第89話外伝~エリカ~

 あの日から、色々なことがあった。


 カロン様と、楽しいデートの帰り道の出来事だった……。


 私は何も知らなかった……。


 お母さんが、私を無事に産むために、無茶をしたことを……。


 私がお母さんに、カロン様を助けて!と言ったら、お母さんは迷いなく助けてくれた。


 もちろん、自国の王子ということもあるけれど、自分が死んじゃうかもしれないのに……。


 カロン様を治した後、お母さんは倒れてしまった……。


 私はその時に、セバスさんから聞かされ、その訳を初めて知った……。


 私は泣いた……泣いて泣いて泣いた。


 私のせいだ!私が頼んだからだ!私がお兄ちゃんみたいに回復魔法を使えたら!


 やっぱり、私は駄目な子だ……いつも甘やかされている。


 でも、そんな私にお兄ちゃんは言った。


 私が元気で生きてさえいてくれれば、俺と母上はそれだけでいいと。


 お兄ちゃんは、私を責めることなどしなかった。


 それどころか、慰めてくれた……自分だって、辛いはずなのに……。


 私はなんて弱いのだろう……これから、どうすればいいのかな?


 私は、久々にお兄ちゃんに手を握ってもらい安心したのか、すぐに眠りについた。





 そして、お母さんはなんとか死なずに済んだ。


 良かった!ホントに良かった!


 でもお兄ちゃんは、気のせいかもしれないけど、暗い顔つきに見えた。


 でも当たり前だよね、任務を終えたばかりだもん。


 よし!そもそも私がもっと強ければ、カロン様も大怪我を負わずに済んだんだ!


 私も、お兄ちゃんみたく強くならなきゃ!


 それにしても、シノブさんかっこよかったなぁ……。


 気がついた時には、目と前にいて近衛の人と戦いになっていた。


 姿もいつもの違い、白髪に赤い眼に牙があった。


 怖いよりも、綺麗と思ってしまった。


 私は、シノブさんに色々と教わることにした。


 なんとなく、そっちのが向いてる気がしたからだ。


 お兄ちゃんになんとか許可を得て、ガンドールについていくことが出来た。


 そこでも、シノブさんに色々と教わった。


 音のしない歩き方や、気配の消し方など。


 そしてお兄ちゃんには、アキトくんと共に、稽古をつけてもらった。


 お兄ちゃんは強くて、二対一でも全く勝てなかった。


 お兄ちゃんは、私の気持ちを汲んで、真剣に稽古をつけてくれた。


 優しいお兄ちゃんは、私を叩くのを嫌だっただろうな……。


 ガンドールでの日々は、とても楽しく充実していた。


 仲良くなったサユリさんに、勉強を教えてもらったり。


 ……最初、カロン様の婚約者と聞いた時は、流石に驚いたけど……。


 でも、きちんと謝ってくれたし、それでよかった。


 それに、これでカロン様への気持ちを隠さなくても良くなった。


 そ、その……カロン様も、私のこと好きって……。


 お、お兄ちゃんには言ってないけどね!


 カロン様にも、まだ言わないでくれって言われたし……。


 気のせいかもしれないけど、カロン様ブルブルしてたかも?


 あと、王妃になるとかは、今は考えなくていいとも言ってくれた。


 これは、正直有り難かった……だって、全然ピンとこないもん。


 私が王妃……?現実離れしすぎて、驚くことも出来ない……。


 でも、カロン様の側にいたいから、いずれは覚悟を決めなくちゃ……!






