!



 このままでは、エリカが、母上が、叔父上が、俺の大切な人達が………。


「団長!しっかりしてください!!」


「ユウマ!大丈夫ですの!?」


 2人の声がきこえるが、耳に入ってこない……。


 何故なら、自分の心臓の鼓動がうるさいからだ。


 なんだ?この感覚は……!

 蓋が開く……?










「ここは……どこだ?真っ白な空間?」


「……開いてしまったか」


「誰だ!?」


 振り返ると、そこには見慣れた顔があった。


「……俺?」


「まあ、正解であって、正解ではないかな。ここでの記憶はあまり残らないけど、気になるよね。後、安心していい。ここでの時間は、止まっているも同然だから」


「……なるほど。で、何の用だ?俺の前世さん」


 今までから推測するに、そういうことだろう。


「わかっているなら、話は早い。そう……俺は所謂、君の前世という存在だ。正確には、同じ魂を持った別人ということだね」


「……俺は、俺という認識で良いのか?」


「ああ、それであっている。俺は、正確には死んでいる。うーん……意識と能力を、暴発しそうな子孫に残してきた感じかな?」


「意識体ってことか……暴発とは?」


「たまにね、魔力のみが先祖返りする者が生まれるんだ。何が起きるかというと、自分の魔力に耐えきれずに、それこそ内側から爆発してしまう」


「内側から爆発……」


「心当たりがあるだろう?普通の人間には、魔族の魔力に耐えられない。だから、毎回抑え込んでいた」


「だから先祖返りの子孫に、脈々と受け継がれきたと?」


「そういうこと。俺の保険の所為で死なれたら、さすがにね……ただ、普通ならそれで良かったのだけれど……」


「俺が普通じゃないと?」


「そうだね。君は所謂、完全な先祖返りに近い。魔族の血を濃く引いている。更には、俺の魂を持っている。条件は、揃いに揃っている。君にとっては嬉しくないことだろうけど、父親と兄がいなければ、君は死んでいたかもしれない」


「……どういう意味だ……!?」


「そう怖い顔しないで。もちろん、それで彼等の行いが良かったというわけではない。ただ、事実として……君は無意識にうちに、自らで力を抑え込んだ。もちろん、俺も協力したけどね」


「………」


「その顔は、もうわかったよね?そう、父親と兄が死んだことで、君は解放された。皮肉なことに……。そして魔力がみるみるうちに上がっていった。これは俺は関係ないけど、剣術に関してもね。そして身体の出来上がってきた君は、魔力により暴発することはなかった。もちろん、俺が抑え込む力を調整して、君の身体に慣れさせたんだけど」



「それは、わかった。それで、何故この状況に?」


「実はね……この大陸に混乱をもたらしているのは、我が兄でね……。申し訳ないが、君にはその尻拭いを頼みたいんだ」


「……お互い、兄には恵まれなかったようだな。それは、別に構わない。元々そのつもりだったし。それに貴方の言うことが事実なら、命の恩人ということになる」


「兄に関しては……まあ、置いておこう。ありがとう、助かるよ。それでだ、ただお願いするだけでは無責任にもほどがあるからね。君には、力を授けようと思う。それがあれば、今の危機も打破出来るかもしれない」


「本当か!?なら頼む!俺の大事な人達が……!」


「ああ、わかってきる。幸い、君の身体はもう俺の全てを授けても大丈夫だろう。ただ、コントロール出来るのには、少し時間がかかるかもしれない。だが、君のセンスなら、すぐに使いこなせるだろう」


「方法は!?使い方は!?俺はどうすればいい!?」


「まあ、落ち着いて。さっきも言ったけど、時間はほとんど経過してないから。この会話の記憶はほとんど残らないけど、使い方などは魂が思い出しているはずだ……では、いくよ!意識を強く持って、魔力を制御するんだ!いつものように!」


「意識を集中して魔力を制御……いつものように……」


「そう!それでいい!やはり、君だったんだな……俺の生まれ変わりよ、すまない。不甲斐ない俺に変わり、兄を討ってくれ……!」













「ユウマ!ユウマ!」


「団長!目を覚ましてください!!」


「う、うん?なんだ?どうした?」


「良かったわ!ユウマ!貴方気を失ったのよ?大丈夫?」


「団長!良かったですー!もう!驚かさないでくださいよ!」


 2人に、思いっきり抱きつかれる。

 イージスとアテナが、微笑ましそうに眺めてくる。


「わ、わかった!俺が悪かった……のか?……いいから!離れなさい!」


「で、どうしたんですか?」


「そうですわ。何かブツブツ言ってるなと思ったら、倒れたのですわ」


 あの映像はなんだったんだ?

