第40話家庭教師の授業と再び突撃訪問

カロン王子の突撃訪問から一夜明け、俺は久々の家庭教師による授業を受けていた。


「さて、ユウマ殿。申し訳ありませんでした。まさか、こんなに早く戦争が起きるとは思ってなかったので、教えるのが遅くなりました」


「いえ、お気になさらずに。誰にもわからないですよ」


「ふむ。その辺を含めて、詳しく教えていきましょう。ユウマ殿は、基本的に王都にずっと住んでいますね?」


「ええ、恥ずかしながら。あまり遠くに行ったことはないですね。精々、依頼で国境付近まで行ったことが数回あるだけです」


「この王都は仕事も多いですし、わざわざ出て行く必要もありませんから、仕方ありません。ではそちらの方も、復習の意味も含めて教えていきましょう」


「はい、よろしくお願いします」


俺はノートに、要点をまとめて書きだした。


まずは大陸の6つの国位置関係、関係性、内情など。


この大陸は、丸みを帯びた台形のような形をしている。


まず、我が国デュランは東端に位置する。大きさは2番目だ。


東側は海。西をウィンドル。西南にエデン。北にバルザールがある。


ウィンドルとは、敵対。バルザールとは、友好。エデンとは、友好。セントアレイとは、最近仲が悪い。トライデントとは、大陸の両端にあるのでほとんど関わりがない。


我が国は王政である。そして剣の盛んな国。人間から亜人まで、幅広く住んでいる。


次に、バルザールは大陸の北東に位置する。大きさは1番小さい。


西に魔の森。真南にデュラン。後は海に囲まれている。


国のほとんどが魔の森と海とデュランに接しているので、我が国以外とは関係性はほぼない。


この国は小さい国が、魔の森からくる魔物に立ち向かうためにできた国だ。


8個ある州ごとに長官がおり、国王はいない。8人の話し合いにより決まるらしい。


人間、亜人ともに暮らしている。多種多様な武器を使う。


次に、エデンは大陸の南に位置する。大きさは5番目だ。


東から北にかけてデュランと接している。真北にウィンドル。西にセントアレイ。南は海。


我が国とは友好。ウィンドルとは友好的ではない。セントアレイとも敵対。トライデントとは接していないので、争いこそないが、友好的ではない。


この国は小さい部族の集合体だ。人間に迫害されていた部族が集まり、守るために作られた。


国王は一応いるが、基本的には部族ごとに長がいる。年に1回、国王と長で話し合いがあるらしい。


人間はほぼいない。主にハーフエルフ、ドワーフ、鬼人族、ヴァンパイア族、獣人族だ。


武具は使うが、1番の武器はその身体と特殊な能力である。


次に、セントアレイは大陸の南西に位置する。大きさは3番目だ。


東にエデン。北にトライデント。西に魔の森。南は海。北東にウィンドルと囲まれている。


我が国とは最近仲が悪い。トライデントとは友好。エデンと敵対。ウィンドルとは謎。


人間しかいない。人間至上主義の国だ。この国は回復魔法が盛んである。武器はメイス系。


次に、トライデントは大陸の北西に位置する。大きさは4番目だ。


南にセントアレイ。東にウィンドル。西から北にかけて魔の森に囲まれている。


我が国とは関わりがない。セントアレイとは友好。エデンとは友好的ではない。ウィンドルとは謎。


こちらもどちらかといえば、人間至上主義寄りの国だ。ここは槍と馬。つまり騎馬隊が中心らしい。


次に、ウィンドルは大陸のど真ん中に位置する。大きさは1番だ。


北に魔の森。西にトライデント。南西にセントアレイ。真南にエデン。東にデュランと囲まれている。


トライデント、セントアレイとは謎。エデンとは友好的ではない。我が国とは超敵対している。


この国は未だ謎である。


500年ほど前、大陸のど真ん中に、統一国家の子孫であるウィンドルという魔導王を名乗る者が現れた。


そこは元々作物も育たず、瘴気が溢れ、何もないところだったらしい。


なので人間は住むことはなく、放置されていたらしい。


そこに急に現れたのが、統一国家の子孫を名乗る魔導王ウィンドルという者らしい。


そして何故か我が国にだけ宣戦布告をしてきて、年に2回ほど500年前から戦争を繰り返しているらしい。


何故か我が国とエデン以外には何もしない。


さらにこちらの呼びかけには一切応じない。どの国にも応じない。


だからトライデントとセントアレイとは謎ということだ。


わかっているのは、魔導王という王がいること。その下に召喚士、魔道士、魔法士という階級があること。その国内は、魔の森から召喚された魔物で溢れていること。なので中に入るのは困難であること。


