第96話最強対最強

 これは……ああ、またアレか。


「負けたか……。ククク、しかしデュランダルも口ほどにも無い。魔族である我の身体を滅しきれず、この場に封印するしかなかったのだから。我はこの地に封印されたが、身体をスリープ状態にし、魂を僅かに残して、各地に転生する。力はほとんどないだろうがな……。そして結界が弱まる頃この身体に戻り、裏切ることのない戦力を作りだす。そして、デュランダルの国と裏切り者の亜人を滅ぼしてくれる!!」


「……デュランダル義兄は、きっと……。それよりも、兄貴はまだそんなことを言っているのか。あれは、俺達が悪かったんだよ。亜人を奴隷扱いして、人族を見下したから……。俺らは、傲慢過ぎたんだよ。人族には耐えられない高い魔力に、それを使いこなす強い肉体。そして人体解剖による、人体の構造知識。召喚魔法、転移魔法、転生魔法、譲渡能力。そして兄貴の固有の憑依術、俺の固有の再生術。そのどれもが危険なものだ。俺はなくなるべきだと思う」


「何故だ!?何故、奴らより優れている我らが我慢しなくてはならぬ!亜人や、人族は我らに従うべきであろう!」


「兄貴の気持ちも、わからないこともないけど……。皆、死んでしまったしね……。俺の再生術も、死んでしまっては効かないし……。でも、もういいよ。俺は、転生もしない。生まれ変わることはあるかもしれないけどね」


「お前ほどの力を持ちながらか……!お前が本気を出していれば……いや、なんでもない。

 お前の血肉を喰らえば、我の傷は癒え完全なる身体になるが……弟のよしみだ、見逃してやる。そもそも、そんな力も残っていないしな……何処へでも行くがいい!……達者でな」


「兄貴……ああ、兄貴もな。じゃあ、俺行くよ」


 俺には兄貴は殺せない……!

 わかっている!ここで殺しておかなければ、災いになることは!

 それでも血を分けた、たった2人の兄弟なんだ!!


 未来の者よ……すまない。

 手前勝手な願いだとはわかっている……!

 それでも、どうか……兄貴を止めてくれ……!


 俺の方でも、一応保険はかけておく……。










「ん……?」


「あ!団長!気がつきましたね!?」


「ユウマ!良かったですわ!」


「ホムラに、シノブか。俺は……?」


「身体に限界が来たんですよー。強行軍でしたからねー」


「心配しましたわ!会談の途中で反乱があったと聞いて、助けに行こうとしたら、皆に止められますし!」


「シノブ……確かにそうだな。ホムラ、それはそうだろ。奴はバルムンク家を目の敵にしてた。お前がきたら、危なかったよ。俺は、お前を失いたくはないしな」


「ユウマ……」


「ゴホン!いいかのう?」


 そちらを見ると、国王様と、バツの悪そうはな表情のグラント王がいた。


 俺は、慌てて起き上がる。


「シノブ、ありがとな。膝枕しててくれたんだな。もう、大丈夫だ」


「えへへー、いつでもしてあげますよー」


「ゴホン!……いいかのう?」


「あ!すみません……」


「いや、良い。新婚だしな。寧ろ、すまなく思う。お主に負担をかけすぎた」


「我もすまん!つい、興奮してしまってな……」


「いえ、大丈夫ですよ。気になさらずに。では、グラント王。行きますか?国王様の許可が出てるならですけど……」


「む!?……良いのか?我は有難いが」


「ええ。どっちにしろ、グラント王には来てもらおうと思っていましたから。獣人族と人族が、暮らしているところを見てもらうために。で、国王様。良いですかね?」


「うむ……だが、今しかできんかもな。何より、ユウマがおる」


「まあ、即死以外ならどうにかしてみせますが……」


「結局駄目なのか!?良いのか!?」


「まあ、よいか。許可する。シグルドの許可はいらんな」


「ええ、いりませんね。嬉々として、受けるでしょう」


「おお!そういうタイプか!尚更、殺りたくなったぜ!」


「はぁ……戦闘狂が二人かぁ……諦めよう」


 俺はグラント王に急かされ、家族に挨拶を軽くして、すぐに出発した。


「なんなんですの!?一体!?」


 ホムラは、あまり状況を飲み込めていない。


「すまんな、なんかこうなった……」


「まあ、仕方ないですよー。私はこうなると思いましたよー」


「グハハハ!今行くぞ!待っていろ!」


 どこのラスボスですか、貴方は……。




 グラント王を無理矢理休ませつつ、1日で戻った。

 やべぇ……!超疲れた………!