 ……何故か、あまり覚えていない……。

 だが、あることを

 やり方を、昔から知っていたかのように……。


「そうだ……王都に行かなくてはいけない」


「でも、今からじゃ……それに、具合が……」


「大丈夫だ。今から。二人共掴まれ。イージース、アテナもどこかに触れろ」


「ユウマ?どういうことですの?」


「団長、ホントに大丈夫ですか?」


「オイラ、よくわかんないけど掴まります!」


「……仕方ないね、触るよ」


 全員俺に触れているな……いける……!

 魔力を半分ほど使うが、イメージできる!


「グラント王!後のこと、頼みます!」


「ん?よく分からんが、任せろ!国に急げ!」


「ありがとうございます!では………空間の狭間を超えろ!テレポート!!」


 俺は頭の中の王都をイメージして、唱えた!

 すると、一瞬で景色が変わる……成功したが、少しずれたか。


「え?え?どういうことですの?」


「はい?……ここ、王都近くですよ!」


「ど、どういうことですか!?」


「……何が、なんだか……」


「色々疑問があるだろうが、今は後にしてくれ。早く、救援に向かうぞ!!」


 全員が言いたいことを飲み込み、頷いた。


 オレ達は、急いで王都へ向かう。




 30分ほど走ると、見えてきた。


 そして、奴の姿も……!


 でかい!軽く10メートル以上はあるぞ!?


 だが、王都が破壊された様子がなさそうだな。


 ん?何か王都に膜が張ってある?……まさか!!


「シノブ!俺達は急ぐぞ!お前達3人は、自分のペースでこい!」


 俺は返事を待たずに、駆け出す!


 クソ!転移魔法はもう使えんし、制御も甘い!

 頼む!間に合ってくれ!

 死なないでくれ!母上!!




 そして、王都にたどり着く。

 叔父上が、1人でヒュドラと対峙している!

 だが、それよりも今は……!


「母上!!」


「……ユウマ?幻覚かしら?最後に貴方に会えるだなんて……」


 あの膜は、俺とは規模が違うが、間違いなくホーリーガード。

 回復魔法派生の防御魔法だ。

 母上は命を削り、王都を守っていたのだ……!


「母上!本物です!死なないでください!!」


「あらあら?何を泣いているの?……色々、ごめんなさい。貴方には、苦労ばかりで何もしてやれなかった……。こんな母上の元に生まれて、貴方は幸せだったのかしら……」


「何を言っているのですか!!幸せに決まってます!俺は母上の子に生まれ、幸せです!だから……!」


「ふふ、嬉しいわね。出来れば、孫を見たかったのだけれど……」


 母上の身体が、どんどん冷たくなっていく……!!

 絶対に、死なせるものか!


 今の俺なら出来るはず!!

 イメージしろ……!

 母上の身体が回復しないのは、細胞が傷ついているからだ。

 おそらく、穴が空いたような状態なのだろう。

 それにより、回復魔法が効果をなさない。

 ならば、細胞そのものを再生すれば……!


「……いくぞ!セルレジェネレーション!!」


 母上の身体が光に包まれる……。

 呼吸が落ち着いた……成功だ……!


「……ユウマ?……あれ?身体が動くわ……。それどころか、エリカを産む前の感覚……」


「母上、無事で良かった……!それには、後で答えます。引き続き、守りを任せていいですか?」


「……ええ!任せなさい!だてに、聖女と呼ばれていたわけじゃないのよ?」


「今の母上なら、問題なく行使出来るはずです。では!」


 俺は、叔父上とシノブに駆け寄る!


「ユウマ!すまん!エリス義姉さんを危険な目に遭わせちまった……!」


「それは、後にします!今は、コイツを!」


「団長!どうしますか!?」


 俺はヒュドラを見上げ、思う。


 確かに、こんな化け物どうすればいい?

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