トライデントとウィンドルは自分達は攻められないし、魔の森から魔物が減るので放置している。


そして、その魔の森とは未開の地である。それが、大陸の西側を覆っている。


そこは、魔物がひしめき合う土地。そこに入っていいのは三級以上の冒険者か、それに相当する力量の持ち主かである。


「さて、今日のところはこの辺で終わりにしておきましょう」


「ええ、ありがとうございました」


そして執務室に戻った俺は、習ったことを頭の中で整理していだ


「ウィンドルか……本当になんで我が国だけ執拗に攻めてくるのかね?」


「ええ……あとわたし達の国にも、稀に攻めてきますし」


「バルザールは、国が接していないからまだ良い。だが何故、セントアレイとトライデントには一度も攻め込まない?」


「そうですよねー、一時期噂になったそうですよ?人間至上主義のセントアレイとトライデントが、亜人が暮らす国々を滅ぼすために作り上げた架空の国だって」


「それは……なんとも言えないな。否定もできないし。あり得そうな話でもあるし。馬鹿げた話でもあるし」


「ですよねー。でも実際大まかですけど……トライデント、ウィンドル、セントアレイ対デュラン、エデン、バルザールって感じになってません?」


「まあ、そういう見方もあるな。実際、ウィンドルから被害受けてるのは大陸東側だしな」


俺達がそんな会話をしていると、ノックをしてセバスが入ってきた。


いつも冷静なセバスにしては、落ち着きがない様子。


「おいおい、セバス。まさか、またウィンドルが攻めてきたんじゃあるまいな?」


俺はデジャヴかと思って、冗談を言った。


「いえ、ある意味……それより恐ろしい方が攻めてきました」


「おい、セバス。どういうことだ?」


「伝令が来ました。宰相であるガレス様が、ミストル家当主に、面会をと申し込んで参りました」


「は?えっと呼び出しとかじゃなくて、こっちにくるってことだよな?」


「ええ、そうなります。ちなみに、今日の予定はもうなかったはずなので了承と伝えてましたが、よろしかったですよね?」


「もちろんだ。よくやってくれた。さすがセバスだ。ガレス様がくるくらいだ。よほど重要な案件だろう。ではセバス。出迎えの用意を至急頼む」


「ええ、もう家臣には用意させております」


「いや、ホントにセバスには頭上がらんな。では、この部屋に丁重に案内してくれ」


「はい、かしこまりました」


セバスは部屋を出て行った。


「なんでしょうね?」


「さあ?まあ、ただ事ではないだろう」


そして待つこと、1時間程でガレス様は来た。これは、とても早いことである。


「ユウマ殿、急な訪問で申し訳ない」


「いえ、お気になさらずに」


「ありがとうございます。では、早速本題に入ります。結論から申しますと、ウィンドルはやはり未完成ながらも転移魔法を復活させたようです」


なるほど。これは重要な案件だ。まあ、ガレス様が来るほどとは思わないが。


これからエデンに向かう俺には、真っ先に伝えなくちゃいけないもんな。


「やはり、そうでしたか。仕組みはわかりましたか?」


「詳しいことはわかりません。なにせ、軽く1000年以上前に失われた魔法ですから。ただ、恐ろしく魔力を使うこと。具体的にいうとユウマ殿が10人は必要とのこと。短い距離なら指定できること。成功率が低いこと。長距離は指定できないことなどです」


俺は、かなりの魔力持ちだ。つまり普通の魔法使いなら、30人ほど必要ということか。


「なるほど……。では俺がみたのは、やはり失敗してああなったということですか?」


「推測でしかないですが、おそらく」


「潰れたオークについては、何かわかりましたか?」


「それについては、あくまでも予想ですが仮説を立てました。我が国の専門家が言うには、異次元を通る際に圧に耐えられなかった個体がああなるのではないかということ」


「まあ、結局推測でしかないから、わからないことだらけですね」


「ええ、その通り。ですが、わからないことも含めて手紙を書きましたのでお持ちください」


その後、少しだけ雑談をした。お互いの愚痴やホムラのことなど。


そして疑問に思ったので、聞いてみた。


「しかし、確かに重要な案件ですが、宰相であるガレス様が来るほどではなかったのでは?」


「まあ、確かに。ただ、偶々時間が出来たこと。あと、私がユウマ殿と話したかったのです」


「私とですか?それは一体?」


「いや実は会ったことは何回かありますが、キチンとお話をしたことはなかったなと思いまして」


「ああ、確かにそうですね。いつも、叔父上や国王様と話していましたね」


「ええ。それに、呼び出しては素の貴方は見れませんから。なので、こちらに来たのです。これから、長い付き合いになるであろう貴方を見極めに」


「それは……どういう意味ですか?」


「まあ、色々ですね。ホムラ様とのこと。これから昇進、昇格していくだろうこと。剣聖であるシグルドに、可愛がられていること。国王様は、貴方を気に入ったことなど。私は、この国の宰相です。最悪、貴方がそれで調子に乗るようなら、私はシグルドや国王様の反対を押し切って貴方を潰します」


俺はその気迫に思わず息を呑み、なんとか言葉を返した。


「ええ、そのようにお願いします」


「おや、動じませんでしたね。さすがです。まあ、正直そんなに心配はしていないのですがね。ただ、誰かが言わなくてはなりませんから」


「いえ、わざわざありがとうございます。肝に命じます」


「それなら良かった。来た甲斐がありました。では、そろそろ帰るとしますね」


そうして、ガレス様はお帰りになった。


「はぁーー!最後のあれなんだ?文官とは思えん気迫は!」


「ええ、そうですねー。さすがは宰相様ってことですねー」


「まあ、良いことではあるか。自分の国の宰相様が、しっかりしていて」


「そりゃ、そうですよー」


「ていうか何?最近突撃訪問流行ってるの?まさか次は国王様とか来ないよね?」


「ははは……まさか。どうなんでしょう……?」


「いや……やめておこう。フラグになったらマズイ」


こうして、宰相様による突然訪問は終わった。






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