第53話公爵家訪問

 俺は、王城から帰った夜に、シノブを部屋に呼んだ。


「団長、どうしたんですか?は!もしや、抱かれてしまうのでは!?」


「あ、いや……それは魅力的な提案だが、今は違う」


「……ほんとに、どうしたんです?珍しく、歯切れの悪い感じですねー」


「いや、明日公爵家に行くだろ?」


「ええ、大変ですよねー。認めてもらえるといいですね!」


「で、だな……お前を連れて行きたいと思う」


「はい?どういうことですか?挨拶に行くのに、女連れだと印象が良くないと思いますけど……」


「いや、シノブに関しては、どうせあっちは調べているはずだから今更だ」


「まあ、そうでしょうけど」


「つまりだ……恋人として連れて行く」


「団長?ものすごーく嬉しいですけど……喧嘩売りに行くんですか?」


「……やっぱ、そう思う?」


「ええ、間違いなく」


「いや!もう決めたんだ!お前を恋人として連れて行く!そして、ホムラも貰う!」


「おおー!ヘタレの団長にしては、思い切りましたね!」


「……ヘタレ言うな。気にしてんだよ」


「へへー。でもわたしは、すごく嬉しいです!団長の気持ちが」


「なんのことやら」


「どうせ、わたしのことをないがしろにしてしまうとか、考えたんですよね?」


「……まあ、否定はしない。あと、コソコソするのは性に合わない」


「では公爵家に、戦争しに行きますか!」


「おい、やめろ!洒落にならない!」


 

  ▽▽▽▽▽▽



  さて、一夜明けて、公爵家訪問の日を迎えた。


 俺は迎えが来るのを、ソワソワしながら待っていた。


「迎えにくるって……いいのか?公爵家だぞ?俺が直接行ったほうが、いいじゃないのか?」


「団長、今から緊張してどうするんですか?」


「………シノブは落ち着いてるな。お前も行くんだからな?」


「ええ、わかってますよー。えへへ、嬉しいです!」


 こいつは、昨日からご機嫌だな。

 どうやら、俺が言ったことが嬉しかったようだ。

 勇気をだして、言って良かった。


 すると、ドアのノック音がし、セバスの声がする。


「ユウマ様、公爵家の馬車がお着きになりました」


「わかった。すぐに行く。よし!シノブ、行くぞ!」


「ええ!戦争ですね!」


「だから、止めろ!それ!」


 俺達は、もの凄い豪華な馬車に乗り込み、公爵家に向かう。


 そして、どんどん豪華な家が建ち並ぶエリアに入って行く。

 検問の数も多い……それも、そうか。

 ここには、重要人物がたくさん住んでいるからな。


 そして、とある広場?の前の入り口に降ろされる。


「ユウマ様、お着きになりました。お降りください」


「え?ここですか?家ないですけど……」


「ここが、公爵家の入り口になります。そして、歩いて行くと建物が見えます。ただ今案内の者が……来ましたね。というか、お嬢様ですか」


 すると、豪華なドレスに身を包んだホムラが、近づいて来た。

  こうして見ると、本当にお姫様みたいだな。


「ユウマ!来ましたわね!さあ、お入りになって。シノブもよ。ノイン、連れて来てくれて、ありがとう」


「いえいえ。ただ、お嬢様がお迎えとは……嬉しくて待てなかったのですね?」


「な、なにを!?ゆ、ユウマ!違うのよ!?ユウマが迷ってはいけないと思って……ノイン!いきなりなにを……あれ?ノイン?」


「くくく。その人なら、もう行ったよ。では、ホムラ。案内頼むな」


「……ノイン、後で覚えてなさい。では、付いて来てください」


「お邪魔しまーす」「失礼します」


 俺達は、ホムラの後に、付いて行く。

 そして、驚く。

 広場だと思っていたのは、庭だったようだ。

 そのまま五分ほど歩くと、建物が見えてきた。

 ……うん。我が家の3倍は広そうだな。

 そこには、3階建くらいの豪邸があった。


「だ、団長……やっぱり、緊張してきました」


「あ、ああ……気持ちはわかる。だが、もう後には引けない」


「ふふ、2人とも大丈夫ですわよ。行きますわよ」


 そうして、そのまま扉を開けて、中に入る。

 中には、メイドや執事が勢ぞろいしている。

 すると、全員が一斉に頭を下げてきた。


「「「「ユウマ様、シノブ様、どうぞいらっしゃいませ」」」」


「なんで皆いるの!?ワタクシは要らないと申したでしょう!?」


「ほほ、皆お前の相手が気になったのだろう。仕方あるまい」


「お祖父様!?部屋で待っててと申したじゃないですか!?」


「ほほ、ワシも待ちきれなくての。死ぬ前に、会いたかったのじゃ」


「もう!またそんなこと申して!お祖父様は、まだまだ元気ですわ!」


「ほほ、だといいのじゃが。ほら、皆の者。お客様が固まっておる。仕事に戻りなさい」


 すると、メイドや執事達は、一斉に礼をして去って行く。

 いや、こちらはどっちかというと、貴方に驚いているんですけど?

 公爵家当主がお出迎えとか、どんな状況だ!?