 そして、カラドボルグという宝剣も頂いた。


 もし気にくわないなら、その時点で帰ってしまうと聞いていたから、安心した。


 でも、もしかしたらそれが良くなかったのかもしれない。


 無意識のうちに、調子に乗ってしまったのかも……。


 私はお兄ちゃんに許可を得て、調査に出ることになった。


 なんでも、アースドラゴンの群れが押し寄せた原因を探すそうだ。


 その所為で、バルザールは滅んでしまったらしい……。


 私は不謹慎にも、初めての冒険ということでワクワクしていた。


 でも、それも最初だけだった。


 野宿は辛いし、見張りもしなくちゃだし、大変だった。


 もちろん、嫌になったとかじゃなく、単純にこういうものなんだと思った。


 叔父さんの話には、驚いた……私が物心つく前に、叔父さんは家を出ていたから。


 そして、いよいよ元バルザールに入国した。


 私は、いかに自分の考えが甘かったということに気がついた……。


 そこは酷かった。


 もう、アースドラゴンは叔父さんがあらかた倒したから、眼に映る範囲にはいない……。


 それでも、その爪痕はそこらじゅうにあった。


 未だに行方不明者も多数で、怒号が飛び交っているし、兵士達が忙しなく動いている。


 何より、何かが潰れたような痕があった……。


 その意味を理解した時、私は初めての経験をした。


 嘔吐し、胸が苦しく、立っていられない状態になった……。


 お兄ちゃんは、いつもこんなところで………?


 私と、そう歳も変わらない頃から……。


 でも……きついけど、乗り越えなきゃ……!


 お兄ちゃんは、そういう経験はしなくても問題ないって言われた。


 でも、私が自分で無理を言って、色々経験させてほしいって言った。


 だったら、泣き言なんて言ってられない……!


 なんとか立ち直った頃には、お兄ちゃんが話から戻ってきた。


 そしてお兄ちゃんが浄化をした後、出発をした。


 初めてアースドラゴンを見て、とても驚いた……!


 あんな大きな魔物がいるんだ……!


 それよりも驚いたのは、その魔物をお兄ちゃんが一刀両断したことだ。


 なんだが、最近のお兄ちゃんは様子がおかしい気がしてた。


 でも、今のお兄ちゃんは何か吹っ切れたように感じた。


 理由はわからないけど、私は安心した。


 ずっと、何かに悩んでいたみたいだから……。


 私もなんとか、ゴブリンやオークを倒すことが出来た。


 私でも、戦える!と自信がついた。


 そして、ようやく目的地に着いた頃には、私はヘトヘトになっていた。


 やせ我慢しようとしたら、叱られてしまった……。


 ギルドマスターの許可を得て、寝泊まりすることができた。


 次の日、魔の森に入った。


 気味が悪いほどに、何も出ることなく進んでいった。


 道中で毒の瘴気があったけど、お兄ちゃんがいたから問題はなかった。


 神殿風の建物に入ると、教会みたいになっていた。


 そこで、お兄ちゃんが突然倒れてしまった……!


 そして、同時に魔物が押し寄せてきた!


 叔父さんに、お兄ちゃんを頼む!と言われたので、私は側にいた。


 お兄ちゃんは、心臓を抑えて、苦しそうにしていた。


 私はお兄ちゃんの手を握り、気休めにしかならないけど、ヒールを掛け続けた。


 お兄ちゃんは目を覚ますと、すぐに動き出した。


 だ、大丈夫かな!?と思ったけど、平気そうだった。


 それどころか、溌剌はつらつとしていた。


 そして私とアキト君に、ここを任せると言い、魔物の群れに突っ込んでいく!


 シノブさんと同様に心配したけど、杞憂だったみたい。


 魔力の斬撃をいくつも放ち、魔物達を次々と倒していった。


 私も負けていられない!と思ったのが、いけなかったのかもしれない。


 戦い方は人それぞれと、お兄ちゃんに散々言われていたのに……。


 だからお兄ちゃんは、憧れである叔父さんのようになりたいけど、無理だとわかって今の戦い方にしたって……。


 私の戦い方は、ヒットアンドアウェイというやつだ。


 もちろん、戦う場所が狭いこともあったけれど、自分の戦い方が出来ていなかった。


 それだけならまだしも、思うように動けない私は、焦ってカラドボルグの斬れ味に任せ、乱暴な剣技をしてしまった……。


 その結果魔物は倒せたけど、カラドボルグは消えてしまった……。


 でも、無理もないと思った……誰だって、乱暴に扱われたら嫌だもん……。


 私が全面的に悪い……やっぱり、私みたいなのには、分不相応だったのかな……?


 でも、お兄ちゃんは、そんな私を励ましてくれた……!


 いつだってそうだ……私が欲しい言葉をくれる……!


 もちろん、ただの甘えだというのはわかってるつもり……。


 それでも、嬉しいものは嬉しいもん!


 よーし!カラドボルグ!!しっかり見ててね!


 今度は、自分の力で、貴方を認めさせてあげるんだから!


















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