「団長ー。私、ホムラを連れて行きますねー」


 ホムラは、生きた屍状態になっていた。


「………もう、駄目ですわ……」


「さて、ユウマ!剣聖は何処だ!?」


「はいはい、今案内……必要ないですね」


 闘気を纏った叔父上が、歩いてきた。


「ユウマ、そいつだな?お前が言っていたのは……」


「ほう!久々に見たが……お主、本当に人族か?纏う空気感が、半端じゃないな」


「ククク、そっちこそな。では、や」


「はい!ストップ!ここ住宅!!闘技場まで、が・ま・ん・し・ろ!!!」


 二人は渋々従い、闘技場へ向かう。


「ゼェ、ゼェ、疲れた。だが、俺にはまだやることが……!」


 俺は身体に鞭を打ち、闘技場に向かう。


 その途中で、バラルさんに会う。


「領主様!これは、一体なんだ?」


「あ!良いところに!闘技場を使うので、手伝ってください!」


「……よくわからんが、闘技場を使えれば良いんだな?任せろ!」


 そう言って、闘技場へ入っていく。

 俺も、中に入る。


 そこでは2人が向かい合い、対峙していた。

 兵士達が、戸惑っている。


「皆さん!その方は安全です!俺が保証します!ですが、決闘をするので観客席まで下がってください!」


 すると、兵士達は観客席に向かう。

 良かった、これで死人が出ない……俺以外?


「おい、ユウマ。もう、いいか。ウズウズして仕方ないのだが」


「こちらもだ。こんなに高揚するのは、黒竜と戦って以来だ……」


 黒竜って、あの特級災害指定の……?

 いや、今はそんな場合じゃない。

 俺は辺りを確認し、宣言する。


「はい………では、始め!!」


 2人は一瞬で間合いを詰め、激突する!


「オラ!オラ!オラ!オラァ!!」


「ウラ!ウラ!ウラ!ウラァ!!」


 双方、一歩も引かずに殴り合う!

 おいおい、叔父上……素の状態で鬼人族最強と殴りあえるのか……!

 俺は魔力強化して、やっとだったのに。

 相変わらず、化け物だな……だが、それでこそだ。

 超える壁は、高ければ高いほど良い。


「グハァ!?」


「ゴフゥ!?」


 今、お互いにクロスカウンターが入ったな……痛そう。


「ペッ!口ん中、血だらけだぜ……久々だな。流石は、最強種と言われるだけはあるな」


「プッ!こっちこそ、血だらけだ……まさか、肉弾戦で戦える奴がいるとは……やはり、世界は広いな」


「流石に剣を使う訳にはいかんしな……楽しすぎて、殺さない自信がない……!」


「でかい口を叩くな……と言いたいとこだが、そうでもないな」


 二人は示し合わせたかのように、再び殴り合う!!

 観客席は静まり返っている……無理もない。

 特級クラスの戦いなんて、そう見れるものではない。

 ふと気づくと、エリカ達も食い入るように戦いを見ていた。

 うむ……いい経験になるだろうな。



 どれくらいの時間が、経っただろうか?

 まだ五分ほどにも思えるし、1時間と言われたらそんな気もする。

 とりあえず言えるのは、もうすぐ決着がつくということだ。


「グッ!!身体が重い………!」


「ガッ!!限界が近いか……!」


「グ……グォォォ!!!」


「ガ……ガァァァ!!!」


 2人が渾身の力で最期の拳を放つ!!




 立っていたのは、叔父上だった………。

 マジか……剣も使っていない肉弾戦で勝つのか……。

 我が叔父ながら、人間離れしている……!


「お主のその力……まるで、伝承にある初代デュランのようだな……」


「あぁ?どういうことだ?」


「自分の国だろうに、知らんのか……我が祖先より伝わっていることだ。初代デュランは、頑丈な身体、何者にも屈しない精神力、そして大剣デュランダルを振り回し、ドラゴンすら一太刀で葬ったと」


 それ……まんま叔父上だな……。


「そうなのか?……まあ、俺は俺だ。知ったことじゃないな」


「ククク……そうだな。しかし、気持ち良いものだ。負けたのはいつぶりだろうか……」


「負けたって……アンタ本気ではなかっただろう?いや、本気だったが……なんというか」


「そっちが剣なしだからな。だが、言い訳するつもりはない。この状態なら負けは負けだ」


「……何か制限があるようだな。まあ、なら許してやるよ」


「はいはい、二人共。とりあえず、回復しますね………ヒーリング」


「お!サンキュー!……しかし、詠唱なしでもこの威力か……確かに、魔力が上がっていそうだな」


「うむ、すまぬな。……ふう、これは便利だ。亜人には使えないのが、残念だ」


「そうなんですよね。魔力が、身体の奥底から溢れてくるんです……。俺とシノブの子なら、どうなるんだろう?」


 こうして、最強対最強の戦いは終わった。


 俺は目に焼き付け、これを超えることを、密かに誓った。

 そして不思議と、不可能ではないと思っている自分に気づき、驚いた。


 そして、血が騒ぐのを感じている……。


 何かが、起ころうとしているかもしれない……。

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