「え、あ、この度は……」


「ほほ、ユウマ殿。堅苦しいことはなしじゃ。さあ、付いて参れ。そこのお嬢さんもな」


 そう言うと、公爵閣下は歩いて行く。

 それを、ホムラが支えている。

 俺とシノブは、顔を見合わせ、付いて行く。




 そして、一際目立つ扉の前で、公爵閣下は立ち止まった。


「ほほ。では、こちらの部屋でお話をしようかの」


「お、お祖父様?この部屋は最上級の部屋では?」


「いいから、この部屋じゃ」


「……わかりましたわ。では、ユウマにシノブ。入りますわよ」


 ホムラが扉を開けると、そこには豪華な部屋が広がっていた。

 20畳はありそうだな……。

 豪華なシャンデリア。

 豪華なソファー。

 その他の豪華なインテリアの数々。

 これが、貴族の頂点に立つ公爵家の部屋か……。


 俺は圧倒されていた。

 しかし、深呼吸をして落ち着かせる。


「ああ。では、お邪魔します」「お邪魔しまーす」


 そして中に入ると、ソファーに座るよう促される。

 とりあえず、大人しく座ることにする。

 シノブは俺の背後に立つ。

 対面に、公爵閣下とホムラが座る。


「お嬢さんは、座らないのかい?」


「はい。申し訳ありませんが、万が一に備えて、立たせていただきます」


 公爵閣下の空気が変わる!


「ほう?万が一とはなんだ?この公爵家において、そんなものが必要か?」


 な!何という威圧感!こ、これが公爵閣下!

 若い頃から、今まで、国王様すら頭が上がらないという!


「はい。何を言われようとも、これだけは譲れません。団長の後ろは、わたしの居場所です」


「……そうか。ほほ、ホムラの言う通りじゃな。肝の座ったお嬢さんだ」


「もう!お祖父様!あまりユウマとシノブを、困らせないでください!」


「ほほ、すまんすまん。だが、これぐらいは許せ。可愛い孫のライバルなんじゃからな」


 シノブは冷や汗をかきながら「……では?」


「うむ。一先ず、合格としよう。ホムラを蹴落とすタイプにも見えんしの」


「はぁー、なら良かったです。では、これ以降は黙ってますね」


「ほほ、気配り上手でもあるか。気に入った。では、ユウマ殿。話をしようかの」


 どうやら、シノブは認められたようだ。

 助けようかと思ったが、必要なかったようだ。

 ……全く、良い女だよ。

 さて、次は俺の番だな。


「はい、よろしくお願いします」


「ほほ、思ったより落ち着いておるの?」


「縁がありまして、国王様やら宰相様と、話す機会もございましたので」


「なるほど。あの悪ガキと頭でっかちか」


 国王様と宰相をその言い方!?

 いいのか?


「ほほ。まずは、そこからかの。ワシは、現国王の義理の叔父に当たる。国王の弟が婿に来たのでな。ちなみに、元後見人でもある。奴は早くに両親を亡くしたからの。まあ、我が家もだがの」


「なるほど。理解出来ました。それは、頭が上がらない訳です」


「宰相は、ワシの元部下での。色々と、叩き込んでやったわい」


「それで、頭でっかちですか。なるほど」


 改めて、凄いな。

 国のトップ2人が教え子みたいなものか。

 しかも、本人は公爵家当主。


「ほほ。まあ、普通に話せそうでよかったわい。話が進まんからのう」


「そうですね。では、単刀直入に言います。ホムラを、俺にください」


「な、な、なにを言っておりますの!?」


「ほう?とりあえず、ホムラは黙っていなさい」


「……わかりましたわ」


「では……それがどういうことか、わかっての発言か?」


「ええ。、ホムラを貰うつもりです」


「くく……ハハハ!愉快じゃ!今日はお祝いじゃ!」


「お眼鏡に叶いましたかね?」


「うむ!何通りか考えていたが……どれとも違ったのう。色々、建前をいうかと思っておったわい」


「それも考えましたが……多分これが一番かなと」


「ほほ、良いの。その感覚は大事にしなさい。この政治の世界では、必要不可欠じゃ」


「お祖父様、どういうことですの?」


「うむ。今、ユウマ殿は考えた。この短い間で、ワシがどのような答えを気にいるかを。もし、へりくだったり、うだうだと遠回しに言うようなら、ワシは断っていた。たとえ、


「そ、それはあんまりですわ!」


「ほほ、良いではないか。結果的にはユウマ殿は合格じゃ。よいか、ホムラ。公爵家というのは、それほどの立場なのじゃ」


「……それは、わかっていますわ」


「なら、よい。では、ユウマ殿。どういう状態になるかは、これからだのう。まずは、任務をしっかり遂行するのじゃ」


「はい!必ず任務を果たし、戻ってまいります!」


「ほほ、良い返事じゃ。ホムラ、良い男を捕まえたの?」


「はい!ユウマは素敵な殿方ですわ!」

 

「ほほ、ひ孫は見れるかの?」


「もう!お祖父様!気が早いですわ!」


 こうして、なんとか無事に、公爵家当主に認めてもらうことができた。





 その帰り道に、シノブに聞かれた。


「あのー、どういう状態っていうのは?」


「ああ、あれか。つまり、ホムラと結婚するのは確定としよう。伯爵なら問題ないからな。ただ、それが……俺がホムラを、伯爵家の嫁として貰うのか、それとも俺が公爵家に婿として行くのかということだ」


「え!?団長は、公爵家当主になるんですか!?」


「いや、だから例えばの話だ。それはわからん。今日は、とりあえずホムラを貰うということが、俺は一番大事だったし、あちらはホムラと結婚するに値するかどうかを確かめるのが、大事だったはず」


「あー、なるほど。あの会話には、そんな攻防があったんですねー」

 

「シノブこそ、すごいじゃないか。よく、あの圧に耐えたな」


「へへー、頑張りましたよ!」


「まあ、とりあえずは無事に終わって良かったよ」


 さて、これで心置きなくエデンへ行けるな。










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